幹事クリタのコーカイ日誌2006

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4月28日 ● 自分の業界のことも知らない男。

 これまで繰り返し繰り返し何度もMっちゃんが「無知」であることは確かめてきました。とにかく恐ろしいほどに教養とか常識とかが欠けていて、よくそれでコピーライターが務まるものだと、そのたびに嘆息をついてきたのですが、本人はいたって平気なところがまた何ともすごいのです。

 地理を知らず歴史を知らず、落語を聞いたことがないし人気アニメを見たこともない、童話も童謡も覚えていないし、祝日を知らずに出勤するし、子どもの頃の友達の名前も覚えていない、両親の誕生日も年齢も知らない、あまつさえ自分の年齢すら忘れてしまっているという、恐るべき忘却力。そんなにもいろいろなことを知らないで、それでも世の中を渡っていけるんだということの方に感動を覚えるほどです。

 もう長い付き合いで、いい加減Mっちゃんの無知に驚くこともないと思っていたのですが、先日ランチを一緒にした時に、まだそんな「無知の鉱脈」があったのかとびっくりしてしまいました。僕があるクライアントの話をしていたら、Mっちゃんがそのライバル企業を担当していたことがあったので、いきなり「日本だけなんだよ、ライバルの会社を同じ広告代理店が扱うのは。アメリカなんかでは同じ業種の会社は絶対にやらないんだから」と言い出したのです。どうやらつい最近知ったようで、得々と語っています。

 これは「一業種一社」制と言って、例えばトヨタの広告を担当している広告代理店は日産やホンダの広告を担当しないということ。機密保持のために欧米では当たり前なのですが、日本では伝統的に同じ広告代理店がライバル企業の広告を同時に担当しています。それを批判する欧米派の人もいるようですが、一業種一社でなくてもきちんと部署を分けていれば問題ないし、日本人は仕事に対するモラルが高いからでしょうか、特に大したトラブルになることもなくこれまでやってきています。

 こんなことは広告業界にいる人間なら誰でも知っている当然の常識で、今月入社してきた新入社員だって多分知っていることでしょう。例えて言えば「日本のプロ野球は2軍までしかないけど、アメリカでは3AからシングルAまでマイナーリーグあるんだよ」とプロ20年目のベテランがベンチで喋っているようなもので、「あんた一体この業界に何年いるんだよ?」と突っ込まれてしまうところです。

 さらにMっちゃんは得意気に続けます。「じゃあさ、アメリカではクリエーティブと媒体の広告会社は別なんだよ、知ってた?」って、そんなこと言われても「うん、まあ知ってるけど」としか言いようがありません。これは先ほどの「一業種一社」よりは少し難易度が高いかも知れません。それにしたってここ数年の広告業界で話題になっていることですし、知らないなんて「もぐり」だと言われても仕方ありません。

 これまでMっちゃんが無知なのは、彼の生活に全く関係のないことだから知らないのだと思っていました。しかし、それはどうやら我々の好意的勘違いのようです。なにせ自分が長年働いている業界の基礎知識すら欠けているのですから。こうなると単に記憶力が悪いとかいう問題ではありません。最初から脳が知識を得ることを拒絶しているとしか思えません。「一業種一社」なんて絶対にこれまでの仕事の中で出くわしている話題のはずなのに、はなからMっちゃんの脳はインプットすることを拒んでいるのです。

 面白いから今度「広告業界の基礎知識」をMっちゃんに出題して、どれくらい知らないかを試してみようと思っています。きっとまた驚くべき結果が出ることでしょう。


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