幹事クリタのコーカイ日誌1999

 
 11月27日 ● 作詞家・松本隆について。

 BS2で松本隆の作詞家30周年記念のドキュメンタリー番組が放送されました。日本語ロックを追求した伝説のロックバンド「はっぴいえんど」のドラマーにして作詞家、そしてのちの大ヒットメーカー松本隆の30年を丹念に追ったなかなか力の入ったドキュメンタリーでした。

 日本歌謡曲界の二大作詞家と言えば何と言っても阿久悠と松本隆です。例え売り上げ枚数で小室哲哉あたりが抜いたとしても、社会への影響力と寿命の長さ、そして歌詞の質の高さを考えれば、この2人を超えるものではありません。

 僕にとって阿久悠は華やかな大人の虚構の世界を描く作家であり、松本隆はリアルな青春のせつなさを語る作家でした。それはこの2人の作詞世界の特徴であるとともに、彼らが絶頂期にある時に僕が何才だったかということも大きく影響しています。

 阿久悠と言えば沢田研二『勝手にしやがれ』でありピンクレディー『UFO』であり石川さゆり『津軽海峡冬景色』です。ちょうど僕の高校時代にヒットしたこれらの曲は、全て阿久悠独特のネオンのようなきらびやかな色合いを感じます。田舎の高校生の僕は、まさに「ザ・芸能界」というイメージでこれらの歌が流れるテレビを見ていました。

 ところが松本隆は松田聖子『赤いスィートピー』であり大瀧詠一『さらばシベリア鉄道』であり寺尾聰『ルビーの指輪』です。もう大学生になっていた僕には、これらの歌はテレビで見るものではなく、クルマの中で女の子と一緒に聴くものでした。松本隆が描くこれらの世界はリアルさの衣をまとっていました。例えそれがリアルに感じるように作られた虚構の世界であったとしても、自分にとってはかつてない「近い」距離感だったのです。

 番組の中でアグネス・チャンが彼女のヒット曲『ポケットいっぱいの秘密』について語っていました。この歌は初めて自分の言葉として歌うことができた歌だった、周りからアグネスの日本語が理解できると言われた、と。松本隆の凄さはここにあります。彼は「詩」を書く人ではなく「詞」を書く人なのです。音楽に乗せて初めて完成形となる歌詞を計算して作れるプロだからこそ、歌う歌手の言葉として詞が伝わっていき、聴く者にリアルさを感じさせられるのでしょう。

 単純に世界観の提示ということなら中島みゆきだって負けてはいませんし、レトリックの巧みさならユーミンにはかなわないかも知れません。しかし、強すぎるゆえに結局自分で表現するしかない彼女たちの詞の世界に比べ、歌手を生かす詞作りをする松本隆は、まさに名工の巧みさを思わせます。

 原田真二、近藤真彦、中原理恵、C-C-B、斉藤由貴、中山美穂、薬師丸ひろ子、山下久美子、南佳孝、森進一。1970年代後半から80年代前半を彩った歌手たちのヒット曲を手がけた松本隆。それはまさに僕の青春時代とピッタリ重なり合うだけに、余計に番組を見ていて感傷的になってしまいました。特に『木綿のハンカチーフ』を歌った太田裕美にはグッときました。そう言えば山口百恵が引退してからは、しばらく太田裕美フリークでした、僕。アルバム全部持っていたことも白状しときます。

 
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