幹事クリタのコーカイ日誌2008

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7月15日 ● ローリスクな身代金誘拐計画。

 人間誰しも「ショックで何も食べられない」状態を経験したことがあると思います。それが失恋だったり、受験や仕事の失敗だったり、信じていた人の裏切りだったり、まあ理由はいろいろあるでしょうが、とにかくそういうストレスによって「食欲がない」ことはあるものです。ところがMっちゃんは過去にどんなことがあっても食欲だけはなくなったことがないそうです。あの「911事件」「家宅捜査事件」の時ですら、食欲は全く落ちなかったとか。

 ところがそんな図太い、ある意味無神経なMっちゃんが、先日初めて食べられなくなったことがありました。理由は飼い猫の失踪。Mっちゃんは猫好きで、特に一番可愛がっている「ヒノデ」は背中に太陽のような丸い模様がある3才。いつも枕元で一緒に寝ているんだそうですが、そのヒノデが家出をしてしまったらしいのです。

 前夜から調子が悪そうだと少し心配をしていたMっちゃんですが、夜になっても帰ってこないのは初めてのこと。心配で一睡もせずに帰りを待っても戻ってこないし、探しにいってもどこにもいない。翌日会社を午後休して「猫を探しています」というチラシを100枚作って近所を配りながら歩いたそうです。日頃近所付き合いをしない無精者のMっちゃんは全然ご近所さんのことは知らなかったのに、この時ばかりは精一杯愛想よくしてヒノデを見かけなかったか探し回ったそうです。

 ヒノデ失踪以来、Mっちゃんは全く眠れず食欲もなく、口に入れられたのは辛うじてカロリーメイトとウィダーインゼリーだけ。2日間でなんと4kgも体重が落ちたそうです。生まれて初めて眠ることができないまま夜が明けて「日の出」を見てしまったMっちゃんは「これがヒノデからのメッセージか」と思ったそうです。残念ながら日の出は毎日決まって繰り返されているんですけどね。

 次の日も午後休して探し回っても見つからず、最悪の事態も考えていた深夜2時。眠れないのでリビングの電気をつけたら、いつもの指定席にヒノデがちんまり座っていたそうです。戻ってきたことが信じられず本気で腕を抓って何度も夢ではないことを確認したMっちゃんは、生涯でもっとも安堵と歓喜した瞬間だったそうで「3億円の宝くじが100回当たるよりも嬉しかった」と言っています。

 奥さんにも愛人にも家族にも、誰からも一様に愛情が薄い、冷たいといつも言われているMっちゃんが、実は世界中で一番愛しているのは猫だということがわかったわけですが、Mっちゃんにとってそれほど価値のあるものならば、このヒノデを誘拐して身代金を要求すればいとも簡単に成功しそうです。

 3才の猫を誘拐するのは子どもを誘拐するよりもずっとお手軽です。顔を見られても喋ることができないので安心ですし、そもそも猫を誘拐しても殺しても罪の軽さは人間の比ではありません。監禁しておくのも楽ですし、解放するのも簡単。警察も猫の誘拐事件は人間ほど真剣に対応しないと思いますし、3億円100回分よりも価値がある猫ですから、3千万円くらい要求してもMっちゃんは払ってくれそうです。これほどローリスクハイリターンな誘拐はありません。Mっちゃんにそう言ったら「マジにやめて」と言っていたので、成功確率は高そうです。