幹事クリタのコーカイ日誌2008

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7月16日 ● 『CHANGE』の敗因を考える。

 木村拓哉主演のドラマ『CHANGE』が終わりました。いろいろと話題は呼びましたが、視聴率的には20%前後を推移し(最終回は30%近くまで上がったようですが)、キムタク主演のドラマとしては「失敗」だったと位置づけられていると思います。もちろん、これだけ若者のテレビ離れが進んでいる昨今、連続ドラマで20%取れれば本来なら十分なんですが、月9でキムタクだけにそれでは許されないのが辛いところです。ただ、これをもってして「キムタク凋落」とするのは、僕は短絡的だと思います。むしろ『CHANGE』の敗因は他にあったのではないかと考えています。

 そう言うと「ドラマの質が低かったから?」と思われるかも知れませんが、そんなことはありません。脚本、演出ともよく練られていましたし、出演している俳優陣も健闘していました。むしろ出来は良かったと思っています。僕が途中で「志が高い」と書いたように、決していい加減に作ったドラマではありませんでした。じゃあ、何がいけなかったのか?それはマーケットを読み違えたことにあります。

 このドラマを「つまらない」と言っていた人には実は2通りあります。ひとつは「子ども騙しで馬鹿馬鹿しい」と言っている人で、恐らくそういう人はある程度年齢を重ね、実社会でも経験を積み、政治や社会について良く知っている人でしょう。そういう人から見たら「なんて単純でお人好しなドラマだ」と思ったはずです。政治の世界がそんなに甘いわけないだろう、と。そう思って途中で見なくなった人もたくさんいたことでしょう。

 しかし、本来そういう風に思う人は、このドラマのメインターゲットではありません。「子ども騙し」と感じられるのは、ドラマの演説中に朝倉総理が語っていたように「小学校5年生にもわかる」ような政治ドラマを作ろうとしていたからで、このドラマは「子ども騙し」ではなく「子どもに向けた」教育的な寓話だからです。だからこそ、政治の世界をカリカチュアし、単純化し、わかりやすくし、そして「正しいことをしていれば必ず人はわかってくれる」というメッセージを込めているのです。

 じゃあこのドラマを見て欲しかったのは子どもか、というと、そうではありません。もちろん夜9時台のドラマですから小中学生も見ることは考えられますが、あくまでもそれはサブターゲット。そうじゃなくてやはりメインターゲットは20代を中心とした女性です。それは提供スポンサーの広告を見ればわかります。日清のカップヌードル(木村拓哉出演)であり、トヨタのパッソ(加藤ローサ出演)であり、メナードであり、サントリーでありと、広告主のターゲットは明らかに若い女性です。だからこそ、彼女たちが見てわかって面白がってもらえるような政治ドラマを作ろうとしてできたのが『CHANGE』だったのです。

 そう考えればかなり頑張って作ったドラマだとわかります。キャスティング的にはどうしているんだ?と思われる加藤ローサの役割は「視聴者の代表」「今の自分」であり、深津絵里は「視聴者の憧れ」「そうなりたい自分」です。本来ならオジサンばかりになるところを、そこまでドラマの制作者は用意をして20代の女性ファンを掴もうとしました。努力の跡は見えるのです。

 ところが残念なことに、ここにもうひとつの「つまらない」人たちがたくさんいたのです。いくらキムタク主演であっても恋愛ドラマでも家庭ドラマでも会社のドラマでもない、つまり彼女たちの生活とは縁がない政治という最も「遠い」ところを舞台にしたせいで「興味がわかない」と離れていってしまった人たちです。いくら彼女たちに向けて作ったところで、最初から興味がないのですから無理な話でした。食べない餌をつけて釣りをしていたようなものです。食い付くはずがありません。仮に政治に興味があって食い付く人たちがいたら、今度は先述のように「子ども騙し」だと思われてしまうわけですから、これでは視聴率は上がりません。

 このドラマはもう少し別の時間帯、例えば木曜夜10時あたりの枠で、もっと大人向けにしっかりと描いていたら全然違った反応だったと思います。『白い巨塔』『華麗なる一族』の山崎豊子原作作品のように、重厚なタッチで『CHANGE』を作っていたら、逆にその本格的な政治ドラマであるところに若者も食い付いたかも知れません。敗因はキムタクの人気が落ちたからというよりも、企画のミス、もしくはターゲットの読み違えです。最初の企画が間違っていただけで、制作スタッフは頑張っただけに惜しいドラマだったと思います。ただ個人的にはこれくらいライトな社会派ドラマは好みなので、僕としては解散、総選挙後の朝倉啓太の活躍も見たいと思います。ぜひ続編の制作を期待しています。