幹事クリタのコーカイ日誌2008

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1月29日 ● 映画『スウィーニー・トッド』の狂気。

 テレビでの大量宣伝で話題になっている映画『スウィーニー・トッド』。若い女性に人気のジョニー・デップが主演。元はミュージカル。監督は『チャーリーとチョコレート工場』でもデップとコンビを組んだティム・バートン。これだけの要素が揃ってあれほど広告を打っているのですから、ミーハーを引き寄せる要素は十分なのですが、僕はその大量宣伝ゆえに心配をしていました。

 なにせこの作品、かなりグロテスクな内容です。1年前に市村正親と大竹しのぶで上演された舞台を見に行った時も「エグイ内容だな」と思いました。ただ設定はグロながら舞台なら記号的でオブラートに包んだ表現にもなり得ます。演出次第ではグロテスクでもブラックユーモアとすることもできるからです。実際、舞台の宮本亜門の演出も明るくてそれほど陰惨な感じではありませんでした。

 しかし映画はリアルさが違います。監督がカルト志向の強いティム・バートンであり、ジョニー・デップもかなり狂気をはらんだ役者です。単なるブラックユーモアで収まるかどうか。R−15指定とされたことからも、相当に「やっちゃった」映画ではないかと思っていました。

 実際に映画を見た印象は「やっちゃったな」でした。まるで白黒映画かと思わせるような抑えたトーンの中で血の赤さだけが印象的。しかも黒澤映画のように喉から派手に血が噴き出しまくりです。ブラックですがユーモアはなく、ただただ世の中の無常と悲惨さを描き続けます。R−15指定を外して子どもに見せたら気分が悪くなるか悪夢を見ることでしょう。ジョニー・デップ見たさに映画館に来た若い女性たちが蒼ざめた表情で画面を見つめています。映画が終わった時の「しーん」と水を打ったような館内の雰囲気はなかなか不思議な光景でした。

 まあ『パイレーツ・オブ・カリビアン』がジョニー・デップの作品としては異例に「お子様向け」なわけで、本来出世作が『シザー・ハンズ』であるように、基本的には彼もアウトローでカルト志向なんですから、こうなるのも仕方ありません。

 僕の感想としては、ミュージカルなんだからもう少し歌とダンスに力を入れて欲しかったなぁ、と感じた反面、舞台なら聞こえない囁くような声すら表現できる映画だからこそのリアルな手ごたえは、ジョニー・デップの演技力があってこそ。映像はさすがティム・バートンという感じで、暗く狂ったどうしようもない悪夢的な世界を見事に表現していました。好きな人ならこれははまるかも。ただし10人に8人くらいは「気持ち悪い」と思うような気がします。

 大金はかかっていますが、とにかく内容がカルトムービーなので、本来は大量宣伝をかけるタイプの映画じゃないです。でも配給元としては金をかけた分は回収したいですから仕方ないかなぁ。ジョニー・デップはアカデミー賞にもノミネートされているし。A級の顔したB級映画(誉めています)だと僕は思うんですけどね。