幹事クリタのコーカイ日誌2007

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3月29日 ● マナーはルールを上回る。

 春場所千秋楽の朝青龍と白鵬のそれぞれの注文相撲について、僕がここで文句を書いたように、当然マスコミも批判し協会も横審も苦言を呈しました。しかし、世の中には「なんでルールで認められている技を使って批判されるんだ、おかしいじゃないか」という声があるようです。主に若い人が多いと思いますが、あまり相撲に詳しくない人もそう思うかも知れません。

 しかし横綱が引いたりはたいたり、また蹴たぐりをしたりというような奇襲相撲を取ることは「横綱にふさわしくない」というのは相撲という世界全体の了解事項なのですから、それを「おかしい」と外部の人間が批判するのは的外れです。実際朝青龍も白鵬に対して「上を目指す人間があんな相撲を取ってどうするんだ」と言っています。自分のことを棚に上げてとは思いますが、横綱自身もわかっているのです。

 これはルール以前の「マナー」の問題であり、マナーはルールの上位規範なのです。そしてそれこそが相撲という世界の「文化」です。例えばサッカーにおいては審判の見えないところでやる反則はOKという風潮があります。マラドーナの「神の手」を持ち出すまでもなく、審判に見えないところで相手選手の服をひっぱたり押し倒したりは日常茶飯事ですし、日本選手には「マリーシア」(ずる賢さ)が足りないと、よく南米から来た選手が批判したりします。ルールの範囲内であらゆる手を使うのがサッカーというスポーツの「文化」なのです。

 しかし、だからと言ってこのサッカーの文化を他のスポーツに当てはめて良いということではありません。ゴルフはマナーを重んじるスポーツです。たとえ誰が見ていなくとも、自分で自分にペナルティを課しながらプレーするのがゴルフの「文化」です。ゴルフは基本的に自己申告でプレーします。もちろんそれを悪用するようなアマチュアゴルファーがたくさんいるのも事実ですが、少なくともプロはそんな恥ずかしい真似はしないし、バレたら厳しいペナルティを課されるだけではなく、そのゴルファーの評判は地に落ちます。

 テニスもマナーを重んじますが、これはゴルフと違ってもう少し「社交的」なマナーです。ミックスダブルスでは女性に対してボディ狙いのショットはプロでも基本的には打ちませんし、もし意図せずに女性のカラダ付近にボールが飛んでいったら必ず謝ります。コートに同じく入っている以上、文句は言えないだろうという考え方もありますが、やはりこれも「ルール」の上にそいういう「マナー」が存在しているのです。ネットに当たって相手コートに入ったネットインのボールに対しても必ず手を挙げて謝ります。「ラッキー」などと喜ぶのはマナー違反です。ルールの範囲内でのショットでファウルショットではなくても、そうやって相手を思いやるのがマナーであり、それがテニスというスポーツの文化なのです。

 野球で言えばアメリカ大リーグでは点差が大きく開いて試合の趨勢が決まった後に盗塁するのは卑怯な行為、マナー違反だとされています。実際にそれで盗塁なんかしたら観客からブーイングを浴びせられるし、公式記録員は盗塁としてカウントしてくれません。点差が開いていようとなんだろうと盗塁は盗塁だろう、というのは、アメリカ野球の「文化」を理解していない人間の言うことです。そこではそういう共通理解の元で野球が行われている以上、それを尊重すべきなのです。

 異文化を理解し受け入れるということはスポーツに限りません。国際的な紛争の多くは、経済的問題だけではなく、こうした異文化を受容しない狭量さが原因となっていると思われますが、ここではそこまで話を広げるつもりはありません。ただ相撲というのはそもそもの出発点が神事ですし、興行としても長い歴史を持っています。最近考え出されたスポーツではないのですから、近代的合理主義とは相容れない部分もたくさん残っています。例えば女性を土俵に上げないというのも「女性差別」と言われようとも大相撲協会は譲りません。そういう共通理解の元でみんなが参加して相撲文化を作り上げているのですから。

 もちろん、その共通理解があまりにも世の中とずれてしまっていれば協会も改めていくと思いますし、いつか女性を土俵に上げる時もくるかも知れません。ただ「横綱はその地位にふさわしい堂々たる相撲を取るべきだ」というのは、まず変わらないでしょう。それで「反則負け」になるわけではなく、あくまでも精神の問題ですから。

 

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