テレビ朝日系列で放送している『これマジ!?』という番組があります。爆笑問題が司会をしていて、よくある「トンデモネタ」を紹介する番組です。この番組のヒット企画は、「アポロ月面着陸は嘘だった」というもので今年の1月に放送されて、結構反響を呼びました。ネットでもあちらこちらでこの話が話題になり、ちょっと検索してみれば、かなりいろいろな人が当時話題として取り上げていることがわかります。確か4月頃にはアエラで「月着陸の嘘を本気で信じる若者たち」とかいう記事まで出ていた記憶があります。

　もともとはアメリカのテレビ局が作った番組が発端らしいのですが、それまではマイナーなトンデモネタだったものを、 『これマジ!?』で繰り返し取り上げたために、結構日本でも一般に流布したようです。アメリカでは「ケネディ暗殺の謎」と並ぶ陰謀論の定番らしく「NASAの陰謀本」が書店にたくさん並んでいるそうです。

　で、先日、この番組で「最終章」と銘打ってデヴィ夫人（よりによってという人選ですね）がオルドリン飛行士にインタビューをする、という内容の放送をしていました。いや、僕は見ていないのでサイトで確認しただけなのですが、これを見たＭっちゃんが今さらながら興奮してしまいました。どうやら彼はこれまでこの話を全く知らなかったらしいのです。

　ランチタイムにいきなり「知ってる？すっごい面白い情報！アポロの月面着陸は嘘だったんだよ！」と得意気に話し始めたのです。内容についてはテレビと同じなので省略しますが、頭っからテレビを疑うことを知らないＭっちゃんは信じ切って喋り倒します。仕方なく僕がＭっちゃんのテレビの受け売りをひとつひとつ否定していくのですが、なかなかＭっちゃんは納得できません。「どうしてあの番組を見ていない人が否定できるんだよ！」って言われてもねぇ。

　そもそもそんな古いネタを今さら、という気持ちもありますが、面白かったのは一緒に話を聞いていたＹ田さん。彼は最初にＭっちゃんが話し始めたとき、これはネタとして面白いから「こんなバカ番組があったんだよ」というつもりで話しているのだと思っていたのです。ところが途中からＭっちゃんが本気で番組を信じていると気づいて、相当にショックを受けていました。ま、確かに気持ちはわかります。43歳の、一応知性がそれなりに必要な職業に就いている、しかもメディアの裏の裏まで知っているはずの広告屋が、テレビバラエティのネタを信じ込むとは普通思いません。

　「いや、僕だってさすがに最近は心霊写真とか超能力探偵とかは信じてないよ、ちょっと怪しいかなぁ、とか思うけどさ。でもこれは全然違うじゃん、科学的な話だしさ、絶対におかしいよ、説明がつかないことが多すぎるもの」って、最近まで心霊写真とか信じてたんだ、やっぱり。ある意味、テレビ局にとって理想的な視聴者です。

　番組で提示された疑惑を、僕とＹ田さんにことごとく否定されたＭっちゃんは、とうとう自分独自の理論を押し出します。「じゃあさ、どうしてアメリカはアポロをやめちゃったのさ。僕は前から不思議に思っていたんだよ。30年も前に月まで行けたなら、今頃もっとすごいことができていてもおかしくないじゃない。でもそうなっていないのは、嘘がばれそうになったからじゃないのかな。当時の技術で月なんか行けっこないんだよ」

　Ｍっちゃんの頭には宇宙開発がどういう目的で行われてきたのかすら認識されていないようです。ただ単に月に行ければいい、と思っているのです。スペースシャトルのことなんて忘れていますし、宇宙開発にどれほど莫大な金がかかるかもわかっていないようです。費用対効果なんて言葉はどこにもありません。

　「そもそもアメリカなんて大統領を2人も暗殺しているような国だよ、陰謀なんてなんでもするよ！」えーと、アメリカ大統領で暗殺された2人というのは？「ケネディと弟のなんとかだよ」すいません、弟は大統領ではなかったんです。それにリンカーンとか他にも大統領は暗殺されているんですけど。もっと言えば日本でも首相とか大物政治家が何人も暗殺されているし、多分シーザーの昔から世界中で政治家は暗殺されているんですけど。

　「とにかく、アメリカは都合が悪くなると嘘をついてごまかすんだよ、今だってイラクがどうとかみんなアメリカの陰謀じゃない」。ま、これはある一面では的を射ているかも知れません。Ｍっちゃんは時々妙なところから真実を言い当てる能力がありますから。「うーん、誰か番組見ていた奴いないかなぁ。Ｓ井くんとかＨ川くんなら信じてくれるかも」いや、彼らも良い迷惑だって、そんな風に思われてもさ。

　最後にＭっちゃんとその仲間（？）たちのために、「月探査情報ステーション」というNASDAのサイトの該当ページへリンクを張っておくので、ちゃんと読むように。疑惑の答えは全て書いてあるから。

人類は月に行っていない!?