メルボルン特別合宿レポートその2
〜混迷邂逅篇〜


その1〜困惑出発篇〜へ

Jan.21(wed)

12:30 ショウアンハイツアパートメントホテル

我々四人組はようやくのことでメルボルンでの拠点となる「Shoan Heights Apartment Hotel」に到着した。ここは、ヒロさんが手配してくれたのだが、日本語でスタッフが対応してくれるし、NHKの国際放送も見られるし、日本語のサイトまであるということで、日本人がメルボルンで過ごすには手頃な宿だ。キッチン付き、電気釜付きの部屋もあるので長期滞在にはうってつけだ。全豪オープン関係の日本人も良く宿泊しているらしい。メルボルンに行く予定のある方、是非お勧めです。

ホテルに入るとフロントで東洋系の女性が電話で話している。電話が終わったところで「こんにちは〜!」と声をかけると「いらっしゃいませ」と日本語で答えてくれた。どうやら彼女こそリーダー川上が前日メールでやりとりした“りんちゃん”らしい。なかなか可愛らしい子だった。チェックインを済ませて、ふと見ると「全豪オープンチケットあります」の張り紙。りんちゃんに「今夜のナイトセッションに行きたいんだけど、チケットある?」と聞いたら、ホテルにはないがJTBで扱っているから問い合わせてみたら、とのこと。日本語で対応してくれるらしい。りんちゃんにJTBの電話番号を教えてもらって、とりあえず部屋に入る。リーダーはりんちゃんのことをとても気に入ったようだ。

部屋はツインもしくはダブルなのだがシングルユースにした。4泊もするのだからシングルの方が気兼ねせずに楽だ。ルームチャージなので料金は倍になるが、それでも平均年齢39才のオジサン四人は個室に拘った。まあ誰しもうみりんの「ポン」にマンツーマンディフェンスしたくない、ということもある。部屋は栗田が202、川上209、海野102、工藤409とフロアもバラバラ。これは同タイプの部屋にしてもらうためだ。他の部屋は「アパートメントホテル」の名の通り、キッチン付きの家族向けだからである。

エドちゃんの部屋だけツインだということなので、とりあえず荷物を置いたらエド部屋に集合。まずお金の精算。今回現地豪ドルへの両替をエドちゃんが担当したので、その精算をする。お札がたくさんあるのに興奮したエドちゃんは、恒例のティッシュ撒きの代わりに豪ドル撒きを披露。目が血走っていて怖い。次にJTBに電話をしたのだが、なぜか部屋から外線が通じない。栗田、そして川上が試してもダメ。諦めてフロントに尋ねることに。

とりあえずお腹も減ったことだし、散策を兼ねてランチに出よう、ということになる。まずフロントに。りんちゃんがいない。白人男性ボブだけだから仕方なく英語で「JTBにかけたけど通じない」というようなことを伝えたら、彼がJTBに電話をしてくれた(実はボブは日本語も話せたのだ。後でそれが判明した)。電話の向こうは日本人と思われる女性だ。「今夜のチケットが欲しいんだけど、ホテルまで持ってきてもらえるか?」と聞いたら「私しか事務所にいないので無理。コリンズストリートにオフィスがあるので、トラム(路面電車)に乗って来てくれ」と言われる。場所を確かめると、全豪の会場よりも遠いくらいだし、方角も反対なので、だったら会場に行って買おうということで断った。この判断は正解でもあり失敗でもあった。それは後々判明する。

さて、出かけようかという時にりんちゃんが出てきた。「今日はもう上がりま〜す」ということだ。りんちゃんは毎日来ているの?と聞いたら「週に3日です」ということだったので、またね、と手を振った。しかし、実はこれ以降りんちゃんには会えずじまいだったのだ。まさかあれが永遠の別れになろうとは。


13:30 チャイナタウンでランチ

 

ホテルは中華街のはじにある。りんちゃんに聞いたように、坂を下って中華街の中心に向かって歩くと、いくつもの店が軒を並べている。さて、どこで食べようかといろいろ覗きながら歩いていく。そこかしこに異国情緒が漂うスポットがあるので、川上くんがデジカメで撮影。しかし、撮るのはここでも相変わらず風景ばかりで、我々を写してくれる気はないようだ。仕方なくこちらから「川上くん、ここで撮ってよ」と注文を出して何とかカメラマンにする。まあマイペースもここまでくるとある意味凄いとは言える。

チャイナタウンは意外に広い。その中心あたりにあったフードコートでランチにする。中華以外にも韓国料理、タイ料理、寿司、イタリア料理などが並ぶ中から、タイ料理のランチプレート6ドル80セントを選択。ヌードルもしくはライスにおかずを3品つけてくれるということで、各自好きに盛り合わせしてもらう。ボリュームたっぷりで味もまあまあだったので、これならホテルからも近いしまた来よう、という話になったが、結局これっきりになってしまった。その後、スーパーマーケットで買い出し。水やらビールやらお菓子やらを買ってホテルに持ち帰る。

17:00 全豪オープン会場へ

各自部屋で1時間ほど休憩した後、ホテルのロビーに集合していよいよ全豪オープン会場へ。トラムで行こうかタクシーで行くか迷ったが、トラムの乗り方がいまいちわからなかったので、確実なタクシーにしようということに。大通りでタクシーを拾う。助手席には例によってリーダー川上。「全豪オープンテニスにいってくれ」と言うと、タクシーはすいすい走り出した。しかし、栗田の頭の中にある地図と道が違うような気がする。少し不安な思いを抱きながら乗っていると、いきなりタクシーの運転手が信号待ちの時に道の真ん中で「ここで降りて、その橋を渡ると会場だ」と言う。正面につけず、真裏に連れてこられてしまったようだ。仕方なく後部座席の三人はタクシーを降りる。リーダーは慌てて財布を取りだしてお金を数え始めるが、信号待ちで止まっていただけなので、信号が変わってタクシーは走り始めてしまった。我々三人が見守る中、タクシーの助手席に乗って不安そうな顔をして連れ去られていくリーダー川上。ああ、哀れメルボルンの地で彼は彷徨う旅人になってしまうのか。

拉致されていった川上くんを我々が腹を抱えて笑いながら見送った後、「さあ行こう行こう、きっと何とか戻ってくるよ」と言って歩き去ろうとした時、彼は帰ってきた。タカ・カムズ・バック!ちょっと離れた信号のところで止まったタクシーから降りて、脱兎の如く走って戻ってくる。しかし、我々の立っている歩道と川上くんのいる車道の間には無情の金網。「ああ、どこからそっちに行ったらいいんですか?」と悲鳴を上げる川上くん。落ち着けよ、すぐそこに金網の切れ目があるだろう。僕らだってタクシー降りて数メートルしか歩いていないんだから。「ひどいじゃないですか、置いてくなんて」とハァハァ言いながら文句を言う川上くんに、腹を抱えて笑い転げる三人。マジに置いていくわけないのに。タクシー代は5ドル余りだったので、やはりトラムに乗るよりも安い。四人で良かった!

鉄道の上をまたぐ橋を越えると、向こうには会場で二番目に大きなボーダフォンアリーナの雄姿がそびえ立っている。会場内の地図も持っていない準備不足の我々は、さてどこに行けばいいのかといきなり迷子。係員に聞いたところ、ぐるっと回ったところにチケットブースがあるとのこと。おいおい、タクシー、本当にちゃんと正面に着けてくれよ。随分歩かされるじゃないか。さすがに真夏のメルボルン、日差しは厳しい。もっとも乾燥しているので日本の、特に名古屋の夏のように汗がダラダラと流れ落ちるということもなく、爽快ですらある。天気も良いし、いいとこじゃん。

ようやくチケットブースを発見。近づくと空港のタクシー乗り場と同様にここでもどの売り場に行けと指示するオジサンが立っている。最初に彼に5番売り場に行けと言われたので素直に並ぶ。すぐに順番が回ってきた。「ナイトセッションのパスが欲しい」と言ったら、いきなりマイク越しに彼女がマシンガンのように喋り始めた。今から思い返せば多分以下のようなことを言ったのだと思われる。「ロッドレーバーアリーナ(センターコート)のナイトパスはもう売り切れてないのよ。でも入りたければ、他にボーダフォンアリーナのパスもあるし、このスケジュール表を見て好きな試合を選んでちょうだい。そうすればそれが見られるチケットをちゃんと売ってあげるから。」しかし、英語の壁にぶち当たっているバカ四人は最初の「ナイトパスがない」という言葉だけでショックを受けてしまい、後は何を言われているのかもよくわからず、どうしたらよいかパニックを起こしてしまった。ああ、どうして面倒でもJTBで買っておかなかったのだろう。日本人の女の子が優しく売ってくれたのに!つくづく高くそびえるバカの壁。

とりあえずどの試合を見るか、といきなり聞かれても四人の意思統一も図れていないので即断できない。仕方なく一度ブースを離れて出直すことに。「どうする?」「うーん、いきなりどれが見たいと言われてもなぁ」「今日はやめるか?」「でもヒロさんとは会場内で待ち合わせだから、入らないと仕方ないんだよ」そう、ヒロさんとの待ち合わせは夜7時半に会場内のスコアボードということになっている。ヒロさんに会わない限り、明日からのチケットも手配をお願いしてあった携帯電話も入手できない。何としても会場内に潜入するしかないのだ。

「よし、もう一度聞いてみよう」ということで、改めてブースに突撃。また来たのか、という目でオジサンに見られながら、今度は2番に行け、と言われる。改めて「ナイトセッションのパスをくれ」と言ったら、今度の彼女は「アリーナか、アラウンドのパスか?」と聞いてきた。みんなはわからなかったようだが、栗田だけはその言葉で理解できた。そうか、ナイトセッションのパスと言っても種類があるんだ!すかさず「アラウンドパスを」と言ったら、「OK!四人だね?じゃあ60ドル」と言われて、栗田が慌てて80ドル出したのを20ドル戻してくれながらパスを4枚渡してくれたのだ。ほーっ。無事にこれでパスをゲット!良かった良かった。

「おれたち本当にバカの壁に何回もぶち当たっているよなぁ」と言いながら会場内に入る。確かにチケットも満足に買えないなんて情けない。リーダーはアメリカで3ヶ月の長期出張をした経験もあるんだから、もう少し英語できると思ったのになぁ。もっとも中に入っても、今度はヒロさんの言う「スコアボード」なるものがわからない。ロッドレーバーアリーナの正面には今日の試合がでかでかと表示されている。これか?でもスコアボードではないな。男女のシングルスのトーナメント表が大きなボードになっている。これのことか?うーん、ドロー表はスコアボードとは言わないなぁ。と迷いながら会場をウロウロするバカ四人。とにかく歩いてみようと移動していく。

マーガレットコートアリーナ(3番目に大きなコート)の横から階段を下りていき、グランドコートが並ぶあたりを「誰が試合をしているんだろう?」と覗く。四面使って途中経過を表示しているボードがあったので、それを見てナブラチロワが日本の岡本/竹村組と女子ダブルスをやっているのを知った。行こうと思う間もなく完敗。あらら。とりあえずグランドコートを歩いてみようと思って移動を始めたら、いきなり「あ、栗田さん!」と声をかけられた。その顔はサイトで見知っているヒロさん。まだ待ち合わせには1時間以上時間があったのだが、偶然にも会うことができてしまった。「いやぁ、工藤さんの顔を見てあれって思って、すぐにわかりましたよ」とのこと。ヒロさんは真っ黒に日焼けしていて精悍な顔立ちをしている。思っていたよりも背も高そうだ。「ヒロさんの言っていたスコアボードってわからなくてウロウロしていたんですよ」「あれ、わかりませんでした?そこにあったでしょう」と言われて瞬時に理解できた。さっき見ていた四面のボードだ。なるほど、あれか。もっと大きなものを想像していたのでわからなかった。やはり海外に来ると平常心を失っているのか、どこか勘が悪いな。

それにしても一度も会ったことがない人が、自分たちの顔を知っている。すれ違っただけでわかる。インターネットの威力をまざまざと見せつけられた気がした。こういう時は良いけど、犯罪に使われる可能性もあるわけで、この力は怖いとも思う。

ヒロさんはまだ用事があるので一時間後に、ということで別れて、僕たちはヒロさんお薦めのキーファー/シュトラー組の男子ダブルスを見に行くことに。相手は地元オーストラリアペアということで、グランドコートの割には観客はいっぱい。ドイツ対オーストラリアだ。ドイツペアがポイントを上げると、ドイツ国旗をかざすオジサンがいる。ドイツファンか?(と思ったら違ったことが後日判明する)。うーん、盛り上がっているなぁ。さすがに世界のトッププロだけに見応えのあるダブルスだった。シュトラーは昨年日本のトーナメントで優勝しているトップ10プレーヤーだが、ダブルスに関してはペアのキーファーの方が上手いようだ。間近でこんな有名な選手の試合を見られるなんて、さすがにグランドスラムと感動してしまった。

試合をやっている横のコートでは、ナブラチロワが練習をしていた。練習なのに観客が多い。かなりハードに練習を続けるナブラチロワ。先ほどまで日本のペアと試合をしていたはずなのに。物足りなかったのだろうか?まあスコアからするとかなりあっさりした試合だったみたいだからなぁ。それにしても47才であれだけのボールを打てるとは、恐るべしナブラチロワ。

19:00 セントキルダへ

キーファー/シュトラーの試合が終わったところで、近くにいたヒロさんと再会。あらかたグランドコートの試合も終わりかけていたので、今日はまあこれくらいにして食事に行きましょう、ということになる。ヤナ川沿いに駐めたヒロさんのクルマまで会場から10分ほど歩く。リバーサイドは実にキレイに整備されていて、散歩をしたいりジョギングをしたりして楽しんでいる人たちが多い。ヒロさんの話では、みんな5時には仕事を終えて、それからのんびりとプライベートな時間を楽しむそうだ。豊かな暮らしというのはこういうことを言うんだろう。残業ばかりの毎日で家に帰って寝るだけ、というのは決して豊かな人生ではない。

ヒロさんのクルマに乗り込んで、一路セントキルダへ。メルボルン郊外にあるこの街は、海辺のお洒落な住宅地として知られているそうで、センスの良いレストランなども並んでいる。その中の一軒「riba」にクルマを駐める。海の向こうにメルボルンのシティが見える。夕暮れ時、確かにお洒落で気持ちが良い。記念に写真を撮影。店内に入ると、ヒロさんが交渉してくれる。ああ心強い。バカ四人ではとてもこんな店には入れない。とりあえず席を作ってもらうまで、ビールでも飲みながら待ちましょう、ということになる。ベランダでビールを飲みながら海風に吹かれる。最高。とりあえずヒロさんから全豪のチケットと携帯電話を二台受け取る。一台は新規購入、一台はヒロさんの使っていたものをプリペイドにしてもらった。これでリーダーがどこかに行ってしまっても安心だ。ヒロさんにチケット代と携帯代を払って、店内に入り食事。

折角だからオージービーフを食べよう、ということで、栗田・工藤・川上はステーキに、うみりんだけは魚にする。確かに海辺だし魚介類も美味しいかも。五人で賑やかに食事。エドちゃんがJ-tennisのサイトを読み込んでいて、いろいろマニアックな知識を披露するのでヒロさんがビックリしていた。どれだけ距離があってもネットがあるだけで、知り合いになれる時代に乾杯だ。お陰で我々もメルボルンに来られたし、と言うとヒロさんが「本当に来るとは思わなかった」なんてことを言う。がっくり。まあそうかな。本当にメルボルンまで行くとは自分たちでも思わなかったよ。

たっぷりと食事をしてお茶を飲んで、五人で約208ドル。雰囲気も良いし安いものだ。外に出るとすっかり暗い。残念ながら雲が出ていてい南十字星は見えなかった。さて、帰ろうか、という時にまた事件が。ヒロさんのクルマはワゴンタイプ。荷物はリアゲートを上げて出し入れする。ヒロさんがリアゲートを降ろそうとした刹那、何を考えたのかリーダー川上が頭を荷室に突っ込んだのだ。「グォン!」という派手な音が夜空に響く。思いっきり後頭部を打ちつけられたリーダー。あまりの衝撃音に周りの誰もが凍り付くほどだったのだが、リーダーは「いったぁ〜」と言うだけで平気そう。みなが「大丈夫?血は出てない?かなり強く打ったよ」と心配するが、本人は「大丈夫、大丈夫」と言って笑っている。いや、びっくりした。それにしてもどうしてあそこで頭を突っ込むんだ、リーダー。危うくヒロさんを殺人犯にしてしまうところだったじゃないか。ヒロさんもかなり驚いた様子。いきなり「川上ワールド」に巻き込んでしまって申し訳なかった。

ホテルへの帰り道、ヒロさんはF1オーストラリアGPのコースを通って帰ってくれる。湖に沿ったコースだ。これも良い思い出になりそう。今度F1を見たら思い出そう。エドちゃんが「オレはあそこを走ったんだぞ、って威張りますよ。運転したわけじゃないけど」と言っていた。ホテルの前までヒロさんに送ってもらう。明日ヒロさんも全豪会場に行くということなので、また会えるかも。

23:30 ホテルにて

すでに深夜。ホテルはセキュリティがしっかりしていて、夜9時以降は部外者は入れない。ルームキーについているチップをパネルに通すと入口が開くようになっている。我々は毎晩お世話になった。エドちゃんの部屋に集合して、今日使ったお金を精算。さらに川上くんが苦労して持ってきたパソコンを接続する。モデムは日豪の規格に関係なくちゃんとつながる。リーダーの二晩にわたる徹夜はなんだったのだ?

ネットにつないだら、ATCの伝言板に書き込み。さらに明日の全豪の試合スケジュールを確認する。ロッドレーバーアリーナではサフィン、クリスターズ、ヒューイットらが登場するが、日本人的な目玉は杉山と小畑の直接対決かな?浅越・小畑の女子ダブルスもあるし。うみりんと栗田が二人でどの試合を見に行こうか盛り上がっていたが、リーダーはあまり興味なさそう。財布の中の小銭を数えている。エドちゃんはすでにパジャマで眠りかけている。まあ飛行機の中で3時間くらい寝ただけだからね。と言うことで、明日朝の集合時間を決めて12時過ぎに解散した。もっとも栗田は日本時間で夜10時になんて寝られるわけがないので、部屋でテレビを見ながら2時過ぎまで起きていたけど。

いよいよ明日はフルに全豪オープンを満喫するぞ。

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