メルボルン特別合宿レポートその1
〜困惑出発篇〜


Jan.20(tue)


17:30 川上くんの家の前

エドちゃんは仕事を終えて夕方5時半、川上くんのアパートの前で待っていた。一応約束は5時45分。しかし、少しでも早く名古屋空港に行きたいエドちゃんとしては、川上くんが急いで会社から戻ってきてくれるのではないかと期待して15分も前に来ていたのだ。

そこへ川上くんが戻ってきた。エドちゃんは「おおっ、川上さんエライ」と思った。「5分で降りてきてくださいね」そう伝えたエドちゃんが、次に川上くんを見たのは20分後、5時50分のことだった。 荷物取ってくるだけで、どうして20分もかかるんだ!エドちゃんの怒りはもっともである。

この一見些細な出来事が、今回のメルボルン合宿全てを通じて繰り返されるのだとは、さすがのエドちゃんと言えども想像することはできなかった。

18:30 名古屋空港・出発ロビー

栗田が家族を連れて待ち合わせ場所の名古屋空港国際線出発ロビーに到着した時、すでに工藤・川上は来ていた。もっともほんの1、2分の差だったようだ。そして今回航空券の手配をしてくれたまさちんが、見送りにわざわざ来てくれていた。

栗田がヒロさんのお土産にと買ってきた名古屋銘菓「坂角のゆかり」をエドちゃんのトランクに入れ、川上くんが遅れた話をひとしきり聞く。「いや、モデムの設定ができなくて2日間徹夜だったんで荷物の整理が終わってなくて」と言い訳する川上くんに、エドちゃんが「誰が悪いんですか?それは僕が悪いんですか、それとも川上さんですか?」と厳しく突っ込む。

川上くんはオーストラリアでは使えるモデムが日本とは違う、という話をビックカメラの店員から聞いて、わざわざオーストラリア用のモデムを購入、その設定に丸二日を費やしていたのだ。しかし、わざわざパソコン持っていって何をしようというのか、その目的がわからないし、なによりモデムが違うって、ホント?と思ってしまう。エドちゃんが「栗田さん、川上さんは昨日ホテルにメールを送ってモデムが使えるか聞いたらしいですよ。そうしたら“りんちゃん”って子から大丈夫だろう、ってアバウトな返事が日本語で来たらしいですよ」と告げ口。ふーん、まあ日本語が使えるスタッフがいるホテルってことだけは確かみたいだね。モデムの話はどうでもいいけど。

まさちんが「あちらで搭乗手続きを」と言う。我々は揃ってオーストラリア航空のチェックインカウンターへ。荷物を預けて座席を確かめようとした時、まさちんが「ぬっ」とカウンターの女性の前に顔を出し「なるべく良い席にしてあげてね」と言う。カウンターの女性たちは一斉に「ああー、近藤さん、お久しぶりです〜」と歓声を上げて近づいてくる。どうやらグランドホステス歴8年は伊達ではないらしい。名古屋空港ではまさちんは「主」のようだ。

まさちんのお陰で座りやすい席を手配してもらい、ケアンズで合流するうみりんとも、それ以降の飛行機の座席を近くにしてもらう。まさちん様々だ。

いよいよ出国手続きへ。見送りと別れて手荷物チェック。ところが栗田・工藤がすんなり通ったのに、川上くんが引っかかってしまう。いつもの黒いウィルソンのリュックを開けられて中身をチェックされ、再び検査。じりじりとしながら待つ栗田・工藤。まだ見送りのまさちんたちがすぐそこで心配そうな顔をして見ている。エドちゃんがまさちんにジェスチャーで「川上×」と知らせる。

手荷物が多すぎて、しかもパソコンまで持ち込もうとしている川上くんが引っかかるのはある意味当然。もう少し整理すべきなのだ。10分は待たされたろうか?ようやくパスした川上くん。本人は「どうして僕が引っかかるんですか、おかしいですよ」などとブツブツ呟いているが、悪いのは誰ですか?というエドちゃんの突っ込みが厳しい。

19:55 日本出国

手荷物検査は手間取ったものの、出国手続きは簡単に済んで、空港の免税店で早速お土産を購入。いよいよオーストラリアへ旅立ちだ。
成田から出発のうみりんからも「順調」というメールが入る。無事にケアンズで合流できると良いが。

機内に乗り込む。非常口横の機内右側の座席。川上くんは一人で通路側、栗田・工藤は川上くんの後部に二人で並ぶ。その様子は「キング」川上とお付きの者のようだ。隣の窓側座席が空いていると見るや、いきなり窓側に移動して窓外の風景を嬉しそうに見る川上くん。やおらカメラまで取り出して撮影だ。お前は子どもか!

いよいよ飛行機が飛び立った。これから約7時間のフライトだ。眠れるだろうか。川上くんは靴を脱いで自分の座席の下に押し込む。リュックを隣の座席の下に押し込む。つまり、僕の足元に川上くんの靴が、エドちゃんの足元にリュックがあるわけだ。おいおい、それはルール違反だろう。自分の足元におけよ、川上くん。我々でなかったら怒られてるぞ。

次に川上くんはテニス雑誌を読み始める。そんな雑誌をわざわざ持ってきているから、荷物が多くなりすぎてチェックで引っかかるんだよ!思わず後ろの二人は突っ込みを入れる。本当に「唯我独尊キング川上」である。

飛び立ってすぐに夕食が出る。食べ終わって栗田と工藤が話していると、すでにキングは夢の中。爆睡中である。どこが「不眠症だから寝られない」だ。頼みもしないモデムの設定で二日間徹夜だった疲れが出たのだろうが、呆れてしまったお付きの二人だった。


Jan.21(wed)

4:00(ケアンズ時間) ケアンズ空港到着

川上くんは爆睡、栗田と工藤も2時間くらいは寝たところで、いよいよケアンズが近づいてきた。悠然としている川上くんに、栗田が「まるで三蔵法師のような優雅さだ」と思い、「チーム三蔵法師」というのはどうだろう、と思い立つ。なにせ猪八戒うみりんと沙悟浄エドちゃんがはまり過ぎ!孫悟空クリタはイマイチだけど。川上くんは自分が三蔵法師と言われて満更でもない様子。いや、何もせずに悠然としているからそう思っただけで、別に誉めてないけど。

国際線はケアンズで終わり、国内線に乗り換えることになる。つまり入国手続きがあるわけだ。機内で三蔵法師持参の「地球の歩き方」を参考にしながらオーストラリアの入国カードを記入する。合っているのかイマイチ不安だ。なにせ三蔵法師が手本を書いたから。

ともかく飛行機はケアンズ時間(日本との時差1時間)で朝4時にケアンズ国際空港に到着する。入国手続き。比較的前に並んだ我々だが、グループ毎に入国審査をしているので、全員まとめて呼ばれる。「三人のグループか?」と聞かれて、エドちゃんが思わず「いや、もうひとり成田から来る」などと余計なことを言ったものだから、話がややこしくなってしまった。

早口の英語で質問をされてもよくわからない三人。バカ三人衆に呆れたのか、審査官は「お前たちのリーダーは誰だ?」と聞く。「リーダー?」思わず顔を見合わせる三人。次の瞬間、真ん中にぼんやり立っていたキングこと三蔵こと川上くんを指す両脇の二人。「お前がリーダーか?ふんっ」という感じでスタンプをパスポートに押す入国審査官。“リーダー川上”誕生の瞬間である。


5:45 ケアンズ空港出発

入国したところでまず国内線の搭乗手続き。荷物を預けると「シドニー?」と係員のおっちゃんに聞かれたので「イエス!」と陽気に答える。しかし、このまま意気揚々と立ち去ったのが後で失敗だったと知る三バカである。

うみりんの飛行機は4時30分にケアンズに着く。5時過ぎまでは待つが、それ以上になったら国内線に移動するから、と言ってあるので、とりあえず出口でぼんやりとうみりん待ち。次々と人が出てくるが、うみりんは出てこない。川上くんは先ほどから空港内の風景ばかり撮っている。5時15分。さすがにこれ以上は待てないと三人は国内線ターミナルへ徒歩で移動。シャトルバスもあるそうだが、歩いても5分くらいと聞いていたので、のんびり熱帯のケアンズを感じながら歩くことにした。

外はしとしとと雨が降っていたが、国内線までずっと屋根があるところを歩いていけるので問題はない。途中で記念写真を撮りながら行くと、夜が少しずつ白みはじめてきた。ケアンズの朝焼けだ。それにしても遠い。5分以上たっぷり歩いてもまだ着かない。10分近く歩いたところで、ようやく国内線のカンタス航空出発ロビーに着く。またもリーダー川上が手荷物チェックで引っかかっていたが、もはや待っている方も慣れっこだ。

国内線に乗り換えて、機内に三人並んで座る。5時30分。まだうみりんは来ない。「こりゃ間に合わないかなぁ」と諦めムード。

その頃。うみりんは焦っていた。うみりんの飛行機はほぼ定刻通りにケアンズに着いていた。しかし、うみりんはオーストラリアの入国カードを記入していなかったので、空港に着いてからカードを書き始めたら、入国審査が乗客の一番後ろになってしまっていたのだ。

なぜ、うみりんはカードを機内で書かなかったのか。実は名古屋組の乗ってきたサービスの悪いオーストラリア航空と違って、うみりんのカンタスは機内サービスでお土産もくれる。うみりんはペンを持っていなかったが、そのお土産の中にペンと思われるものがあったので、これでカードを書けばいいやと安心し切っていたのだ。

着陸30分前になった頃、おもむろにそのお土産を開けてみたうみりん。なんと、ペンと思っていたものは歯ブラシだった!焦るうみりん。ペンがない。しかし着陸態勢に入った機内で、スチュワーデスを呼んでペンを貰うのも憚られる。えーい、空港に着いてから書けばいいだろう!

と言うことで、最後尾に並んで入国審査を受けるうみりん。時刻は5時30分。名古屋組が機内に乗り込んだ頃だ。パスポートと一緒に国内線の搭乗券も見せたところ、入国審査官の顔色が変わった。出発まで残り15分。「ワオ!」そう叫んだ審査官は「ハリー・アップ!」とうみりんに告げるとともに、トランシーバーを使って空港の係員に連絡。そこからはバケツリレーだ。

税関も全部すっ飛ばして通してもらい、トランシーバーを持った係員たちが次々と現れては「急げ」とうみりんを走らせる。まだ日本の冬服のまま、気温30度、熱帯の夜明けのケアンズ空港を駆け抜けるうみりん。果たして間に合うのか?荷物は重いぞ、ジャケットは暑いぞ、国内線は遠いぞ、うみりん!

5時40分。名古屋組は奇跡を目の当たりにした。全員着席し、うみりんの座席だけがぽっかり空いた機内。そこに見慣れた猪八戒顔が前方から乗り込んできたのだ。額には玉の汗。スチュワーデスが笑顔を見せながらうみりんを席まで誘導する。「You're the lastman!」スチュワーデスに言われたうみりん。しかし何を勘違いしたか、うみりんは「no,no!」と無意味な受け答えをしながら着席する。ようやく「チーム三蔵法師」も全員集合だ。笑顔を乗せて飛行機はケアンズの空に舞った。空はすっかり白み、うみりんはホッとして後席に座る三人を振り返った。爆睡していた。だって眠かったんだもん。

10:30(シドニー時間) シドニー空港出発

シドニーは本来ケアンズ同様に日本との時差は1時間だが、夏はサマータイムを採用しているためさらに1時間の時差がある。日本時間7時30分、川上くんお得意のシドニー時間(こちらを参照)で9時30分、シドニー空港に到着。

さて、ここで我々「チーム三蔵法師」に降りかかった難題は「果たして荷物はどこで出てくるのか?」ということだ。ケアンズでの乗り換えの際に「シドニー行き」としか係員に告げていないし、その搭乗券しか見せていない。だとしたら、我々の荷物はここで一旦出てきて、改めてまた搭乗手続きをしなければならないのか?でも普通のトランジットなら目的地までは荷物も一緒に運ばれるはずだ。だったらメルボルンで出てくるのか?わからない。わからない以上、搭乗ゲートに向かわず荷物を取りに行くしかない。相変わらず人を撮らずに風景ばかり撮っている川上くんにエドちゃんが声をかけ、ようやく動く歩道を行く三人を走って先回りして撮影するリーダー川上。さすがリーダー、頑張れリーダー。

で、肝心の荷物だが、いくらたっても出てこない。回り続けるベルトコンベアーを眺めながら、四人は結論を出した。全員の荷物が出てこない以上、これは間違いなくメルボルンに行ったということだ。当然の論理的結論である。10時10分。我々は見切りをつけて改めて搭乗ゲートに向かった。まあ時間はロスしたが、特に待ち時間にやることがあったわけじゃない。ちょっとしたバカの壁にまたぶち当たっていただけさ。

10時30分、予定通りシドニー空港出発。目指すはいよいよ目的地メルボルンだ。っていうかぁ、まだ着かないわけ?もう疲れたよ。

12:00 メルボルン空港到着

と言うことで正午、でも日本時間なら朝10時。ようやくメルボルン空港に我々は到着した。昨日夕方5時半から数えて16時間半。長い長い旅だった。無事にメルボルンで荷物を受け取り、タクシー乗り場に向かう。空港からホテルまでタクシーで30分、30ドル余りだと「地球の歩き方」には書いてあった。四人ならタクシー1台で済むからお得である。四人バンザイ!

タクシー乗り場にはずらりとフォード車が並んでいる。早速先頭車両に乗ろうとしたら、タクシーの運転手に「四人か?」と聞かれる。見ればわかるだろう、四人だよ、四人、早く乗せろや。「No!」 なにぃ?貴様日本人だと思って乗車拒否か?日本人をなめてんのか?金なら出すぞ、この野郎!と思ったら、どうも荷物が大きくてとても四人は乗せられない、ということらしい。ほら、川上くんがそんな大きなスーツケースを持ってくるから。ダメじゃん、リーダー。どうすんだよ。バスでシティに向かうのか、それとも二台に分乗するのか?

そうやって困惑していたところに、大きなワゴンタイプのタクシーが登場。どうやらタクシー乗り場を仕切っている「タクシーコントロール」のゼッケンをつけたオジサンがトランシーバーで呼んでくれたようだ。なんだ、そういうことか。やれやれ。

荷物を載せて、後ろに孫悟空、沙悟浄、猪八戒。ほら、三蔵法師は助手席に乗ってタクシーの運転手にホテルを説明しなよ。「ええっ?どうして僕が?」そりゃリーダーだからだよ。と言うことで、リーダー川上、四苦八苦しながら説明するが埒があかず。仕方なく「地球の歩き方を見せなよ」とアドバイス。泊まるホテル「Shoan Heights Apartment Hotel」は「地球の歩き方」にも掲載されているから、その住所を見せればわかる。

と言うことで、ようやく納得した運転手はぶんぶんとフリーウェイを飛ばす。どこまでも広がる大地と青空。でっかいどぉ、ほっかいどお、よりもずっとでっかいオーストラリア!自動車メーカー勤務のエドちゃんは「フォードと三菱が多い」などと車種を数えている。

12時30分、メルボルンのシティに入る。タクシーは妙にくるくると変な走り方をする。こいつ、せこくメーター稼いでるんとちゃうか、と思ったら、どうもホテルの場所が一方通行で入りにくいところにあるらしい。タクシーの前を優雅に観光用の馬車が走っているなと思っていたら、いきなりホテル正面に到着。こじんまりとした小さなホテルだ。あれ、リーダーが降りてこない。金を払う段になってもたついている。なんだかずっと運転手と話しているぞ。まあいいや、ほっておこう。いつものことだ。

と言うことで、遂に遂に、長かった我々の旅は終わった、もとい、始まった。まだ現地に着いただけでこれだけ時間がかかるのか。このレポートもどれだけこの先続くのか、ちょっと不安になってきた。

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