幹事クリタのコーカイ日誌1999

 
 10月14日 ● 昭和49年10月14日の思い出。

 今から25年前、ちょうど四半世紀前の今日は、僕にとって実に印象深い日でした。この日は当時僕が片想いしていた女の子の14回目の誕生日。本当なら「誕生日おめでとう」のメッセージとともに、なにか気の利いたプレゼントを贈って愛の告白でもしたいところなんですが、13才の不器用一筋な純情中学生には、そんな大胆な行動を起こせるはずもなく、ただ声もかけずにいつも以上に熱い視線を彼女に送るのが精一杯でした。

 今の中学生ならジッと見つめているだけなんて「気持ち悪い奴」とか言われて袋叩きにされているかも知れませんが、当時は見つめるだけで思いが伝わる、なんてことを信じていた時代だったので、僕もいつにも増して熱く彼女を見守っていたのですが、当然の如く全くリアクションはなく落胆していた放課後。校庭の窓から見える職員室のテレビ前がざわめているではありませんか。何事かと僕も級友と覗いてみたら、まさにちょうどあの栄光の背番号3・ミスタージャイアンツ長嶋茂雄の引退セレモニーをしているところでした。

 有名な「ジャイアンツは永久に不滅です」を叫んで後楽園球場を埋め尽くしたファンに頭を下げる長嶋。この年、ジャイアンツはV10をドラゴンズに阻まれ優勝を逃していました。僕も夏休みに生まれて初めて中日球場に行って、中日-巨人戦を観戦してきたところです。長嶋が現役の間に辛うじてナマで見ることができたことは僕にとって大いに喜びであり誇りであり、無理してチケットを取って連れていってくれた父には今でも感謝しています。

 初めて見た長嶋は実に溌剌とプレーしていました。三遊間の当たりに飛びつくファインプレーとレフトスタンドにライナーで飛び込むホームラン(この試合では王もホームランを打ってON揃い踏みでした)を見せてくれる大活躍。野球の素晴らしさを見事に体現していた長嶋が今日引退する。僕の頭からは片想いの彼女の誕生日のことなど見事に吹っ飛んでしまい、この日からしばらく長嶋フリークになってしまいました。少ない小遣いをはたいて関連書籍や雑誌を買い漁り、テレビの特集も欠かさずチェック。なにせビデオもない時代ですから見逃したら終わりの真剣勝負です。親には「なに考えているんだ」と揶揄されていましたが、僕にとっては追っかけ気分の至福の時でした。

 ご存知のように翌年長嶋は監督になりましたが、チームは初の最下位に転落。その後のジャイアンツは、今と変わらぬなりふり構わぬ補強作戦に走り始めます。純血主義を破って大リーグからジョンソンを、また大型トレードで張本や加藤初を獲得し「常勝巨人」の再現を目指しますが、それに応じて逆に僕の熱はどんどん冷めていきました。

 結局僕にとってはプレーヤー長嶋がヒーローだったのです。テレビでいつも見ていた、そしてただ一度だけナマで見た長嶋。全身を捻りヘルメットが飛ぶ豪快なスイング、跳ねるように舞う守備。天性の明るいキャラクター。あの時の長嶋茂雄は37才。なんと今の僕より1才年下です。そして僕の片想いしていた女の子は今日39才になりました。今なら平気で「誕生日おめでとう」と言える自分が、ちょっとせつないです。

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