スポーツの名勝負は「舞台と役者とハプニング」が揃わないと成り立ちません。例えば昭和34年のプロ野球天覧試合。伝統の巨人-阪神戦、プロ野球史上初めての天覧試合という舞台、長嶋と村山という高度成長時代を象徴する東西のスーパースター。そして村山が最後まで「あれはファウルやった」と言うポール際のサヨナラホームラン。しかもこの試合はその後100回以上記録されるONアベックホームランの第1号でもありました。
そう言う意味では、今年の全仏オープンテニス女子シングルス決勝戦も名勝負に相応しい試合でした。グランドスラムでも独特の雰囲気を漂わすロランギャロスの赤土の上で繰り広げられた、すれ違ってきた新旧2人の女王の対決。それは1980年ウィンブルドン男子シングルス決勝戦、ボルグとマッケンローの死闘にも匹敵するような、まさに歴史に残る名勝負でした。
この試合、最初はグラフの強打をかわしながらカウンターの一撃でポイントを奪うヒンギスのペースでしたが、次第にその強打に疲れたか追い込まれることが多くなり、しかも微妙なジャッジにも幾度か精神的にダメージを受けて形勢は逆転。観客のブーイングもものともしないメンタルタフネスぶりを見せたヒンギスでしたが、最後はグラフの強力な攻撃力の前に気力も尽きたかのような負け方でした。
ペナルティポイントを奪われてもヒンギスが抗議せざるを得なかったミスジャッジもありました。死力を尽くした第2セット第8ゲームのラリー。そしてセットポイントで見せたヒンギスのアンダーハンドサーブ。かつてマイケル・チャンが同じロランギャロスでレンドルに打ったアンダーハンドサーブを思い出させたあのサーブは、観客から思いっきりブーイングを浴びましたが、逆にすごくヒンギスらしいと感じたファンも多かったと思います。
そう、この試合の素晴らしいところは、ヒンギスがヒンギスらしく、グラフはグラフらしく最後まで戦ったところでしょう。持てる力と技術を全てさらけ出して最高レベルの試合を見せただけではなく、ヒンギスとグラフという強烈なキャラクターも余すところなく発散されたのです。
さて、1ヶ月もすれば今度はウィンブルドンの芝の上。センターコートで名勝負の第2ラウンドがあることを期待したいと思います。なにせグラフもあまり先は長くありませんからね、今年が本当に五分に戦える最後のチャンスのような気がします。
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