幹事クリタのコーカイ日誌2026 |
| 6月28日 ● 庄司薫の訃報。 庄司薫が死んだことにちょっとだけショックを受けています。やはり10代に夢中で読んだ本の作者には、思い入れが強くなっているんだなと改めて感じました。僕にとってはそれが北杜夫、井上ひさし、庄司薫でした。高校時代に読んだ「赤頭巾ちゃん気をつけて」「さよなら快傑黒頭巾」「白鳥の歌なんか聞こえない」「ぼくの大好きな青髭」のいわゆる「薫くん四部作」は青春のバイブルと言っていいくらいに衝撃を受けました。しかしその後はほとんど作品を発表することもなく、ピアニストの中村紘子と結婚してヒモのように暮らしていると聞いていました。突然の訃報でしたが、もう88歳になっていたのかと改めて時の流れを感じます。 薫くん四部作は当時画期的な小説として、若者、特に大学受験をするような進学校の学生たちに受け入れられました。主人公の薫くんは日比谷高校の3年生で、2人の兄も東大法学部なので自分も自然と東大に行くんだろうと思っていたのに、大学紛争で東大入試が中止になって宙ぶらりんになっていました。そんな薫くんはノンポリで女の子のことや家庭のことをいつも考えていて、激動する社会については距離を置いているというのが、とてもリアルに感じられました。薫くんは僕の10歳年上になりますが、似た感じの進学校の「お兄ちゃん」かと思いきや、実は作者の庄司薫はさらにそれより10歳以上年上だと後で知って驚きました。作者と同じ名前を主人公につけておいて、実はもっと年上の人間が若者のような語り口で書いているのに「あざとい」ほどにリアルで、作者の技術と観察眼、洞察力に「作家って大した詐欺師だ」と思ったものです。 ちなみにそれから少しして、この薫くんシリーズと同じように「僕」という一人称で小説を書く若い作家が登場して注目を集めていました。その頃にはもう高校生ではなく20代になっていましたが「なんとなく庄司薫に似てるな」と思ったのが村上春樹でした。村上は学年で僕より11年上で、「薫くん」とほぼ同世代です。きっと何らかの影響を受けているのではないかと当時思いましたが、今回ネットで調べてみたら、その後にいろいろと両者の関連性については考察されているようです。また村上龍も庄司薫の流れの中にいる作家だという評論もあるようで、確かに「赤頭巾ちゃん気をつけて」と「限りなく透明に近いブルー」には親和性があります。田中康夫の「なんとなくクリスタル」も話題になりましたが、ちょっとこの流れの中に入れると違うかなという感じ。描いている時代がバブル期なので仕方ないんですけど。 今となっては誰も庄司薫なんて読まないだろうし、それこそ「なんクリ」のように注釈をつけないと若者には当時の世相がわからないとは思いますが、多大な影響を受けた作家の死は、あの頃の「気分」をまざまざと蘇らせてくれました。ご冥福をお祈りいたします。 |