幹事クリタのコーカイ日誌2023

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7月3日 ● 悪役を嫌うファンタジー大河。

 かつてファンタジー大河と呼ばれた『江〜姫たちの戦国〜』というドラマがありました。あれは本当に酷かったと今でも時々思い出します。今年の『どうする家康』もこれとは少し違う形ながら、かなりファンタジー大河になっています。なんで時々こういう妙な大河ドラマをNHKは作ってしまうのでしょう。

 今回の『どうする家康』のファンタジーぶりは、これまでのイメージを覆して新しい歴史解釈を示そうとしているように見せかけていますが、実は出演しているアイドル的な俳優陣のイメージを壊さないように、みんな善人にしようとして無理な設定にしているのではないかと思います。要は若者受けする数字の取れる俳優をキャスティングしたいがために、彼らに悪役をさせらられないというだけのことです。

 その「悪役NG」俳優の代表が、家康役の松本潤、築山殿(瀬名)役の有村架純でしょう。この2人のシーンになると、とにかく徹底的に内容がお花畑になります。本来なら家康と築山殿の関係はもっとお互いに緊張したもので、徳川と今川の政略結婚であり、両者が敵対した後はますます二人の距離が開いたはずです。築山殿が武田と内通したのも、弱小の徳川では生き残れないと見たからこそ、息子の信康ともども武田に与しようとしたと考えるのは自然ですし、そう歴史研究者たちも考えています。

 こうした政治的に対立関係にある夫婦というのは、考えようによってはドラマとして面白い素材ですし、それを演じる俳優にとってもやり甲斐のある役のはずです。それなのに、アイドル俳優には悪役をやらせられないとばかりに、底抜けに善人面をさせて、現代的な倫理感で理想を語らせるから「なんだこれは」となってしまいます。30代の松本と有村なら、もっと人間的に深みのあるキャラクターを演じたいのではないかと思いますが、事務所が許さないのかNHKの忖度なのかわかりませんが、平板な演技を求められてかえって俳優としての評価を下げてしまうのではないかと思います。

 さらに言えば信長役の岡田准一にはステレオタイプの信長を演じさせていますが、こちらはBL風味を強く香らせて一部の女性ファン受けを狙っているようで気持ちが悪いです。五徳役の久保史緒里は乃木坂46のセンターで現役アイドルだから仕方ないのかも知れませんが、五徳も結局「プライドは高いけど良い子」で終わってしまっていては、織田と徳川の間で揺れるキャラクターの深みが出ません。他にも若いアイドル俳優陣はみな性格が良くて、悪どいのはベテランばかりです。

 築山殿事件のあり得ないような「お涙頂戴」のファンタジー展開で、恐らくこれまでの大河ファンはもとより、歴史好きはかなり心が離れてしまったと思います。なお佐鳴湖は浜松の西側にあるのだから、陸続きの浜松から家康が船に乗ってやってきて、また去っていくことはあり得ないし、瀬名は浜松にお尻を向けて自害したことになるのも噴飯ものです。この地理的な位置関係を無視した演出は、初回からずっとこのドラマで続いていますが、歴史好きだけではなく地理好きにも嫌われるのに、なぜスタッフが平気なのかも不思議です。



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