我が家から最寄り駅まで歩く途中に大学があり、道にはりだすように大きな桜の木が植わっています。僕がいまの街に引っ越してきてから２８年半、ずっとその桜の木の下を通りながら通勤してきました。もちろん一年のほとんどは意識もしていないのですが、この季節になると「ああ、今年も咲いたなぁ」と感慨に耽ります。

　いつもこの桜が咲くと「これで何回目だろう？あと何回見られるんだろう？」と思います。毎年、必ずそう思います。今年でその桜は２８回目ですが、毎回来年も無事にこの桜が見られるといいな、と思います。必ずそう思います。なぜ桜の花を見ると人は人生とか命とかに思いを馳せてしまうのでしょう？

　古来、日本では桜にまつわる多くの文学、芸術が生まれてきました。だから桜を見るとその影響でつい人生を思ってしまうのか、それとも桜自身に物を思わせたり、人を狂わせたりするような魔力があるのでしょうか？花見客の恍惚も一時、人を狂わせる桜の魔力にかかっているのだと思います。そして桜を見すぎると僕は桜に「酔う」もしくは「当たった」ような状態になります。過剰な桜見物は心にダメージがきますので、ほどほどにしておいた方が良いのです。

　そんな魔力を発する桜が一週間ほどで散ると、一気に若葉が出て青々とした木々とともに初夏が訪れます。すると健全な心身を取り戻せます。もし桜が１ヶ月も咲いていたら日本は滅びてしまうかも知れません。