幹事クリタのコーカイ日誌2013

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4月13日 ● ブランドとしてのハルキ。

 村上春樹の新作長編『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が発売され、一種のイベント状態になったようです。「ようです」と言うのは、あまり村上春樹の小説は読まないので傍観者的に見ているからですが、出版不況の折、これだけのパワーがある作家は貴重です。しかも大衆娯楽小説(という言い方も最近はしませんが)ではなく、純文学系の作家がこれだけ売れるという現象は稀有な事例でしょう。

 なぜ村上春樹ばかりがこんなに売れるのか、ファンではない僕にはわかりませんが、彼が多くのファンを抱えているからというのは当然として、それだけではないと思っています。単にファンが多いということなら東野圭吾だって伊坂幸太郎だってたくさんいますが、村上春樹だけがブーム化、ファッション化している現状はそれだけでは説明がつきにくいからです。

 考えられるのは数年に一度という長編小説の発売サイクルは、ちょうどドラクエシリーズみたいなもので、イベント化するには都合が良いのかなと思うことです。長編を出す合間に翻訳を出したり講演をしたり賞をもらったりエッセイを書いたりと、いろいろな話題を定期的に提供して、話題を持続させつつファンの渇望を煽る戦略も見事というべきでしょう。村上春樹の売り方は実にマーケティング的に優れています。

 そして村上春樹自身のイメージもめちゃくちゃ高いです。彼を彩るキーワードはやたらとオシャレで華麗です。ジャズ、アメリカ文学、ノーベル賞候補、芦屋、映画、マラソン、猫、神宮、プリンストン大学。もう女性受けしそうな単語のてんこ盛りで、しかも本人は日本のマスコミの前にはほとんど姿を見せず、でも海外メディアの取材には応じるということで、すっかり海外セレブのよう。これだけしっかりブランディングができている日本人作家というのも他に知りません。

 もちろん、それでもつまらない小説を書いていたら、いくらイメージが良くても売れ続けるわけがありません。売れるのは当然中身が伴っているからなのですが、残念ながら僕は彼のエッセイは好きですが小説は肌に合わないので論評はできません。ただ文学としてだけではなく、マーケティング、ブランディング的に見ても村上春樹はすごいということだけは書いておきたいと思います。



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