幹事クリタのコーカイ日誌2011

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10月27日 ● 子どもの頃、北杜夫が人生の師だった。

 作家の北杜夫が亡くなりました。『楡家の人びと』などで重厚な純文学作品を書く一方、「どくとるマンボウ」シリーズでの軽妙でユーモアあふれるエッセイでも人気を博した作家でした。斎藤茂吉の息子、昆虫好き、躁鬱病、医学博士といくつもの顔を持ち、長年にわたって人気作家として活躍した彼も84才になっていました。

 僕が初めて北杜夫の本を手にしたのは小学生の時でした。当時、父親の本棚に入っていた文庫本を適当に漁って読んでいたのですが、なにせ山手樹一郎とか源氏鶏太とか石坂洋次郎とか司馬遼太郎とかで、読んではみたものの時代小説やサラリーマン小説や古い青春小説が本当にわかっていたかというと微妙なところ。ところが何気なく手にした『どくとるマンボウ昆虫記』は小学生にとって大興奮の一冊でした。

 これに感動した僕は「航海記」「青春記」と次々と「どくとるマンボウ」シリーズを読み進み、北杜夫の世界に耽溺しました。昆虫も船旅も松本から望む北アルプスも当時の僕には憧れでした。その後、北杜夫のエッセイによく出てくる友人だということで、遠藤周作やら阿川弘之やら吉行淳之介やら佐藤愛子やらを読むわけですが、さらにそこから星新一に行きあたり、周りの友人の誰よりも早く星新一マニアとなりました。

 北杜夫は僕にとって人生の最初の師であり水先案内人でした。彼のエッセイが10代前半の僕の精神世界に与えた影響の大きさは測り知れません。ユーモア小説や青春小説がこの年になっても未だに大好物なのも、北杜夫のエッセイの影響です。もちろん『楡家の人びと』『夜と霧の隅で』などの純文学系の作品も読んでいますが、影響を受けたのは圧倒的にエッセイにおける北杜夫の明るさであり希望であり子どものような無邪気さであったと思います。謹んでご冥福をお祈りします。




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