幹事クリタのコーカイ日誌2011

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7月29日 ● 小松左京はヒーローだった。

 小松左京が亡くなりました。星新一、筒井康隆と並ぶ日本SF御三家であり、万博のプロデューサーなど執筆以外の幅広い活動もし、優れた文明批評家としても鋭い考察をした小松は、僕たち世代にとって大きな影響を受けたヒーローの一人です。あの頃の中高大学生はみんな御三家の作品を読んで熱中していました。

 小松の作品は多岐にわたり、その芸風の広さこそが特徴とも言えるのですが、星や筒井に比べて「熱っぽい」ところが僕には印象的でした。クールな星や皮肉屋の筒井に比べたら、小松は真っ直ぐで正義感に溢れています。手塚治虫とも親交があったそうですが、小松が一番少年マンガ的な作品だなと感じていました。

 『日本沈没』で社会的にムーブメントを起こしてメジャーになりましたが、ずっと冷遇されていたSF小説を大きく育てた功労者であり、社会学や文化人類学的な分野にまで切り込んでいった人でした。

 小松の作品はかなり読んでいますが、僕が実は一番思い出深いのは小説ではなく対談集です。1978年に講談社現代新書から出た『学問の世界 碩学に聞く』という本で、加藤秀俊と小松左京が当時の知の巨匠であった桑原武夫、貝塚茂樹、今西錦司、江上波夫、中山伊知郎の5人に話を聞いたものです。

 翌年に大学進学を控えた僕はこの本を読んで「学問の世界って素晴らしい!」と感動し大学への期待に胸を膨らませたものです。実際には全然学問の世界に馴染めずさっさとドロップアウトしてしまいましたが、学問の世界を極めた人たちへのリスペクトはずっと僕の胸に宿っていて、後に友人の結婚披露宴の主賓で江上波夫が出席していた時にはかなりミーハーに喜んでいました。

 熱っぽい小説を書き、しかも想像力に溢れ博識で先見の明がある小松の言は、僕には官僚出身の堺屋太一よりもずっと熱く胸に響くものがありました。この3.11以降の日本の行く末についても何か示唆を与えてほしかったと思います。小松は震災以降の日本について何を思いながら逝ったのでしょう。ご冥福をお祈り申し上げます。




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