幹事クリタのコーカイ日誌2010

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5月26日 ● パリの奇跡〜伊達公子伝説新章〜。

 14年ぶりにパリ・ローランギャロスのコートに戻ってきたクルム伊達公子。とは言え、復帰してからグランドスラムで未だ1勝を挙げていません。かつてはこの大会でベスト4まで進出したことはありますが、伊達自身が苦手というレッドクレー、そして今回もドロー運悪く初戦の相手はサフィーナ。かつての世界1位であり、2年連続全仏の準優勝者。いくら今年はランキングを落としているとは言え、それでも第9シード。強敵です。

 しかも伊達は右足を痛めていて、パリに入ってから満足に練習もできていません。正直、ここで無理をして故障をひどくして得意のウィンブルドンまで棒に振ってはいけないから棄権しても良いのではないかと僕は思っていました。それほど伊達の足の具合はブログを読んでいる限り悪そうだったのです。

 試合は昔から立ち上がりの悪い伊達のいつもの調子。1セット目を3-6で取られてしまいます。2セット目も先にブレイクを許し2-4とピンチ。このままズルズルと押し切られてしまうのかと思ったのですが、ここから伊達の逆襲が始まりました。得意のライジングで左右にサフィーナを振りまくり、チャンスボールは前に詰めてドライブボレー。かつてサフィーナ以上に大型選手だったライバル、ダベンポートを思うように振り回していた姿を思い出させます。4ゲームを連取して6-4でセカンドセットを取り、試合は伊達の得意なフルセットへ。

 ところがファイナルに入ってから伊達の動きが見る見るうちに悪くなってきました。チャンスボールを決めきれず、ボールを追う足が思うように動きません。左手でアクロバチックに返すシーンが繰り返されますが、それだけ足が悪くボールを追い切れていないということ。とうとう1-4のピンチに。これはもういよいよ敗色濃厚です。

 ところがここから伊達が奇跡の反撃を開始します。足を引きずりながら何と4ゲームを連取。動きが悪いのでカウンター一発狙いのリターン、そしてラリーになってもセンターに構えて動かず先にサフィーナを振り回します。いくらタイミングの早いライジングだとは言え、昨年の世界1位に対して自分が動かずに相手を振り回すなんて芸当は普通できるものではありません。動かない足で前に詰めて一発で決めるボレーも見事でした。まさに天才・伊達公子の面目躍如です。

 可哀想なのはサフィーナでした。明らかに足を故障していて動けない39才を相手に、自ら気負ってミスを連発。普通にコーナーに打ち分けておけば相手は走れないのですから問題なく勝てそうなものなのに、魅入られたようにセンターに打ち返してはネットやオーバーを繰り返しています。元来、気が弱いと言われてきた彼女ですが、ここにきて「負けられない」というプレッシャーに自ら飲み込まれてしまったようです。

 最後はイージーなミスをサフィーナが繰り返して、伊達があっさりブレイクに成功。3-6、6-4、7-5というスコアで復帰後のグランドスラム初勝利を挙げました。12年の長いブランクから復帰した39才の小柄な日本人が足を痙攣させながらも元1位をグランドスラムで破るなんて、出来過ぎでマンガならボツにしそうなストーリーです。まさにパリの奇跡。伊達公子の伝説に新たな1ページが書き加えられました。



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