幹事クリタのコーカイ日誌2009

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7月6日 ● 勝者よりも敗者を称えたい時がある。

 昨年のウィンブルドン男子シングルス決勝、ナダルとフェデラーの試合は、かつての伝説の一戦であるマッケンローとボルグの試合を超えたと言われました。もう二度とあんな試合は見られないだろうと思っていたのに、昨日のフェデラーとロディックの決勝戦はそれを上回るような熱い戦いになりました。

 ともに強力なサービスを持つ両者ですから、リターンがポイントになるだろうと思っていました。そして、ロディックが勝つならストレートで一気に押し切る時、フェデラーが勝つならロングマッチになってフェデラーの精神力と経験が生きる時だろうと思っていましたが、僕の予想以上にロディックが素晴らしいテニスを見せてくれました。

 第1セットは終盤のワンチャンスを生かしてロディックがブレイクして7-5。2セット目はお互いにブレイクができずタイブレークに突入。ここでロディックが6-2とリードしたのですが、そこからフェデラーが驚異の粘りを発揮して逆転しタイに持ち込みました。もしこのタイブレークをロディックが取っていたら、そのままロディックが押し切ったのではないかと思われるだけに、勝負の綾を感じた場面でした。

 3セット目も双方譲らずまたもタイブレークに突入してフェデラーが獲得。このままフェデラーの流れになるかと思いきや、4セット目では序盤にロディックがブレイクをして、それを生かして6-3でロディック。最終セットに勝負が持ち越されます。

 この最終セットが歴史に残るような展開になりました。お互いに若干のピンチはあるものの、ほぼ完璧なサービスでブレイクを許しません。いつ果てるとも知れぬサービスキープ合戦。試合時間は4時間を超えました。そして第30ゲーム。ロディックが乱れたというよりも、ちょっとした流れがフェデラーに傾いただけという感じでしたが、この日初めてフェデラーがロディックのサービスをブレイクし、そのまま優勝を勝ち取ってしまいました。4時間16分77ゲームの死闘の果てに、フェデラーは芝の王者の称号とランキング1位を取り戻し、サンプラスを抜いて単独1位の通算15個目のグランドスラムタイトルを獲得したのです。

 この勝利によってフェデラーは多くのものを得ましたが、ほんの紙一重の差で敗れたロディックには3度目の準優勝ということ以外何も残りません。いくら健闘しても負けてしまえばそれまでなのです。

 しかし、それまでなのに、スタンドの観客はロディックに大きな大きな拍手を送りました。その気持ちは4時間を超えるロングマッチを観戦していた誰もが感じることでしょう。これだけの感動的な試合が生まれたのは、勝ったフェデラーだけではなく、負けたロディックあってこそです。2人で作り上げた作品のような試合だったのに、何もかも得るのは勝者だけであって、敗者には何にも残りません。それがわかっているからこそ、観客は称賛と感謝を込めて敗者に大きな拍手を送ったのです。

 もっともロディックは昨日のような試合をしている限り、まだまだチャンスは多く残っています。9月の全米オープンでは地元ということもあり、フェデラーやナダルらと並んで優勝候補の1人にあげられることでしょう。今度はロディックにぜひ良き勝者になってもらいたいと思います。