幹事クリタのコーカイ日誌2009

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5月7日 ● 映画評論は当てにならない。

 世の中には大昔から映画評論という分野があります。淀川長治とか小森のオバちゃまとか、すでに鬼籍に入ってしまった有名人を始め、今でも多くのプロの映画評論家が活躍をしていますし、ネットには映画評論のサイトが乱立しています(僕もサイトを立ち上げた時に映画に関するページも作りました)が、どうもこの映画評論というのは当てにならないことも多いと思っています。

 それは自分でも書いてわかりましたが、映画というのは総合芸術だけに、映像、脚本、演出、俳優のどこにフォーカスしてその映画を見るかで感じ方がまるで変わってしまうからです。さらに同じところに着目していても、各個人の感性と知性で捉え方はさまざま。過去に同じジャンルの映画をたくさん見ている人と、初めて見る人では当然感想は変わりますし、事前の知識が豊富な場合と全く知らない場合でも違います。もちろん人生経験によっても変わるでしょう。だから他人の評価はあくまでも参考程度にとどめておいて、やはり自分で見てみないと面白いかどうかはわかりません。

 で、このゴールデンウィーク公開の映画を2本見ました。1本はクリント・イーストウッド監督・主演の『グラン・トリノ』。もう1本はコーエン兄弟監督でジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジョン・マルコビッチ出演の『バーン・アフター・リーディング』。『グラン・トリノ』は映画評論では絶賛の嵐でした。逆に『バーン・アフター・リーディング』はブーイングが目立ちました。ところが、実際に見てみたら、どちらも僕には面白くて決して悪くはない映画だったのです。

 『グラン・トリノ』に関しては映画評論家とほぼ同意見でした。低予算の小品ながら実に滋味深い映画でした。イーストウッド監督にはほとんどハズレがありませんが、この映画は久々に本人が主演したことでさらに味わいが深まりました。僕はマカロニウェスタン時代のイーストウッドも、ダーティハリー時代のイーストウッドも見ています。若い頃から彼の作品を観てきましたが、老人になってこんな良い演技をするところがまた趣深いと感銘しました。

 映画評論家と意見がほぼ一致した『グラン・トリノ』に比べて、全く正反対の感想を持ったのが『バーン・アフター・リーディング』です。映画評ではコーエン兄弟の『ノーカントリー』に比べて駄作だとか自己満足だとか無駄なオールスターキャストだとか書かれていました。馬鹿馬鹿しいだけの映画だという酷評が結構目立ったのです。

 しかし、実際に見てみたらこれはこれで実に風刺の効いた映画で、しかもかなり観客を楽しませてくれるブラッククライムムービーでした。豪華な俳優陣を使って、これだけバカをやらせるというのも、コーエン兄弟の名前があるからこそでしょう。ブラッド・ピットやジョージ・クルーニーがやるからこそ、軽薄でバカな話も面白いのです。決して無駄なオールスターキャストなんかじゃありません。『ノーカントリー』みたいな作品を期待しているからこそ裏切られたと思うのかも知れませんが、監督だっていつも同じような映画を作りたいわけではないでしょう。

 『グラン・トリノ』は間違いなく傑作で、85点か90点くらいつけますが、『バーン・アフター・リーディング』だって75点くらいはつけても良いんじゃないかと思います。