幹事クリタのコーカイ日誌2009

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2月28日 ● 大事な友達を喪いました。

 彼女と初めて会ったのは、僕が新入社員の冬の時でした。僕が22才で彼女が21才。数えてみれば、もう26年も前のことです。当時流行りのコピーライターになりたいと言って彼女が僕の会社に来たのが初めての出会い。お嬢様育ちでワガママで甘えん坊でミーハー。見た目はクールビューティーなのに、喋ると名古屋弁丸出し。でも本人にそれを指摘すると「わたし名古屋弁なんてしゃべっとらんがぁ」と名古屋弁で真剣に反論します。本人が思っている以上に天然キャラでもありました。

 ワガママな女の子に昔からなぜか縁が深い僕は、そんな彼女と妙に気が合って本当によく遊びました。飲みにも食事にも行くし、ボーリングもテニスも一緒。いまのテニスサークルを立ち上げた時の創設メンバーにして中心メンバーにもなってくれました。一緒にミックスダブルスの試合にも何回か出ました。当時の僕のテニスは力任せのひどいもので、ずっとテニス部だった彼女の足を引っ張ってばかりでしたが。

 基本的に彼女がワガママを言って僕が面倒を見るという関係でしたが、1才違いで実は幼稚園も同じだったことから、男女というよりは、何となく年の近い兄妹のような感覚でした。彼女が男友達と深夜まで遊んで家に帰った時に「クリタさんと一緒にいた」と親に言い訳したというのを聞いた時には、それが言い訳になるのかとさすがに不思議に思いましたが。結婚する前から僕の妻とも仲が良く、結婚してからも彼女は我が家に頻繁に遊びに来ては酒を飲み、麻雀をし、時にはそのまま泊まっていきました。実家を出て一人暮らしを始めたいと言った時には一緒にアパート探しを手伝いましたし、息子が生まれたら彼女は息子を抱いてあやしてもくれました。

 その後、彼女は腰痛を患ってテニスをやめ、さらにコピーライターもやめてアメリカに留学。戻ってきてからはイラストレーターに転身しました。その頃から会う頻度は極端に少なくなり、年に数回から2年に1回くらいにまで減ってしまいました。それでも何かあれば連絡をして、会ってはバカ話をする関係は続きました。2年前に我が家が引っ越しをした時にはちゃんとお祝いを持って遊びにも来てくれました。美人なのに結婚する気配は全くなく、30代の頃はそれを心配もしていましたが、40代になってからはもうすっかり突き抜けたような顔をしていたので、僕もまあそれで良いのかと思っていました。

 昨年、彼女と連絡がつかなくなりました。心配していたら年末にようやく連絡が取れ、病気をして入院していたとのこと。かなり良くなったから年が明けたら久しぶりに飲みに行こうという話になり、1月中旬にもう1人の友達と3人で会いました。ところが、彼女は約束の時間を過ぎても全く現れる気配がありません。どうしたのかと思って電話をしたら「あ、忘れていた!」と言います。まだその時点で家にいた彼女は1時間半以上遅れて店にやってきました。

 遅れてきた彼女の体調があまり芳しくないことは一目見てすぐにわかりました。病的に痩せていたし、料理にもほとんど手をつけません。無理して出てきたのではないかと心配になりましたが、明るく振る舞う彼女にあまり病気のことをしつこく聞くのも悪いので、普通に会話をして会は終了。彼女はクルマで来ていたので、途中まで僕を送ってくれました。20数年前は彼女の運転するプレリュードでよく遊びに行きましたが、今の彼女のクルマはミニになっていました。外観は可愛くて好きだけどインテリアが子どもっぽいと、彼女は文句を言っていました。降りる時に「今日のお詫びに今度は私が仕切ってもう1回飲み直そう」と言うので、僕と彼女の2人の誕生日のある2月中旬にしようと約束して別れました。

 ところがそのすぐ後に彼女のお父さんが亡くなってしまいました。とりあえず2月の飲み会は延期にして欲しいとのこと。お兄さんは海外に永住しているので、彼女が葬儀から何から一人で頑張って切り盛りしたらしく、大変だとこぼしていました。そして2月16日の彼女の誕生日に送ったメールの返事には「まだ体調があまり良くないので、3月になったらご飯しましょう。」と書いてありました。

 しかし、お父さんの葬儀のゴタゴタで病み上がりの彼女の体力はすっかり尽きてしまったようです。いや、病み上がってすらおらず、実はまだ病んだままだったのでしょう。誕生日から10日後、彼女はいきなりいなくなってしまいました。突然の死。連絡をくれた彼女の友人は、携帯電話のアドレス帳から僕の名前を見つけて、仕事関係の知り合いに連絡を回して欲しいと頼んできました。僕のことを以前に彼女から聞いていて知っていたようです。

 昨日は仕事がバタバタで本当に忙しかったのですが、そんな中で懸命に彼女と関わりのあった人たちに連絡を回しました。47才になったばかりという若さ(しかも彼女は30代半ばにしか見えません)での死に、誰もが驚き戸惑っていました。お通夜は日曜日の夜。告別式は月曜日の朝。突っ張ってクールな顔をして生きていた彼女は、実は寂しがり屋なことを親しい人たちは知っています。だからみんな通夜や告別式に参列してくれることでしょう。

 正直、僕は参列することを想像すると、怖いと思ってしまいます。今はまだ実感が沸かず、何となく絵空事のようにしか感じていませんが、本当に棺の中に眠る彼女の顔を見てしまったら、一体どのような思いにとらわれるのか、自分でもその感情を制御できるのか、よくわからないのです。もちろん、怖くても会いにいかないわけにはいきませんし、会いたいとは思っています。どんな顔をして彼女に会えば良いのか、わかりませんが。僕は大事な妹分を喪いました。