幹事クリタのコーカイ日誌2009

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2月19日 ● 村上春樹と銀河鉄道999。

 村上春樹がエルサレム賞を受賞した時のスピーチが話題になっています。ニュースによる要約だけではなく、全文を知りたいと思っていたところ、ハアレツ紙が全文を掲載したのでとりあえず英文で読むことができました。僕の英語力では細かいところまで読み取れないので正確な翻訳は無理ですが、さすがに日本人が書いた英語だけにわかりやすく意図はほぼ理解することができました。

 ニュースなどで当初取り上げられていた「壁と卵」「システム」のくだりだけではなく、村上の亡くなったお父さんのエピソードも心に沁みるものがありました。何も語らず、ただ敵も味方も含めて死者に祈りを捧げるお父さんの姿を見て、そこから何かを感じ取る村上少年。ジャーナリスティックでわかりやすい「壁と卵」の比喩よりも、日本的なこの心性に僕は「日本人」として世界に対峙する村上春樹の本質を垣間見た思いがしました。国際的な作家として活躍する彼だからこそ、根っこに「日本」があることが大事なのではないかと。僕も思わず5年前に死んだ父の戦争体験について思いを馳せてしまいました。

 もちろん、「壁と卵」や「システム」の話も重要なメッセージだと思います。政治的な話を語るために来たのではないとしながらも、結局いまエルサレムで発言をする以上は政治的にならざるを得ません。村上はエルサレム賞を受賞することそのものに多くの反対を受けたわけで、しかし敢えて受賞する以上はここまで踏み込むことが必要だったのでしょう。

 それと僕は村上のスピーチを読んでいて唐突に「銀河鉄道999」を思い出してしまいました。機械の体をタダで手に入れるために銀河鉄道999に乗り込んだ星野鉄郎が、メーテルと旅を続けていくうちに様々な経験を積み成長し、最後は機械化帝国の「生きたネジ」になるために連れてこられたことを知り抵抗するというこのマンガは、「高く硬い壁」に挑む「壊れやすい卵」の物語でもあるわけです。

 まあ村上春樹がマンガに影響を受けたという話は聞いたことがないので、僕のこの連想は勝手なものですが、1980年前後、大学生として村上春樹にも松本零士にも同時に触れていた我々の世代にとっては共通する印象があるのも無理からぬことではないかと思うのです。純文学とマンガ、どちらにも等しく知的興奮を覚えることができた世代のはしりですから。