幹事クリタのコーカイ日誌2008

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8月24日 ● ピクシーと落合、2人の監督の共通点。

 名古屋グランパスが鹿島アントラーズに勝ちました。これは単に首位鹿島に3位名古屋が勝ったというだけではありません。実はJリーグ開幕以来15年、名古屋は鹿島の本拠カシマスタジアムで一度も勝ったことがなかったのです。実に15年振りの初勝利という歴史的な1勝でした。

 GK楢崎が「いつもここ(カシマスタジアム)から帰る時は悲しい気持ちだったけど、初めてですね、うれしい気持ちで帰れるのは」と語ったそうですが、きっとカシマスタジアムに詰めかけていた名古屋サポーターも同じ気持ちだったことでしょう。

 これで名古屋は鹿島と入れ替わった首位浦和に勝ち点1差の2位。Jリーグ初優勝へ向けて絶好の位置につけています。9月28日に瑞穂で行われる浦和戦までにこの差を離されないようについていって、ホームで勝って首位を奪取といきたいところです。

 それにしても今季の名古屋の躍進を誰が予想したことでしょう。浦和や鹿島が強いことはメンバーを見れば誰だってわかります。しかし名古屋は特に選手が大きく変わったわけではありません。ただ一番変わったのは、もちろん監督がストイコビッチになったということです。

 ピクシーは名選手でした。Jリーグに限って言えば、未だに史上最高のプレーヤーだと僕は思います。しかし「名選手必ずしも名監督ならず」。ピクシーのような天才が果たして指導者として適しているのかは、誰しも疑問に思っていたのではないでしょうか。あれほどの天才に普通の選手の気持ちがわかるのかと。

 ところがピクシーは大きくメンバーが変わったわけではない名古屋を勝てるチームに作り替えました。現有戦力を底上げし、「勝つ」という目的のためにひとつにまとまった戦う機能的集団を作り上げたのです。監督1年目にしてこの手腕は実に大したものです。

 ピクシーを見ていると中日ドラゴンズ監督の落合博満と重なる部分が多いことに気づきます。落合も孤高の天才打者でした。とても監督に向いているとは思えませんでした。しかし球団はファンにアピールし客を呼ぶために敢えて危険な賭けに出ました。これもピクシーも落合も同じです。

 当時の中日も今季のグランパス同様に特に大きな戦力アップがあったわけではありませんでしたが、落合は「現有戦力を底上げすれば優勝できる」と断言し、その通りに中日を勝てるチームに仕上げました。巨人や阪神のように他球団のエースや4番をどんどん引き抜いてくるのではなく、まず自分のチームの選手の力を十二分に発揮させ、その上でどうしても足りないピースを補強するという、至極真っ当なチーム作りが2人に共通しています。

 おりしも北京五輪で星野ジャパンが4位に低迷し、星野監督の采配が批判されていますが、星野の方法論というのは昔から良い選手を補強して、その選手を「情」で引っ張り使い倒すというやり方でした。いわば政治力と人間性の野球で勝負していたのです。落合やピクシーは違います。彼らは「理」の監督です。そのクールさが吉と出るか凶と出るかはわかりませんが、少なくとも名古屋の野球とサッカーの球団には適していたようです。

 名古屋は職人の街です。職人は「情」にほだされる時もありますが、基本は技術がベースにある理屈の通った話が好きです。落合もピクシーも理屈を超えた天才ゆえに、集団の中の天才の限界を知っているのかも知れません。だから天才がいなくても職人だけで成立するチーム作りと、基本にかえった「理」の采配を振るっているのでしょう。「名選手ゆえに名監督」の典型例が名古屋という土地で見事に開花しています。