幹事クリタのコーカイ日誌2008

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8月1日 ● 燃え尽き症候群。

 長年テニスサークルを運営していると、アマチュアテニスプレーヤーの生態の定点観測をしているような具合になります。その中でも興味深いのが「燃え尽き症候群」にかかってしまう人たち。プロの、特に女子テニスプレーヤーでかつて「バーンアウト」する選手たちのことが問題になりましたが、楽しみでやっているはずのアマチュアでも似たような状況が起こるのです。

 彼らに共通しているのが「真面目」な性格だということです。大人になってからテニスを始めて、その面白さにはまるところまでは、一般のアマチュアプレーヤーと同じです。ただ「真面目」な人ほど、そのはまり方が強烈で真剣。休日は全てテニス、もちろんスクールにも通い、試合にも積極的に参加します。サークルに対しても勤勉で、休まずに参加するし、イベントへの付き合いも良いし、サークル運営にも協力的です。協調性も高く、メンバーからも慕われます。僕としても良いメンバーが入ったなと思っています。

 もちろんそれだけ頑張るのですから上達も早く、のんびりやっている人たちの3倍くらいのスピードで上手くなり、周りからも「本当に上手になったね」と誉められます。ますます本人はやる気になり、テニス漬けの毎日を送るようになります。

 しかし、そんな人を見ていると、今度は僕はとても不安になります。入れ込み過ぎじゃないか、燃え尽きないと良いけど、と。実際、そんな彼らはいつか壁にぶち当たります。それまで順調に伸びてきた技術の進歩が急に遅くなるのです。傍目にはそれでも少しずつ上達しているのですが、本人からすると、それまでの上達速度に比べて随分と遅くなったので、ほとんど進歩していないとしか思えないのでしょう。急な坂道の後に緩い坂道になっても、坂だと感じないようなものです。

 しかも、そういう時に限って体の変調が訪れます。多いのは肘や肩や腰の故障というカタチですが、中には内臓系の疾患や精神的な変調などというカタチで表れる人もいます。テニスをやめれば治ることが多いのですが、みんなテニスにはまっているからやめるにやめられず、ますますひどくなります。

 テニスの停滞と体の不調で、それまで楽しくて仕方なかったテニスが急にイヤに思えてきます。根が真面目だけに「こんなことではやっている意味がない」と思い詰めます。テニスをしていることが急に苦しく感じるようになり、ついには「テニスをやめます」と引退宣言をするのです。

 これまで本当に何人ものそうした「燃え尽き症候群」の人たちを見てきました。実にもったいないことです。それまで費やしてきた莫大な時間とお金を考えたら、ここでやめることこそムダであり意味がないのではないかと思います。真剣に悩む本人には申し訳ないですが、テニスなんて端から見ればただの遊びに過ぎません。もっと気楽にプレーを楽しめば良いのに「うまくなりたい」「強くなりたい」という思いが強すぎるから、自分で自分にプレッシャーをかけて、結局その重さで自分が潰れてしまうのです。テニスを愛するが故にテニスから離れていく、そんな人たちを見るたびに、僕は同じテニス愛好家として心を痛めてきました。

 自分を客観視して、テニスにはまっている自分を見て楽しむような余裕があれば、燃え尽きることもないと思います。上達しない自分もまた自分であり、そんな自分を楽しめば良いのです。そして、そういう視点はテニスに限らず人生全般に必要なものですから、真面目ゆえにすぐに真剣になり過ぎてしまう人は、ぜひ自分を客観視する技を身に付けてもらいたいものです。少しでも長くテニスを楽しむためにも。