幹事クリタのコーカイ日誌2008

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4月3日 ● 幻のツーカーマン。

 基本的に仕事の話はここには書かないようにしているのですが、もう時効になったような昔のこぼれ話くらいならたまには良いでしょう。先月いっぱいで電話サービスを停止した携帯電話のツーカー。僕は10数年前、そのツーカー東海が開業前から担当として広告制作に携わってきました。

 開業前の熱気は今でもよく覚えています。当時はドコモが圧倒的なシェアを誇っていて、2番手がIDOで、と言っても、この2社しかなかったんですが、そこにツーカーとデジタルフォンが参入しようとしていたわけです。3番手である以上、広告もよりパワフルに、インパクト強く打ち出さなければと我々が考えたのが「ツーカーマン」でした。

 当時我々の企画では実写で、ツーカーマンを演じるのは田原俊彦を想定していました。トシちゃんはジャニーズ事務所をやめて干されていました。しかしまだ30代半ばでタレントとしてのパワーも残っていた頃。あの「ガハハ」笑いをシンボルに展開するのは悪いアイデアではないと思ったのです。

 しかしクライアントの社長は当初こそ乗り気だったのに、途中から気が変わり「そんなタレントを使うよりも、大御所のマンガ家にキャラクターを作ってもらえ」と言い出しました。急遽方向転換。どうせキャラクターをデザインしてもらうなら最高峰の人で、ということで白羽の矢を立てたのが石ノ森章太郎。サイボーグ009や仮面ライダー、キカイダーなどを考案した石ノ森先生なら文句なしです。

 話を持っていったら石ノ森先生も大変乗り気になってくれて、それからしばらくしたら、会社のファックスに先生直筆のキャラクターが続々と送られてきたのです。もうスタッフ一同大興奮でした。先生はツーカーマンだけではなく、敵キャラもいろいろと考えてくれて、そのメモはまさにお宝でした。

 しかし、企画がかなり進んだ段階でまたもや社長の気が変わり、結局その話は流れてしまいました。当然ツーカーマンもお蔵入り。石ノ森先生直筆のキャラクター原画もそのままスタッフが秘匿してしまいました。しばらくして石ノ森章太郎も他界。先生が亡くなって10年後の今年、ツーカーもなくなり、もはやツーカーマンが甦ることはありません。あの傑作が世の中に出なかったのはつくづく残念でした。

 結局僕に残されたのは、キャラクターデザインの依頼に行った時に描いて貰った009だけ。まあそれが手元に残っただけでもマンガファンとしては満足と言えば満足ですけど。