幹事クリタのコーカイ日誌2008

[ 前日翌日最新今月 ]


 
3月7日 ● 4人の不惑投手の挑戦。

 今や20人を超える選手が海を渡ってメジャーリーグに挑戦をしています。かなりの野球ファンでも誰がどこのチームに在籍しているのかすぐに答えるのは苦しいことでしょう。それほど数は多いし、しかも移籍が頻繁だからです。

 これだけ数が多いとマスコミが伝える選手も限られてきます。イチロー、松坂、松井秀がTOP3、それに今年は福留、黒田のニューカマーも注目を集めています。やはりチームの主力となる選手たちにどうしても関心も集まりがちですからある程度偏ってしまうのは仕方ありませんが、僕が今年注目しているのは1968年生まれ、今年で不惑という限界ぎりぎりの年齢でメジャーに挑む4人の投手、野茂、桑田、高津、藪です。

 単に年が同じだからと言って、この4人のキャリアはそれぞれです。メジャーでの実績も知名度も十分過ぎるほどあり、日本人メジャーリーガーのパイオニアとして功成り名を遂げた野茂、昨年の思わぬ怪我でアメリカで何もできずに終わってしまったリベンジを果たそうとしている桑田、日本で引退してそのまま安楽な解説者への道もあったのに、再び敢えてメジャーに挑んでいる高津、そして野球に対する不完全燃焼の思いを抱えてより高い壁に挑もうとする藪。それぞれに苦難の道を選んでいることには変わりありませんが、そのモチベーションはきっと違うことだろうと思います。

 この4人それぞれにドラマがあると思いますが、その中でも僕が注目しているのは野茂です。パイオニアとしての評価もあり、2度のノーヒットノーランと日米通算200勝も達成した野茂ですが、さすがに衰えは隠せません。かつての豪速球はすっかり影を潜め、豪快なトルネード投法も封印したまま。ベテランらしい味わいのある投球術をオープン戦では披露したようですが、この時期に抑えたところで、シーズンに入っても通じるとは思えません。その厳しさは誰よりも野茂自身がわかっていることでしょう。

 それでも野茂はチャレンジを続けるのです。全盛期をはるかに過ぎてもまだ挑戦を続けるという意味では桑田たちにしても同じですが、彼らはメジャーリーグで野茂ほどの実績はありません。特に桑田は去年もあんなカタチで終わってしまっただけに、今年こそという思いは理解できますし、そのチャレンジを楽しんでいる様子も窺えます。

 でも野茂にはそういうわかりやすい動機がありません。金も名誉もあるのです。ここらへんで老醜を晒さずにキレイに引退して、次の人生へのステップを踏み出したら、と周りもきっと思ったことでしょう。それなのに、昔と変わらない無口、無表情で野茂は淡々と投げ続けるのです。ただただキャッチャーに向かって投げ続けるだけが己の仕事だと思い定めているような野茂の姿は、最近少なくなった粘り強く勤勉で真面目なかつての日本人の姿に重なります。野茂は未だに昭和を生きているかのようです。