幹事クリタのコーカイ日誌2005

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1月21日 ● 名古屋のはぐれっぷり。

 昨年11月に出た『東京するめクラブ 地球のはぐれ方』(文藝春秋)という本があります。著者は村上春樹、吉本由美、都築響一。作家とエッセイストと編集者が「東京するめクラブ」というチームを組んで、ちょっと普通じゃない旅行記をまとめたものです。

 なにせこの企画で行ったところが名古屋、熱海、ハワイ、江ノ島、サハリン、清里。実に微妙なラインアップです。どこも有名で知らない人はいない場所なんだけど、「アウト」(東京的には)というか「今さら」というセレクトです。

 本人たちは「ちょっと面白い場所」という選択らしいのですが、その面白がり方がスノビッシュというか、いかにも村上春樹チックなんですよね。ひとつ間違えると東京に住む都会的でセンスの良い“我々”が、何か勘違いしている妙な場所を見に行って笑ってやろう、という風になってしまいそうですし、実際そうなっています。本人たちの意図はそうじゃないと繰り返し書かれていますが、元々の企画自体がそういうものですから、いくら言い訳したところで結局そこから抜け出せないのは無理ありません。

 この本の中で名古屋は例によって散々悪口を言われています。本人たちは「いじめてない」と弁明していますが、その誉め方はあくまでも「自分たちの基準に合わない変なものを面白がっている」だけであって、なまじ中途半端に持ち上げようとしている分だけ余計にうすら寒い気分になります。特に村上春樹のスタンスは屁理屈をこねているだけで、みうらじゅん的な芸に昇華されておらずかなり気分が悪いものです。これならまだストレートに「変だ」「気持ち悪い」と驚きながら悪口を言われる方がマシというものです。

 なにせ村上は「僕、名古屋で評価するのは、味噌煮込みうどんと、あの草ボウボウのグリーンベルトだね」と言っているくらいですから。なんだそれ。異界だとか魔都だとか、名古屋は怪物くんの住む町か?そりゃそう書けば東京では売れるかも知れないけど、血液型でB型を差別しておけば視聴率が取れると思っているテレビ局と五十歩百歩だぞ。うーん、書いていて反吐が出そうだ。

 で、この本、なんと2000円もするんですけど、僕は敢えて買いました。何で今さら彼らに印税で儲けさせなければならないのかとも思いますが、新しい発見もない「今さら」な名古屋の悪口を言いまくり、挙句に「都市としてはすごい失敗作」と断じられ、さらに「名古屋に生まれて、実家で育って、名古屋に住みつくとすごく居心地がいいから、名古屋スタンダードの中でわりにぬくぬくと生きる」と言われてしまう名古屋人の典型である僕だからこそ、ここはきっちり金を払ってここで取り上げてやろうと思いました。まあ一種のけじめというか、買わずに悪口を書くのもイヤなので。

 “一週間かそこら名古屋に滞在しただけで、名古屋の全てがわかったようなことを書くなぁ!

 そんなに東京やニューヨークがエライかぁ!”

 あー、すっきりした。まあこれも彼らから見れば(見やしませんが)「田舎者の遠吠え」なんでしょうね。いいです、一生わかりあえなくても。

 ただこの話が雑誌「TITLE」に掲載されたのは2002年。あれから3年近くたって、日本における名古屋のポジションと存在感はかなり変わってきています。「元気な名古屋」は経済誌のみならず一般誌でも散々取り上げられ、名古屋発の文化(矢場とんとかコメ兵とか)も随分と東京へ進出しています。

 その様子はまるで80年代に日本がアメリカに経済力で進出していって「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時のようです。「日本は世界の名古屋だ」と言われますが、まさに今の名古屋はかつての日本です。名古屋バブルはいつはじけるのか戦々恐々。

 もっとも「ぬるま湯」名古屋に住む自分としては、果たしてその変容が自分たちにとって好ましいことなのかどうかは微妙だと思っていますけどね。閉じたままの楽園の方が住んでいる人間にとっては幸せかも知れないので。

 ああ、ちなみにこの本、面白いことは面白いです。恐らく名古屋以外の人には。


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