幹事クリタのコーカイ日誌2004

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8月24日 ● ラドクリフの涙。

 下り坂では不利と言われる野口みずきのストライド走法。それを証明するかのように、後ろからひたひたと野口に迫るキャサリン・ヌデレバ。女子マラソンの後半10kmは実にスリリングでした。望遠レンズで撮すために、実際には100mの差があっても、カメラを通して見るとヌデレバはすぐ数歩後ろにいるような錯覚を起こします。

 競技場に入ってスタンドに手を振る野口を見て、多くの日本人が「そんな余裕を見せている場合か!後ろから来てるぞぉ!」と叫んだことでしょう。「志村、後ろ後ろ!」ならぬ「野口、後ろ後ろ!」です。

 身長わずか150cmの野口の精一杯の走りは感動を呼びましたが、それとともに心に響いたのが優勝候補筆頭のポーラ・ラドクリフのリタイアと涙でした。ぶっち切りの記録を持つラドクリフにはさすがの野口も勝てないだろう、いや、絶好調の高橋尚子をもってしても無理かもしれないと誰もが思っていました。

 しかし、実際にアテネのコースを走るラドクリフはもがいていました。暑さとアップダウンの激しい難コースに負けたのだと言うことですが、さらに加えて言えば、ラドクリフはタイムではなく人と人との戦いに負けたのではないかと思います。

 過去のラドクリフのレースは常に人ではなくタイムとの戦いでした。男女併走の大会を選び、男性のペースメーカーをつけて、アップダウンの少ないコースをただ最初から最後までひた走る。そこにはマラソン特有の駆け引きはありません。トラックでのタイムトライアルと同じことをロードレースでしているだけです。

 しかし、オリンピックのマラソンは違います。問題はタイムではなく勝負です。そしてラドクリフにはその勝負の経験があまりにも少なかったのだと思います。野口とヌデレバは違います。昨年の世界選手権で激戦を繰り広げた二人は、それぞれの胸に作戦を抱き、その戦略のための練習を積み重ねてきたことでしょう。伝えられるところによれば、野口陣営は1年半かけてきっちりと仕上げてきたそうです。彼女は勝つべくして勝ったのです。

 しかし、ラドクリフ陣営には、レース戦略はあったのでしょうか?ただ今までと同じように、スピードを生かしてぶっち切りで走りきってしまえば良いというだけの考えだったのでしょうか。ぎりぎりまでマラソンか1万メートルか迷っていたように感じるラドクリフには、野口のようなアテネのコースに対する周到な準備があったようには思えません。

 ラドクリフは「とても傷ついた」という言葉を残して競技場を去ったそうです。世界最高のスピードランナーは、何に傷ついたのでしょう。あの涙は何に対しての涙だったのか、野口の勝利の一方で、僕の心には彼女の涙と言葉が深く突き刺さりました。


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