人生には失敗してもやり直せることと、やり直すことがとても困難なことと、取り返しがつかないことがあります。なぜ人を殺してはいけないのか、それは死んだ人は生き返ってこないから。どうあがいてもやり直すことができないことだから。

　一生悔やんでも「あの瞬間」は戻ってきません。そこにどんな理由があろうとも、結果が全て。長崎の女児は、これからの一生を重い十字架を背負って生きていかねばなりません。その人生と、そして失われてしまった女児の短い一生を思うと、つくづく「あの瞬間」の重さを感じざるを得ません。

　僕は人を殺めたことこそありませんが、４０年を超える人生の中で幾度かとりかえしのつかない「あの瞬間」を経験してきました。生命を奪わなくても、人の心を深く傷つけてしまい、いくら悔いてももはや彼我の信頼関係は失われてしまったまま回復できない。そんなことがありました。

　もちろん「あの瞬間」を迎えるに至った理由はあります。しかし、それは結局言い訳にしか過ぎないのです。そういう状況でも殺さない人間は殺さない。その一歩を踏み出してしまう人間には、それだけの深い心の闇があったのでしょう。

　「あの瞬間」は人間なら誰にでも起きる可能性があります。そこで一歩を踏みとどまる勇気を。自戒を込めて全ての人に。