いまこれを書いているのは９日に日付が変わったばかりで、イラクの邦人拉致人質事件の展開が今後どうなるかは全く予断を許しません。これまでの情報でわかっているのは、イラクでフリーカメラマンとボランティアの日本人合計３名が拉致されて、彼らを人質に３日以内の自衛隊のイラクからの撤退を要求されているということだけです。

　その前に起きたサマワでの陸自砲撃事件といい、今回の人質事件といい、どうやら日本もいよいよ本気でテロの標的になってしまったようです。スペインでは列車爆破テロで政権がひっくり返りました。当然、スペインと同じようにアメリカに追随する日本もテロで政権を転覆させようと考えられても不思議はありません。

　まだあやふやな情報だけで事を断じるのは早計に過ぎるかも知れませんが、もし僕が人質を取ったイラク過激派の立場なら、３日以内の自衛隊撤退が実現しなければ本当に人質を殺すと思います。日本はテロに弱いし、人命を極端に優先する国だと思われていることでしょう。だとしたら、これは脅しではないことをハッキリさせるのが一番有効です。

　恐らくこのままでは日本政府は即時撤退は決断できないでしょう。テロには屈しない、という強気の姿勢が小泉首相のこれまで一貫して取ってきた方針ですし、アメリカに対しての配慮からも腰が引けるのを良しとはしないと思います。なんだかんだ引き延ばしている間にうまく人質を救出できればいいな、というのが小泉首相の描く最上のシナリオでしょう。福田官房長官も「救出優先、撤退する理由はない」とまずは強気のコメントを出しました。

　しかし、もしあっさり人質が殺されてしまったら。間違いなく日本の世論は自衛隊撤退に流れると思いますし、小泉政権も終わりです。なにせ人質はいくらでもいます。イラクにいる日本人だけではありません。次は日本本土にいる１億２千万人が本気でテロに狙われる可能性がグッと高くなるからです。

　もちろん、テロに屈するというのは決して誉められたことではありません。しかし、イラクのテロ組織に我々の理屈は通じません。しかも今回のイラク派兵はアメリカの「大義なき戦争」に付き合っているだけで、日本人が殺されなければならない理由が全くありません。

　どうせアメリカに対しての「お付き合い」派兵なら、さっさとこの人質事件を理由にして撤退するのが一番賢いやり方でしょう。とりあえずの体面も保てるし政権も維持できます。何より人命がかかっているのです。意地を張っている場合ではありません。