幹事クリタのコーカイ日誌2001

 
 10月19日 ● 四十にして恋を知らず。

 また会社の同僚Mっちゃんの話です。相変わらず鬼畜なナンパ道を歩んでいるMっちゃんですが、昨日衝撃の事実が判明しました。

 例によって昼食をともにしながら話をしていた時に、Mっちゃんが「女の心なんかいらない、カラダだけが欲しい」なんてことを言っていました。「大体バカな男は女に執着して心まで欲しがるから失敗するんだよ」と威張っているので、「でもさ、たまには好きになってしまって離れがたいってこともあるんじゃないの?」と聞くと「そんなことは一度もないよ」「ずっと一緒にいたいとか思わないわけ?」「えー、ずっと一緒にいるなんてイヤじゃん」「じゃあ今まで女の子を好きになった時はどうだったの?」「そんなこと、ないなぁ」「初恋は?」「いや、覚えがない」「まさか、41年も生きてきて、一度も恋をしたことがないわけ?」「ないと思う」。

 驚きました。Mっちゃんは40過ぎになるまで一度も恋心を抱いたことがないのです。恋愛というものを知らなかったのです。「じゃあさ、小説とか映画とかドラマの恋愛を、どう思って見ていたわけ?」「いや、だから恋愛ものって嫌いなんだよね、つまんないから」そりゃつまんないことでしょう。自分の恋愛経験を投影してこそ、せつない片思いも世紀のロマンスも禁断の愛も、心に響くのですから。恋心を知らない人間には恋愛にまつわる心理ドラマは理解不能に違いありません。

 Mっちゃんの告白は続きます。「だからさ、『あいのり』なんて要はあのラブワゴンの中の誰とやりたいか、ってことだと思って見ていたわけだよ」「恋を歌った歌詞は?」「あれは、ああいう風に言えば女の子に受けるから言ってるだけで、本当はやりたいだけでしょ」「じゃあ今まで見たり聞いたりした人の恋愛話はどう思っていたの?」「あれはみんな大げさに言ってるだけで、本当はそんなこと思ってるわけないと思っていた」。

 Mっちゃんは完全な「自分中心主義」ですから、世の中の人は全て自分と同じような人間だと思い込んでいます。「だからさ、みんな本気で一緒にいたいとか死ぬまで離れないとか考えていたわけじゃなくて、ゲームみたいに恋愛ごっこをしているだけじゃないの?」ここまでくると、ある意味、世の中の風潮を言い当てているから怖いです。もちろん、Mっちゃんの言っている意味は違いますけど。

 「『失楽園』とか太宰治みたいな心中とかは、どう思っていたわけ?」「あれは精神病でしょ、病気なんだから仕方ないと思っていた」。まあ恋はしばしば病に例えられますが、本気で病気だと信じていたとは。「僕にしてみれば恋をするって言うのは、頭痛がするようなもので、僕は頭痛も恋もしないから人間として健康的なんだよ」だそうです。

 僕たちの結論。Mっちゃんはまだ恋も知らないガキなのです。精神的に未成熟で、恋愛の何たるかも理解できない小学生のようなものです。カラダだけは大人になるにつれて性的欲求が生じたので、それを満たすためにゲーム感覚で女性を求めていますが、それは小学生がテレビゲームを楽しむのと同じレベルでしかないのです。

 今までのMっちゃんの女性に対する感覚が常人とはかけ離れていた理由も、これでかなり理解できました。浮気することに罪悪感が全くないのも、好きな人に浮気される痛みを知らないからです。恋を知らない人間には嫉妬心も独占欲もありませんから、そりゃ平気でしょう。「その人しか目に入らない」という状態も経験したことがないから、綺麗なお姉ちゃんがいれば、あっちにもこっちにもフラフラといってしまうのです。

 もっとも僕たちもビックリしましたが、Mっちゃんもかなり驚いたようです。「みんな本気でそんな風に恋愛していたんだ、知らなかった」って。「本当に好きな女の子とエッチした時は、そりゃ気持ち良いよ」と言っておきましたが、四十にして初めて恋の存在を知ったMっちゃんに、死ぬまでに本気の恋が訪れるのか興味深いところです。もしかしたら「恋をする」という機能自体が欠落しているかも知れないので、そうだったら実に可哀想な人生だと思うしかありません。

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