世の中にはラーメン好きがたくさんいます。特に関東方面の文化では、ラーメンというのは一種のマニアを生むほどのムーブメントのようです。僕の同僚にもラーメン好きが何人かいるのですが、彼らもみな関東地方出身か、長年東京で暮らした人たちです。

　その中の一人、Ｓ井くんは横浜出身。奥さんも同じ横浜育ちということで、ともにラーメン好きらしく、いろいろ評判のラーメン屋を食べ歩いているとのこと。先日のゴールデンウィークには、最近人気の和歌山ラーメンを食べようと、クルマで名古屋から和歌山までわざわざ出かけたそうです。

　普通、名古屋から和歌山を目指す場合は、東名阪・西名阪道を使って紀伊半島中央部を突っ切るというのが通常のルートです。大体3〜4時間くらいのドライブでしょう。ところがＳ井くんは何を考えたか、紀伊半島南部をぐるりと回って和歌山を目指したというのです。

　これがいかに無謀なことか、関西方面の人なら即座に理解できると思います。かつてソ連がまだあった頃、ヨーロッパに行くのにアンカレジ経由の北回りとインド経由の南回りという2つのルートがありました（今でもあるのでしょうか？）。Ｓ井くんは、その南回りを選んだようなものです。

　高速道路は名古屋から伊勢までしか通じていません。そこからは海と山に挟まれた狭い国道を、ひたすらくねくねと走っていかなければなりません。紀伊勝浦まででもおよそ5時間、さらに串本・白浜を経由して和歌山まで総計約400km。Ｓ井くん夫妻は朝10時に名古屋を出て、和歌山に到着したのは夜9時だったそうです。実に11時間かけてラーメンを食べに行ったことになります。

　評判の和歌山ラーメンの店でようやくありついたラーメンはさぞかし美味しかったことだろうと、Ｓ井くんに感想を聞いたところ、「まあ美味しかったですよ。日清の『行列のできるラーメン屋さん』のラーメンと同じ味がしました」だそうです。インスタントラーメンと同じ味を、11時間かけて味わいに行ったという、この不毛さ。なかなかできることではありません。

　ちなみに帰りは通常の北回りルートで帰ってきたＳ井くん。4時間で名古屋まで戻ってこられたそうです。

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