幹事クリタのコーカイ日誌2000

 
 12月27日 ● ネクタイを捨てる。

 僕が会社に入った20年近く前、ネクタイは結構高価なものでした。だいたい安いものでも5000円くらい、高いと3万円くらいはしたものです。新入社員の僕に高いネクタイが何本も買えるはずもなく、当時は安物ネクタイ数本と就職祝いに貰ったちょっとマシなネクタイを1〜2本持っていただけでした。

 東京で新人研修中、飲み会に行ってお互いのネクタイの話になりました。その日の僕は就職祝いで貰ったネクタイをしていたので、内心「ああ、今日はこれをしてきていて良かった」と安堵していると、「クリタのネクタイ、どこのだよ」と言われて裏のタグを見られました。「なんだ、イモサンローランじゃないか」。

 ガビーン、って感じです。イヴ・サンローランと言えば、当時の僕の知識では泣く子も黙るフランスの大御所デザイナーで、高級ブランドのはず。なのにそれを「イモ」ですとぉ!じゃあ、そういうお前のネクタイはどこのどいつのだよ、って見たら、なんだか知らない名前が書いてあります。「へぇー、カルバン・クラインじゃん」と別の奴が言いました。その言い方は明らかにイヴ・サンローランより上、って感じだったので、思わず僕は黙ってしまいました。か、かるばんくらいん、ですかぁ。ふーん。

 当時のカルバン・クラインはまだ日本ではメキメキ売り出し中という新進ブランドで、もちろんオシャレ感度の高いブランド私立大出の連中は当然おさえているわけですが、僕のようないかにも地方国立大出というダサイ奴らは皆「へぇー」ってな顔をするばかりです。価格もそれなりで、金持ちのボンボンでもない新入社員がおいそれと自分の給料で買えるようなものではありません。僕もそのカッコイイ名前のネクタイが欲しかったのですが、指をくわえて見ているばかりでした。

 しかし、その後のネクタイの価格崩壊ぶりは凄まじいものがありました。20年たった今では、ちゃんとしたシルクのネクタイが100円ショップに並ぶようなご時世です。4000円も出せばかなりまともなネクタイが選べます。もちろんカルバン・クラインは相変わらず高いですが、それにしたって新入社員が手が出ないという価格ではありません。当時のまま物価スライドしていれば、今頃5〜6万円していても不思議はないのですがね。僕のネクタイの中にもグッチやらダーバンやら、いかにもなブランドものが紛れ込んでいるくらいです。

 ネクタイの価値がここまで下がってくると、使う方も結構ぞんざいになります。古くなったり汚れたら、さっさと捨てて新しいのを買えばいいや、という人が増えたと思います。ところが僕はどうしてもネクタイは高い、という思いが染みついているせいか、なかなか簡単に捨てられません。もちろん価格は安くなっているので、買うことはできますから、ネクタイは増殖する一方。先ほど数えてみたら46本もタンスにぶら下がっていました。しかも、以前に捨てるつもりで奧に押し込んでおいたネクタイ10数本まで見つけてしまったのです。10年以上前に買ったネクタイまでぞろぞろ出てきました。

 さすがにこれだけのネクタイを所持していても自分の首はひとつしかありませんから、そうそう締め切れるものではありません。そこで思い切って厳選10本に絞り込み、それ以外は捨てることにしました。ところが、その取捨選択を始めてみると、意外にそれぞれのネクタイに思い入れがあったりして迷いが生じます。特にプレゼントされたりしたネクタイは捨てにくいので、残すものばかりが増えていき収拾がつかなくなってしまいました。

 結局10本プラス10本の計20本を残すことにして、この混乱は決着がついたのですが、多分この選び抜かれたはずの20本のうち15本くらいは滅多にしないんですよねぇ。それでも捨てられないところにネクタイの難しさがあります。いや、単に自分が貧乏性なだけかも知れませんけど。  

とりあえず、読むたびに(1日1回)


を押してください。 日記猿人という人気ランキングに投票されます。
初めての方は、初回のみ投票者登録画面に飛びます。
結構更新の励みにしていますので、押していってくださると嬉しいです。


この日記をマイ日記猿人に登録してみる

前日翌日最新今月