THE LOOP (TUBA)

JOHNNY LYTLE (1964,1965)

THE LOOP


【パーソネル】

JOHNNY LYTLE (vib,mar) WILLIAM "PEPPY" HINNANT (ds) WILLIE RODRIGUEZ (CONGA)
MILT HARRIS (org) <except #2> WYNTON KELLY (p) <except #1,6,10>
GEORGE DUVIVIER (b) <#1,6,10> BOB CRANSHAW (b) <except #1,6,10>
【収録曲】

(01-04) THE LOOP / THE MORE I SEE YOU / THE MAN / TIME AFTER TIME
(05-07) BIG BILL / POSSUM GREASE / CRISTO REDENTOR
(08-10) THE SHYSTER / MY ROMANCE / HOT SAUSE

【解説】 (2007年10月21日更新)

 “てれぼーくん” やん!…というのを急に思い出してしまったんですが、何のことかと言うと、 前回の原稿 の中に出てくるランドマークタワーの展望フロアにあったテレビカメラみたいに画面で確認出来るタイプの双眼鏡なんですけど。 テレビカメラみたいに画面で確認出来るタイプの双眼鏡…って、そんなややこしい名前ではなく、何か物事の本質を端的に表現したような素晴らしい愛称が付いていたんですよね。 このテレビカメラ式の双眼鏡があまりにも楽しかったので、みんなにも紹介しなければ!…という義務感に駆られ、その愛称を心の片隅に小さくメモしたわけなんですが、「わー、めっちゃ見えるやーん!」 と、有頂天になって喜んで下界を見ているうちに、そんなことはすっかり忘れてしまいました。えーと、何でしたかねー? 確か、そのまんまやん!…と言いたくなるようなシンプルな名前だったような気がするんですけどね。 ああん、何やったっけ?ここまで出てるのにぃ!…と、大変に歯痒い思いをしたわけなんですが、でも、ま、いっかぁ。原稿のほうも書き終えちゃった事だしー。

 が、 “井上揚水 「夢の中へ」 の法則” (←探すのをやめた時、見つかることはよくある話で…という法則) のバリエーションとして、諦めた時に思い出すというのもよくある話で、ある日、僕の頭の中に突如として “てれぼーくん” という名前が蘇ってきたのでありました。なるほど、あれはテレビカメラみたいに画面で確認出来るタイプの双眼鏡ではなくて、テレビカメラみたいに画面で確認出来るタイプの望遠鏡、略して “テレ望クン” だったんですな。調べてみたらちゃんとHPもありました。 これ です。 従来ひとりでしか覗けなかった望遠鏡の景色を、親子やカップル等、複数の人が一緒に楽しめる新しいタイプの望遠鏡です。…って、いや、僕の場合はひとりでしか覗く機会がなかったので、その恩恵を感じることはあまり無かったんですが、むしろ、僕が200円払った画面、勝手に覗くな!…と、他人を排斥したい気分で一杯だったんですが、ま、いい年こいてニタニタしながらテレビ望遠鏡を覗いている怪しい中年男に、誰一人として近寄ってくるようなことはなかったんですけど。 で、これ、みんなで見れるというのは別にどうでもいいとして、ボタンによるズーミング機能は、どなたでも簡単にゲーム感覚で操作できます。…というところが何とも言えずに楽しいワケなんですが、左の取っ手にあるボタンを押すと、ズゥゥゥゥゥム!右側のボタンを押すと、引くぅぅぅぅ。 これはアレです。 “LIVE猫(にゃん)だ!” などにある遠隔操作が可能なライブカメラ。 あれをナマで体験出来るようなものだと思って頂ければいいにゃ〜。 あ、猫の映像を見てたら思わず語尾がアホな猫好きの人みたいになってしまいましたが、特にズゥゥゥゥゥム!…の性能が半端ではありません。オフィシャルサイトにそのスペックが書かれておりましたが、最高倍率は108倍にもなるんですなぁ。いや、大したものです。

 といいつつ、僕はこの双眼鏡とか望遠鏡の倍率というのがいったい何を意味しているのか、今ひとつ正確には理解していなかったりするんですよね。一般的な双眼鏡の倍率はだいたい7〜8倍くらいだったりするんですが、これはいったい何がどのように7〜8倍になるわけなんですかね? 例えばカメラ用のズームレンズの場合、広角端の焦点距離が17mm、望遠端の焦点距離が70mmであれば、70を17で割った4.12という数字がズームの倍率ということになるんですが、同じ4.12倍のズームレンズでも広角端が28mmなら望遠端は115mmとなるので、ズーム倍率というのはどれくらい遠くの物が大きく見えるかという絶対的な基準にはなり得ません。となると双眼鏡の倍率というのはいったい、どこを基準にして7倍だったり8倍だったりしてるんですかね? …という問題はですね、ちょっと調べてみればすぐに分かります。“てれぼーくん” のサイトのFAQのところにも書いてあるんですが、例えば8倍の双眼鏡というのはですね、200m先にある1円玉を覗いた場合、それが200m先にある8円玉のように見えて、とってもお得だねっ♪…ということではなく、25m先にある1円玉のように見えるだけの性能ということになるんですが、200÷8=25という、そういう計算になるわけですな。つまり双眼鏡や望遠鏡というのは物を大きく見せるための道具ではなく、近く見せるものだということが分かるんですが、ま、物というのは近くからだと大きく見えるので、結果的には同じことになるわけなんですけど。 ランドマークタワーの展望フロアは高さが273mあるんですが、斜め下45度の角度で地上の人物を覗くとなると、そこまでの距離はルート2倍して386m。 “てれぼーくん” を目いっぱいズームしてやればその距離は108分の1、すなわち3.5mくらいのところから見ているのと同じということになります。これはもう、 「あ、山田クンやーん!」 と声を掛ければ、山田クンが振り向いてくれるくらいの距離ですよね。あまりの臨場感に僕は思わずテレビの画面を見ながら、 「あ、おっさん、めっちゃ信号待ちしてるやーん♪」 などと小さな声でつぶやいたりしてしまったんですが、傍から見ていてかなり怪しい光景だったに違いありません。なるほど、道理で誰も僕のほうに近付いて来なかったわけなんですなぁ。。。

 僕の行った日は天気はよくてもちょっと霞がかかったようになっていて、あまり遠くの山とかは見えなかったんですが、空気が澄んでいれば富士山が見えるんだそうです。 “てれぼーくん” のズームを駆使すれば、いったいどれくらいの距離感で見えるんですかね?…というのをちょっと計算してみたいと思うんですが、とりあえず MapFanWeb で2点間の概算距離を算出してみましょうかぁ。 僕のパソコンの画面で100kmのスケールの長さを定規で計ると53mmで、ランドマークタワーから富士山までの長さを計ったら44mmという数値になったので、100km:53mm=富士山まで距離:44mm。 ゆえに富士山までの距離=83kmということになりますか。これを “てれぼーくん” の最高倍率で割ると、0.76km。実に富士山まで760mという至近距離から眺めるのと同じということになるわけです。これはもう、あまりにも近すぎて富士山なんだか、ただの傾いた斜面なんだかよく分からん映像になってしまうに違いないので、自分で倍率8倍くらいの双眼鏡を持っていって、それで覗いたほうがいいかも知れませんね。その場合の距離は約10km相当ということになって、ちょうど “ぐりんぱ” という遊園地から見るのと同じような感じになる筈です。 “てれぼーくん” 、富士山を見るにはあまりにもオーバースペックやん!…って、いや、ただズームの倍率を最大まで上げなければいいだけの話なんですけどー。 で、このテレビ式の望遠鏡なんですが、倍率以外のスペックを見ると、使用硬貨は100円硬貨専用、投入枚数は標準で2枚となっております。100円硬貨専用なので投入口に豆乳を投入したりすると壊れます。注意が必要です。幸いにも僕は非常に注意深い性格なので、間違えて豆乳を投入するようなミスは犯さなかったんですが、あまり好きではなかったりしますからね、豆乳。ただの固まってへん豆腐やん!…としか思えないところがどうも好きになれない理由なんですが、いくら、コーヒーやバナナで味付けしてみたところで、駄目なものは駄目です。イクラ味にしても駄目です。イクラ豆腐という料理があるくらいだから、イクラと豆乳は相性がいいのではないか?…と、いくら言われても、駄目なものは駄目です。そもそも僕はイクラというのがあまり好きではなかったりするんですよね。イクラとオクラと桜肉。食べるんだったらやっぱり桜肉かな?…という気がするんですが、ウマというのは意外とウマかったりしますからね。 とまあそんなことで、僕はランドマークタワーの展望フロアの “てれぼーくん” に100円硬貨を2枚投入したわけなんですが、いちいちランドマークタワーの展望フロアの “てれぼーくん”…とフルネームで書くのも面倒なので、今後は真ん中の部分を省略して “ランぼーくん” と呼ぼうと思うんですが、ちょっぴり、乱暴を働いたり、怒って脱出したり…といった感じの名前ではあるんですけど。

  “てれぼーくん” のスペックに、可視時間:標準・約100秒とあるのがちょっと気になるんですが、確か “ランぼーくん” には約2分間覗けるようなことが書かれていたんですよね。無論、100秒というのは標準の数値なので、設定によって変更が可能なんだと思うんですが、 “ランぼーくん” 、2分にしてはちょっと短くないか?…という気がしたんですよね。いや、彼のことを決して疑っているわけではないんですけど。ちょっと乱暴者だけど、根は優しくて正直なヤツだと僕は信じているんですが、楽しいことをしていると時間が早く経つように感じられるというのはよくあることですからね。 地上観察があまりにも楽しかったので、実際は約2分間覗いていたにも関わらず、約100秒で終わってしもたやん!…というふうに思えてしまったんだと思うんですが、何だか20秒ほど物足りなかったような気がしたので、場所を変えてまた200円を投資してしまったわけなんですけど。 とまあ、かように中毒性のある “ランぼーくん” なんですが、硬貨収納量約600枚というのは、ちょっと少なくないですかね? 600枚ということは300回分。 1回あたり100秒として、いや、1回あたり2分間として、1時間で30回。ということは10時間分のコインしか収納することが出来ないということになりますよね。ランドマークタワーの場合は夜景スポットにもなっているので、展望フロアの営業時間は10:00〜21:00の11時間。夜遅い時間になると100円玉が入らなくなって使用不能ということにもなりかねませんが、ま、こんなもので夜景を見て楽しいのかどうかはちょっと疑問がありますし、昼間でもこんなので遊んでいるのは好奇心旺盛な外人のぺヤングと、物好きなサバ君くらいのものだったので、余計な心配はしなくてもいいのかも知れませんけど。

 …と、ここまで書いて気がついたんですが、この “てれぼーくん” 、仰角・俯角がそれぞれ20°となっておりますな。アカンやん!ランドマークタワーから斜め下45度の角度の地点に立ってる山田クンの姿、死角に入って見られへんやんっ!いや、俯角のスペックを確認しなかったのは不覚でありましたなぁ。仕方がないのでランドマークタワーから273m離れた地点、 “パンパシフィックホテル横浜” の前あたりにいた山田クンにはもっと離れて貰わなければならなくなるわけなんですが、えーと、計算がちょっと複雑なので図に書いてみましょうかね?

位置関係・断面図♪

 図が完成したところで、ここで三角関数の登場となります。山田クンは奈保子チャンのことが好き。田中クンも奈保子チャンのことが好き。奈保子チャンは、んーと、どっちも悪くないよねー♪ この野郎、俺の女を捕りやがって! 捕ったのはそっちのほうやろ! 何をこのー! やるのか、この山田ー! やってやろうやないか、この田中ー! ああん、けんかをやめて、2人をとめて、私のために争わないで、もうこれ以上〜、ちがうタイプの人を好きになってしまう、揺れる乙女心、よくあるでしょう♪…って、それは三角関係。ぜんぜん関係ないですね。 三角関数というのはアレです。サイン、コサイン、タンジェント〜、ログ、エルエヌ、ルート、パイ〜、答え一発、計算機♪…という歌に登場する最初の3つ。サイン、コサイン、タンジェントのことでありますな。ちなみに僕はこのコマーシャル・ソングをこのように記憶してるんですが、最後のところ、違ってますか? 答え一発、カシオミニ♪…でしたかね? その他、 “カシオで一発、ワンタッチ” とか、 “カシオの電卓、ワンタッチ” とか、 “ボインにタッチ、まいっちんぐ♪” とか色んな説があって、いや、いちばん最後のは明らかに間違ってるやろ!?…という気がするんですが、とにもかくにもその三角関数。 “ランぼーくん” から見て俯角20°ということは、ランドマークタワーと山田クンとがなす角度は70°ということになるんですが、展望フロアの高さとtan70°との関係からランドマークタワーの地表部地点から山田クンまでの距離を算出することが出来ます。 273m×tan70°を電卓で計算すると、ボインにタッチ♪ あ、間違えました。答え一発、750mっ! ランドマークタワーから273m離れた “パンパシフィックホテル横浜” の前に立っている山田クンには、あと477mほど北東方向に移動して貰わなければならないんですが、走って走って、どんどん走って、うわぁぁぁ!ザッボーン。 あっ、山田クン、217mほど走ったところで、海に転落してしまいましたぁ。 死角から死の世界へ一直線!いや、数奇な運命でありましたなぁ。。。 で、こうなったら仕方がないので、今度は田中クンを東南東の方向に走らせてみたいと思うんですが、ランドマークタワーから750mというと、下の平面図でいくと、ちょうど “赤レンガ倉庫” の辺りということになりますなぁ。

位置関係・平面図♪

 “ランぼーくん” のある高さ273mの地点から田中クンまでの距離は、えーと…、コサインを使えばいいんですかね? サイン・コサイン・タンジェントの覚え方は断面図の右上にあるような直角三角形の絵を書いて、それぞれアルファベットの小文字の筆記体で “” “” “” という字を書いてやればオーケーです。最初になぞったほうの辺を分数の分母のほうに、次になぞった辺を分子にしてやればいいんですが、ランドマークタワーの高さ273mが底辺の(c)に当たるので、cos70°=273/斜辺(c)。 ゆえに斜辺(c)=273/cos70°となって、これを電卓で計算すると、答え一発、798mっ! これを “てれぼーくん” の最高倍率の108で割ってやると、7.39m。 もし僕の計算が間違ってなければという条件付きなんですが、ランドマークタワーの展望フロアにある “てれぼーくん” を横浜ベイブリッジのほうに向けて目いっぱい下げて最大までズームしてやると、横浜赤レンガ倉庫に立っている田中クンが、片側1車線の道路の向こう側にいるくらいの大きさに見える。…ということになるわけですな。 大丈夫です。当初の計算からすると2倍強になってしまいましたが、これくらいの距離であれば、 「あ、田中クンやーん!」 と大きな声で呼びかければ、田中クンはきっと振り向いてくれるに違いありません。山田クンは海に落ちて、もう2度と振り向いてはくれなくなってしまいましたけどね。 ま、これで奈保子チャンも踏ん切りが付くのではないかと思うんですが、とまあそんなことで、今日の話はおしまい♪

 ということで、今日は ジョニー・ライトル です。いや、もしかしたらライトルではなくてリトルなのかも知れませんが、ライトルだと何だかホテトル、マントルに続く第3のデリバリー風俗みたいですもんね。青少年の健全育成という見地からすると、あまりよくありません。 あまりよくありませんが、 “LYTLE” という綴りからするとライトルのほうが正しいような気もするので、今日のところはこちらの表記を採用することにしますが、この人はですね、たいへん謎に満ちたヴァイブ奏者だったりします。どのように謎に満ちているのかというと、アルバムのジャケットにまったくと言っていいほど写真が出てこないので、どういう顔をしたオッサンなのか、あるいは意外と若かったりするのか、そこのところが謎なんですよね。唯一、本人をモデルにしたイラストが使われているのではないか?…と思えるのが この作品 だったりするんですが、これでは何だか “闇雲にマレットを振り回している、ちょっとアブないオッサン” にしか見えませんよね。本当にこんなスタイルで演奏してるんでしょうか? 謎です。 で、今回取り上げようとしている 『ザ・ループ』 というアルバムも今ひとつその素性がよく分からなかったりするんですが、ちなみにこれ、 “Amazon”の通販 で買ったんですけどね。もう1枚、 『ニューアンド・グルーヴィ』 という、新しく、そしてイカすアルバムとカップリングされて、 “2in1” のCDになっているんですが、ケースの裏を見ても中に入ってる二つ折りの紙を見ても、簡単なライナーノートのようなものと曲名が書いてあるだけで、録音日とかパーソネルといったデータはまったく記載されておりません。不親切な上に、もしかしてこれ、パチもんちゃうか?…という不信感を抱かせることにもなるんですが、もし今日のレビューが不振に終わったとしてもそれは僕のせいではなく、すべてこのCDのデータが不足しているところに原因があるものと思われます。ま、そうならないように腐心する覚悟ではありますが、ま、オリジナル・デザインのジャケットを小さいながらも用意してくれているのは、ジャケ絵を手書きする立場の人間としては嬉しいところなんですが、今日のところはもう1枚のほうは無視して、あくまでも 『ザ・ループ』 という1枚のアルバムとして取り上げてみたいと思います。

 ジャケットをよく見ると、右上のほうに “TUBA RECORDS” という字とチューバを吹いてるオッサンの絵が書いてあるので、おそらくそれがこのアルバムを作った会社なんだと思うんですが、聞いたことのないレーベルですな。CDの左下には “beat goes public” という字とベレー帽をかぶったオッサンの絵が書かれていて、よくみるとそのオッサンの顔が “bgp” になっていたりするんですが、これがいったい何を意味するものなのか、僕にはさっぱりわかりません。とりあえずチューバのほうだけ調べてみたところ、どうやらデトロイトのマイナー・レーベルらしいということが判明したんですが、CDのライナーノートらしき部分には太文字で “JULY 1989” とか “NOVEMBER 1989” などと書かれていて、これはもしかして結構新しい時期の吹き込みだったりするんですかね?…と思ったら本文中には1966年に発売されたと判断してよさそうな記載があったりして、何が何だかよく分かりません。おまけにパーソネルが分からないことには話にもならないので、さらに調査を進めた結果、 ここ にジョニー・ライトルのディスコグラフィーがあることが判明して、僕は思わずサタデーナイトにフィーバーしてしまったんですが、なるほど、これは1964年と65年の2回に分けて録音されたものだったんですな。64年のセッションにはライトルの他にオルガンのミルト・ハリスが入っていたりして、その他はベースにドラムスにコンガといった編成になっているようです。で、もうひとつのセッションにはですね、オルガンに加えてウイントン・ケリーのピアノも入ってるやーん♪…という事が判明して、僕は小踊りするほど嬉しくなってしまったんですが、ま、タコ踊りをするほど大喜びするまでには至らなかったんですけどね。冷静沈着な僕が我を失うほどのことではなかったんですが、これはちょっと期待が持てるかも知れませんなぁ。

 …という僕の思いは1曲目のタイトル曲、 「ザ・ループ」 が始まった瞬間に消え去ることになったんですが、な、な、なんすか?この軽いサウンドは? ライトルくんのオリジナルらしく、シンプルな童謡風のメロディそのものは悪くないと思うんですが、ポクポクというラテン風の木魚みたいなリズムが何とも安っぽくて、で、サビの部分で、ぴゃ〜♪…という音と共に登場するオルガンが、もうどうしようもないくらいに下品でありますなぁ。テーマ部は2回リピート式になっていて、その2回目は主旋律の演奏をオルガンに委ねて、ライトル自身はヴァイブからマリンバにスイッチするなどして、それなりの工夫は感じられるんですが、この木琴とオルガンとの組み合わせが何とも言えずに小学校の音楽室みたいで、ま、ノスタルジックと言えば確かにノスタってはいるんですけど。 以下、マリンバの軽くて短くてチープなソロがあって、テーマの合奏パートに戻って、フェードアウトして、おしまい。 え?こんだけ? と、目が点になりそうな出だしでありましたが、ま、これはあくまでもケリー抜きのセッションでしたからな。2曲目に期待することにしましょう。 と、僕の期待を一身に背負わされて登場することになったのは、スタンダードの 「ザ・モア・アイ・シー・ユー」 でありますか。この1曲だけが唯一、オルガン抜きのケリー入りという編成になっているので、大いに期待が持てるというか、もしこれが駄目だったらもう後はないというか、そういう “背水の陣内閣” みたいな位置付けにあるわけなんですが、果たしてどうでしょうな? 実はこれ、今から1ヶ月ほど前に入手して、この原稿に着手するまで、いちいち調べるのも面倒なのでパーソネル不明のままで何度か聴いていたんですが、言われてみれば確かにこのピアノはケリーでありますな。もう、めっちゃケリーです。そのことが判明しただけでも、わざわざ調べただけの甲斐があったというものですが、ケリーのピアノのイントロに続いて、ライトルがテーマ・メロディを演奏しております。ゆったりとしたテンポが何とも耳に心地よく、能天気なコンガの音がちょっぴり余計だったりもするんですが、で、続いてはヴァイブのソロでありますか。決してマレットを闇雲に振り回すふうでもなく、落ち着いた感じの悪くない出来だと思うんですが、続くピアノのソロはアレですな。めっちゃケリーですな。実にケリーらしくて素晴らしい出来でありまして、とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。 十分、ジャズであると評価してもいい仕上がりでありまして、これで何とか背中ギリギリのところまで迫った水面から一歩前進することが出来たと言えるでしょう。 ま、山田クンの場合は一直線に海に転落しちゃったんですけど。

 3曲目、 「ザ・マン」 。ライトルのオリジナルでありますが、 「ザ・男」 とは、何とも漠然としたタイトルを付けたものでありますな。日本語にすると何となく “さぶ”系 の気配が感じられ、その気がない僕は “さぶ”系 と聞くと寒気がしたりもするんですが、聴いてみたらそれほど “さぶ” ではなくて、おまけに北島三郎でもありませんでした。ピアノによるイントロに続いて登場するテーマ部はモーダルで新主流派っぽいサウンドとなっておりまして、途中から、ぴゃ〜♪…と、オルガンが入ってきたりもするんですが、クールな雰囲気はそれほど大きく損なわれるようなことはありません。 1曲目はいったい何やったんや?…と言いたくなるほど、コロっと作風が変化しているんですが、僕はこういう路線のほうを全面的に支持します。 で、テーマに続いてライトルのソロになるんですが、テクニックをひけらかすでない、淡々としたマレットの振り回し具合は共感の持てるところでありまして、微妙にグルーヴィでもあり、ちょっぴり清新でもあり…とか言ってるうちに演奏のほうはフェイドアウトして終わってしまいましたが、ケリーのソロをフィーチャーするとかして、もうちょっとじっくり聞かせて欲しかったところではあるんですけど。 で、続く4曲目は歌物ナンバーの 「タイム・アフター・タイム」 。いや、これはいいですな。個人的にもけっこう好きな曲だったりするんですが、ライトルくんはベースとコンガだけをバックに、とってもシンプルに演奏しているんですが、その単純なところがあまり複雑でなくて、いいと思いますね。骨を折るにしても単純骨折のほうが治りやすいですからね。 僕の左脚の骨もレントゲンを見て、あ、ここが折れてるやん♪…と一目で分かるような単純明快なものだったので、おかげさまで事後の経過も順調なんですが、まったくウケませんでしたからね、僕らの教室に参上した“複雑骨折”。…という話は、ま、 ここ を見て貰うとして、これを書いた当時、僕はまだ骨を折るような怪我をしたことがない少年だったんですなぁ。 で、単純明快な形で始まったこの演奏、テーマ部の途中からドラムスが入ってきて、開始から18秒くらいでさほど単純でもない、ごく普通の感じになってしまったんですが、その後、ピアノが出てくるわ、オルガンも入ってくるわで、すっかり賑やかになってしまいました。ま、ピアノ入りのセッションではオルガンがわりと神妙にしているのが救いだったりするんですけど。 アドリブ・パートのほうはヴァイブ、ピアノの順で各自が持ち味を存分に発揮したプレイを展開しておりまして、ま、いいんじゃないすかね? とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 続いてはライトルのオリジナルで、 「ビッグ・ビル」 という曲でありますな。ここまで、オリジナル、スタンダード、オリジナル、スタンダード、オリジナルという順番で来ていて、このアルバムではどうやら、そういう編集方針の下に成り立っているようなんですが、ヴァイブとオルガンのコール&レスポンスで演奏されるこの曲、ナット・アダレイの 「ワーク・ソング」 を、ちょっぴり尻切れトンボにしたような感じでありますな。ちなみに尻切れトンボというのは切れ痔に苦しむトンボのことではなく、とんぼ草履という履物から来ているという説があるんだそうですが、ま、それはともかくとして、ソロ先発はジョニー・ライトルでありますな。いつの間にやらピアノが入ってきていて、アドリブのバックではオルガンよりも目立つ存在になってたりするんですが、ライトルくんは時おり倍テンポのローリングするようなフレーズを混ぜたりして場を盛り上げておりまして、でもって最後は、まったく振動しないヴァイブの音で締めくくっておりますな。この人の得意技だったりするんですよね、まったく振動しないヴァイブ。 そんなの、ちっともよくないのぉ。…という不満の声が聞こえてきそうなんですが、僕もこの手法はあまり好きではありません。 ま、人と違ったことをしようというチャレンジ精神はそれなりに褒めてあげないと、拗ねたり、グレたり、イジケたりといった状態になることが考えられるので、慎重に対処しなければならないんですけど。 で、続いてオルガンが、ぴゃ〜♪…と出てきて、そのままソロに突入するのかと思ったら、2番手はケリーのピアノだったりするんですが、相変わらずご機嫌で、とってもタキゲンだと思います。 あ、制御盤のカギなんかを作っている会社なんですけどね、タキゲン。恐らく創業者の名前が “滝 源太郎” だったりするんだと思うんですが、そんなことでまあ、テーマに戻って、おしまい。 あ、この曲のテーマはですね、提示部と再現部ではメロディが違っていたりします。提示されたものが再現されないわけなので、後テーマは再現部とは言えないわけなんですが、最初に提示されたものより更にシンプルになっていたりして、ほとんど1つの音程だけで成り立っているような感じなんですが、最後はフェイドアウトして、静かに消えていって、おしまい。

 ということで、次。6曲目の 「ポッサム・グレイス」 はジョニー・ライトルのオリジナルです。 オリジナル、スタンダード、オリジナル、スタンダード、オリジナルの順に来て、今度はスタンダードの番だとばかり思っていたら、ちょっとフェイントを食わされた感じなんですが、ま、レコードでいくとここからがB面ということになるので、新たな気持ちでイチから出直しといったところですかね? A面の1曲目と同じく、ピアノ抜きのほうのセッションになるんですが、あの悪夢の “メチャ軽” 路線をここで繰り返すことはなく、ま、それなりの作品には仕上がっております。冒頭、オルガンが激しくリピートするバッキングと、ヴァイブが奏でるメロディとにテンポとリズムの差を設けるという、ちょっと斬新な手法が取られているんですが、60年代のソウル系オルガン・ジャズにはよくありがちなパターンなんですけどね。 で、ライトルのソロに入ってからは、わりと普通の感じになったりするんですが、時おり、オルガンが下品な音を出して入ってくるところはちょっと頂けませんね。 で、ソロの後半、ほとんど “まったく振動しないヴァイブ” で通しているのもちょっと頂けないんですが、その後で再び、バックのオルガンが速いテンポの反復リピートに転じるところはなかなかいいと思います。 というか、要するにテーマ部に戻ったということなんだよな。…と、すぐに気が付いたわけなんですが、とまあそんなことで、この曲はおしまい。

 で、次に登場する 「クリスト・リデンター」 は、どこかで聞いたことのある曲名、及び、どこかで聴いたことのあるメロディだと思ったら、デューク・ピアソンのオリジナルだったんですが、これはアレです。ドナルド・バードの意欲作 『ア・ニュー・パースペクティブ』 に入っていたナンバーですよね。日本人なら思わず 「クリスト・リデンダー」 と言いたくなるところなんですが、最後の “” にはテンテンがついてなくて、ちょっと嫌ですね。“Cristo Redentor” というのは何の事かと思ったら、コルコバードのキリスト像なんだそうですが、いや、コルコバードのキリスト像と言われても、それが何なんだかよくは分からないんですけど。コルコバードというのは地名で、キリスト像というのはキリストの像のことなんですかね? ま、いずれにせよ、言われてみれば確かにゴスペル色の強い曲調だったりするわけなんですが、ライトルくんはこれをマリンバで演奏しているんですよね。 マリンバという楽器はヴァイブラフォンと違ってほとんど音が振動しないので、まったく振動しないヴァイブが好きな彼には最適な楽器と言えるかも知れませんが、ま、早い話が木琴のようなものなので、木・金曜日に聴くにはいいかも知れませんね。これを書いているのは日曜日なので、ちょっと辛いところもあるんですが、海が大好きな高齢の女性、マリン婆さんとかだったら曜日を問わず楽しめるかも知れません。いや、ちっともマリン的でなければ、婆さんウケのするサウンドでもなかったりはするんですけど。

 ということで、次です。8曲目、 「ザ・シャイスター」 。 ライトルくんのオリジナルです。 “THE SHYSTER” って、何やろ?…と思って翻訳サイトにかけてみたら、 「インチキ弁護士」 というまったく予想外の訳語が出てきて、ちょっとビビってしまったんですが、股に皮膚病をかかえて、果たしてまともな弁護活動が可能なんですかね?…って、それはインチキ弁護士ではなくて、インキン弁護士でありますか。 ま、インチキよりもインキンのほうが遥かにマシなような気もするんですが、で、聴いてみると成るほど。これはまた、何とも言えずにインチキ臭い感じの曲でありますな。…ということはまったく無くて、急速調のなかなかカッコいいナンバーだったりするんですが、見た目だけで中身が伴わない、そういったヤツなのかも知れませんね。テーマの後、めずらしくミルト・ハリスのオルガン・ソロになるんですが、時おり、ぴゃ〜♪…という下品な音を出すのと同じ人とは思えないほど、落ち着いた感じの弾きっぷりでありまして、裏に回るとヤアヤア言うものの、ほな、言いたいことがあるなら言うてみぃ!…と、前のほうに引っ張ってくると、何も言えなくなってしまう。 そういうタイプなのかも知れませんね。 で、続くライトルくんは、今までになく饒舌なプレイを展開してたりするわけなんですが、これはもしかして、オルガンへの当てつけですかね? その勢いに触発されたのか、続くケリーもかなり頑張っていたりするんですが、とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。ジャズ的スリルという点では本作の中で、屈指の出来であると言えるのではないでしょうか?

 激しい一発の後には、しみじみとしたバラードを。ロジャート=ハートの名曲、 「マイ・ロマンス」 。 いいですよねぇ、ロマンス。僕は子供の頃からずっとロマンスに憧れていたんですが、中部地方在住なので小田急のロマンスカーに乗る機会はほとんどなくて、いつも名鉄のパノラマカーばかりでありました。 ま、どちらもほとんど同じようなものなので、別にどうだっていいんですけど。 些事にこだわるほど熱心な鉄道マニアというわけでもなかったですしね。近鉄の2階建てビスタカーの1階席は駅に止まるとホームで電車待ちをしているギャルのパンツがよく見えるので、ちょっと好きだったんですけど。 で、演奏が始まる前から “しみじみとしたバラード” と決め付けてしまって、果たしてどうなのかと懸念してたんですが、まったくもって正解でありました。ライトルくん、日本人の気持ちが分かる、なかなかのナイスガイでありますな。ちなみに僕は貝類がそれほど好きではないので、赤貝とかマテ貝とかムール貝とかはさほどソソられるものがなかったりするんですが、基本的にオトコは嫌いなので、ナイスガイというのもそれほど嬉しくはありません。 ま、性格の腐ったオトコよりは格段にマシだとは思うんですけど。 で、演奏のほうはアレです。ピアノ・トリオをバックに、ライトルが優しくソフトにロマンチックなメロディを歌い上げるわけなんですが、コンガがほとんど聞こえないところがいいですよね。ロマンスにチャカポコは似合いません。ついでにオルガンも場合によっては空気をブチ壊してしまう恐れがあるので、出てこなくて正解なんですが、ライトルのソロの後半、演奏が次第に佳境に入ってくると遂に我慢しきれなくなって、ぴゃ〜♪…という破廉恥な音を立てながら登場したりして、ま、これはある程度、予想の出来る展開ではあったんですけど。幸い、場の空気をブチ壊すところまでは至らなくて、とまあそんなことで、この曲に関しては、おしまい。

 ということで、いよいよラストです。 派手目→しみじみ…とくれば、最後はリラックスした軽めのファンキー・チューンで締めて欲しいところなんですが、ジョニー・ライトルのオリジナル、 「ホット・ソース」 でありますか。名前からして、コテコテのソウル・ジャズで終わってしまう懸念もあるわけなんですが、ラテンのリズムに激しくオルガンが絡んで、ライトルくんはマリンバを乱打…という、あまり日本人の趣向を理解しているとは思えない作品を持って来てしまいましたな。 ま、最後は派手に終わろう!…というスケベ心の発露ではないかと思うんですが、最後がマリンバというのはどうしたものですかねぇ。。。 ソウルというより、ちょっとワヤ。…といった感じなんですが、オルガンが出てきて、さあ、これから!…というところで、急にフェイドアウトして、演奏はおしまい。 ああん、とっても尻切れトンボやーん! …と思わずにはいられないんですが、でもまあ、終わってしまったものはしょうがないしぃ。 とまあそんなことで、今日のところは以上です。


【総合評価】 最初と最後はハズしましたが、それ以外は概ね良好です。 特にケリー参加曲の出来がよくて、いや、彼に参加してもらって本当に正解でしたな。もしオルガンだけをバックにしてたら、日本人には見向きもされなかったと思います。それだけに、CDにはちゃんとパーソネルを書けよ!…と思わずにはいられないんですが、ま、所詮は輸入盤で、外人がやったことですからねー。 A面・B面とも、3曲のオリジナルにスタンダード、もしくはピアソンの曲を挟むという、ヤマザキのダブルサンドな発想もいいですよね。 もう1枚、似たような雰囲気のアルバムもオマケに付いてきて、“2in1” のCDで買うと、とってもお得だと思いまっす♪


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