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【アルバム名】
THAT’S WHERE IT’S AT (BLUE NOTE)
【リーダー名】
STANLEY TURRENTINE (1962/1/2)
【パーソネル】
STANLEY TURRENTINE (ts) LES McCANN (p) HERBIE LEWIS (b) OTIS FINCH (ds)
【収 録 曲】
SMILE , STACEY / SOFT PEDAL BLUES / PIA / WE'LL SEE YAW'LL AFTER WHILE ,
YA HEAH / DORENE DON'T CRY , I / LIGHT BLUE
【内   容】
 “複雑骨折”という言葉がありますよね。医学的には何か明確な規定があるのか も知れませんが、簡単に言ってしまえば複雑な骨折。ま、そういったものではないかと 思うんですけどね。もう少し詳しく言うと、複雑に骨が折れること。さらに詳しく“複 雑”のほうまで説明を加えるなら、種々の事情や関係が重なり合い入り組んで骨が折れ ること。となって、何だか余計にワケがわかんなくなっちゃいますね。世の中、なんで も詳しく説明すればエエちゅうもんでもない。ということがわかって戴けたと思います が、とにもかくにも“複雑骨折”。さいわい、僕はいままで骨を折るような怪我をした ことがありません。骨だけじゃなく、桜の木の枝だって折ったことはありません。桜の 木の枝を折って、「実は桜の木の枝を折ったのは僕なんだよ。」と正直に謝ったりした こともありません。なんて不正直な少年なんでしょうね。ま、桜の木の枝を折ったこと がないんだから謝らなくって当然なんですけどね。
 
 で、僕は骨と桜の木の枝だけでなく、話の腰だって折ったことがありません。よ くいますよねぇ、すぐに人の話の腰を折る人。「よくいるよねぇ。すぐに人の話の腰を 折る人って。」というような話をしていて、「そうそう!いるいるぅ!」とか調子よく 相槌をうってくれるもんだから、てっきりこっちの話を聞いてくれているのかと思った ら、いきなり「でさぁ、南京玉すだれって、やっぱり東京タワーだよねー。」などとこ っちの話とはぜんぜん関係のない、しかも、まったくもって実にどうでもいい話を勝手 に始めたりして、テメーは人の話を聞いてんのかー!と文句のひとつも付けたくなるよ うな人。でも僕は違います。僕はサバですが人の話の腰をサバ折りするようなことはな く、「うんうん。」と相槌を打ちながら、静かに人の話を聞いているタイプでございま す。いや、なんせ根がシャイで無口なもんで、自分から口を開いて“南京玉すだれと東 京タワーの関係について”というお題で一席ぶつ。というようなことは僕の趣向には合 わないわけでありまして。。。そこで、人の話を熱心に聞いているようなフリをして、 テキトーに話を合わせてその場をやり過ごすようにしているのでありますが、とにかく 僕は話の腰を折らない、桜の木の枝も折らない、骨だって折らないと。
 
 骨は折れないけど、関節はすぐにハズれちゃうのぉ。。。という体質の人がいま すよね。いわゆる“脱臼癖”というやつですか。ビッグマックを食べれば、すぐにアゴ がハズれる。卓球をすれば肩を脱臼する。そういう人が確かにいます。そういう人は電 話の受話器に手を伸ばそうとしただけで肩がハズれて救急車で運ばれたりするハメにな るわけですが、ハズれた肩はちゃんとハメねえといけねえ。とハメネイ氏(←イランの 最高指導者)も申しておりました。さすがは最高指導者だけあって最高に適切な指導を してくださるわけでありますが、幸いにも僕は、骨が折れない変わりに関節がハズれる ということもありません。肩もハズれないし、アゴもハズれないし、ハメをはずすこと だってありません。昔はよく自転車のチェーンがはずれたりしたものでありますが、最 近ではめったにそういうこともなくなりましたね。で、話は戻って“複雑骨折”なんで すが、“複雑骨折”がどうしたのかというと“参上”したんですけどね。いつのことか と言うと、僕が高一か高二だったから、今から15年ほど前のことですか。で、どこに なのかと言うと、海星高校の教室になんですけどね。
 
 それは文化祭の前日の朝こと。僕が教室に入ると、それは“参上”しておりまし た。いや、黒板にバカでかい字で“複雑骨折参上!”と書いてあったんですよね。僕は それを見て、「ん?」と思いました。複雑骨折参上?複雑な骨折が参上?もっと詳しく 言うと、種々の事情や関係が重なり合い入り組んで骨が折れることが訪問に上がった? 何のことだかさっぱりわかりません。
が、僕は頭がよくてクラスでも1、2を争う麒麟児だったので、すぐにピンと来ま した。ヒントは“文化祭の前日”ということで、これは恐らく、明日の文化祭のバンド 演奏に“複雑骨折”という名前のバンドが登場するのであろう。“聖飢魔II(←ローマ 数字の2。ちゃんと表示出来てる?)”みたいに、何か漢字四文字でカッコいいバンド 名はないものか?とあれこれ無い知恵を絞ったあげく、とどのつまりに思い付いたのが “複雑骨折”だったのだろう。よく考えたぢゃん!と僕は感心しました。“複雑骨折” 。いい名前ぢゃないの!で、これだけ黒板にでかでかと“参上!”(←学校中すべての 教室に参上したらしい。。。)したからには生徒の間で話題にならない筈がなく、明日 の文化祭で「噂の“複雑骨折”」が姿を見せた瞬間、大フィーバーが巻き起こり、感極 まって失禁しちゃうスペイン人教師だって続出しちゃうだろう。というふうに僕は想像 してたんですが、教室に入ってきた生徒たちは黒板をちらっと見るだけで、“複雑骨折 の参上!”に関しては何の話題にもならなかったんですよね。何かこう「見てはいけな いものを見てしまった。。。」とか、「これは見なかったことにしておこう。。。」と いった感じのリアクションでありまして。それでもさすがに担任の大庭クンが教室に入 って来て、「何ですか、この複雑骨折は?」と言ったときには教室中がドリフの大爆笑 !かと思ったんですが、生徒達は声ひとつ発することすらなく、そしてせっかく参上し た“複雑骨折”は無言のうちに大庭クンの手によって消し去られたのでありました。
 
 翌日、“複雑骨折”の演奏がまったく盛り上がらずに終わってしまったことは言 うまでもありません。“複雑骨折”という卓抜なネーミング。学校中の教室の黒板に参 上するというアイデア。ヒーローの予感と確信と、そして失意と絶望。15年たった今 、彼らに当時の心境をじっくりと語ってもらいたい気がしてなりません。これを読んで いる人で「実は僕が・・・」という人がいたら、是非ともメールをくださいね。
 
  sabapyon@mb.infoweb.ne.jp 塩サバ通信「実は僕が“複雑骨折”だった」係 まで
 
 いや、途中で話の腰を折ったりしませんってば。
 
 @ さ、スタンリー・タレンタインです。レス・マッキャンとの共演盤です。
 
  ・めくったら すけすけレース 真っ赤 ん〜♪
 
  > ん〜♪
 
目にも鮮やかな赤いパンツに一目惚れしたスタ・タレは一緒にプレイすることを切 望するわけですが、レス・マッキャンといえばパシフィック・ジャズの人気者。アーノ ルド坊やだって人気者。湯呑みや茶碗は瀬戸物。ひなのちゃんは好きモノ。で、一方の スタ・タレだってブルーノートではいっぱしの顔ですよね。そこでBNのアルフレッド ・ライオンとパシ・ジャズのリチャード・ボックは考えました。パシ・ジャズ盤『レス ・マッキャン・イン・ニューヨーク』にサイドマンとしてスタ・タレを参加させる変わ りに、今度はBNのスタ・タレのリーダー作にマッキャンをサイドマンとして起用しち ゃおうと。そうして作られたのがこの『ザッツ・ホエア・イッツ・アット』というわけ ですな。というようなことが後藤誠クンの手による日本語ライナーに書いてあったので 、恐らくそういうことなのではないかと思います。んなことで、では1曲目から。
 
 「スマイル・ステイシー」はマッキャンのオリジナルで、タイトルは「笑ってよ 、ステイシー」というような意味なんでしょうね。笑って〜、笑って〜、笑ってステイ シー♪“キャンディ・キャンディ”の節で歌ってくださいね。そういえば昔、「笑って ポン!」というテレビ番組があったような気がしますが、ここしばらくの間に耳にした ソウルものの中では、最も心を浮き立たせてくれる曲ですよね。オープニング・コーラ スでは、「教会」っぽい作品が持つ、陽気で活気に満ちた表現の自由さが見事に紹介さ せております。もう、ダドリー・ウィリアムスがライナーノートに書いてることに間違 いはないわけです。レス・マッキャンという人はジュニア・マンスを更に黒っぽく、俗 っぽくしたような感じのスタイルの持ち主なんですが、それがスタ・タレも持つ、いい 意味でのエンターテイメント性とよくまっちんぐマチコ先生してますよね。
曲自体は単純なリフ・ナンバーなんですが、執拗に繰り返すことによるグルーヴ。 そういったものを感じさせずにはいられません。・・・って、ナニ言ってんだか。こう いう演奏は理屈抜きに楽しめば、それでよろしい。スタ・タレ、レス・マック共々すこ ぶる快調で、自分の持っているすべてを惜し気もなくご開帳してくれております。ジャ ケ写のスタ・タレの「どうや!」と言った感じの自信に溢れた表情がよろしいですな。
 
 はい2曲目。「ソフト・ペダル・ブルース」はスタ・タレのオリジナル。息苦し くなるほどディープなスロー・ブルースでありまして、ハービー・ルイスの地を這うよ うなピチカートも印象的ですね。で、スタ・タレのソロは余裕と貫禄の兵六餅。といっ た感じでありまして、君は知っているかな?兵六餅(ひょうろくもち)。ボンタン飴の 兄貴分といった感じのお菓子でありまして、キャラメルと同じような紙の箱に入ってお ります。で、箱を開けると中にはやはりキャラメル大の四角い“餅”が入っておりまし て、ただキャラメルのように紙で包んでなくて、その変わりにオブラートで包まれてお ります。で、そのオブラートなり食べるわけなんですが、なんだか今ひとつ衛生観念に 乏しいパッケージングのような気がしないでもないんですけどね。で、妹分のボンタン 飴のほうは、ほんのり柑橘系のフレーバーでなかなかオイシイものなんですが、一方の 兵六餅のほうは海苔の風味が効いていて、とっても気持ち悪いです。などと、どーでも いいことを書いてるうちに2曲目は終わっちゃいました。3曲目は再びマッキャンのオ リジナルで、「ピア」。ちょっとした小品。といった感じのナンバーで、短いテーマの あと、マッキャンのソロとなります。唸り声など交えちゃって、実にグルーヴィですな 。こういうエンターテイメント系のピアノ、略してエン系ピアノはこと日本では軽視さ れがちなんですが、ケーシーは高峰だよね。ということを感じさせ、個人的には悪くな いと思います。続くスタ・タレのソロも余裕綽綽、座れば牡丹、歩く姿は由利徹。
 
 はい4曲目。「ウィル・シー・ヨール・アフター・ホワイル・ヤー・ハー」もマ ッキャンのオリジナルで、えらく長いタイトルでありますが最後のほうは「ヤー」とか 「ハー」とか言ってるだけで、あまり深い意味はないものと思われます。ワルツ・タイ ムのゆったりしたテンポの、ほのぼのとした愛らしいナンバーで、オープニング・コー ラスでのスタンリーのサックスは、ジャズ・シーンから逃げ出したいとでも叫んでいる ようだ(この感じを存分に味わっていただきたい)。・・・って、そんなこと言われて もなぁ。言ってる意味が今ひとつよくわかりませんしね。個人的にはタレ、マック共々 、実に楽しく快活なソロを繰り広げているように思われます。はい5曲目。またしても マッキャン・オリジナルですが、ここでバラードの登場となります。「ドリーン・どん と暗い愛」。タイトル通り、ドリーンのどーんと暗い愛を感じさせるナンバーですが、 愛というのは基本的には暗いものだと思いますけどね、僕の経験上。耳元で女を口説く かようなスタ・タレのむせび泣くテナーが、霧笛が俺を呼んでるぜ。嗚呼、とんでも戦 士ムテキング。
 
 はいラストですな。「ライト・ブルー」はスタ・タレの実兄トミ・タレのオリジ ナルでありまして、あ、この曲はどっかで聴いたことがあるよね?と思ったら、ホレス ・パーランの『アップ・アンド・ダウン』でも演奏されている曲だそうです。このトミ ・タレという人、トランペットを吹かせると、どーも今ひとつである。というのが世間 一般の評価のようですが、曲を作らせると結構マイナー調のいい曲を書くよね?と僕個 人は高く評価しております。で、中でもこの「ライト・ブルー」というのはトミ・タレ 界の最高傑作ではないか?と思っているんですが、実にいい曲ですよねー。「ジャズは 哀愁である。」と公言して憚らないヤックンだって、思わず納得して納豆を食う。とい うくらいの“哀愁ナンバー”でありまして、その曲調に配慮して“ノー天気イケイケ・ ピアニスト”のレス・マッキャンも、ここでは抑え気味のクールなソロを披露しており ます。ソロ2番手、ハービー・ルイスのピチカートも強力無比なれど哀感を損ねること はなく、続くスタ・タレも地味な兄貴に敬意を示し、味わい深いブロウに徹しておりま す。
完璧な出来栄えと言い切っても過言ではジュゴン。ぜんぜん人魚には見えませんけ どね、ジュゴン。どう見てもタダの“おさかな系”ですもんね、人魚のジュゴン。とい うことで、とってもいいアルバムだと思います。おしまい。


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