SLOW FREIGHT (CADET)

RAY BRYANT (1966/12)

SLOW FREIGHT


【パーソネル】

ART FARMER (tp,flh) SNOOKIE YOUNG (tp,flh)
RAY BRYANT (p) RICHARD DAVIS (b) FREDDIE WAITS (ds)

【収録曲】

SLOW FREIGHT / AMEN / SATIN DOLL / IF YOU GO AWAY
AH , THE APPLE TREE / THE RETURN OF THE PRODIGAL SON / THE FOX STALKER

【解説】

 静かな湖畔の森の影から、もう起きちゃいかがとカッコーが鳴く、カッコー、カッコー、カッコーカッコーカッコー♪ カッコー、カッコー、カッコーカッコーカッコー♪ カッコー、カッコー、カッコーカッコーカッコー♪ カッコー、カッコー、カッコーカッコーカッコー♪…って、いつまで歌とるねん!

 ということで、今日は “カッコー” について考えてみたいと思います。題して 「格好いいカッコーの話」 。 いや、カッコーを語るには格好の季節になりましたよね。 といっても僕はカッコーに関してはまったく何も知らないんですが、それはそうと冒頭に紹介した 「カッコーの歌」 に、2番の歌詞があるというのを知っていましたか?

 しずかな湖畔の森の影から、おやすみなさいとフクロウ鳴く、ホッホー、ホッホー、ホッホーホッホーホッホー♪

 というのがそれであります。いや、何だか今ひとつですね。カッコーに比べて、あまりにも語呂がよくありません。だいたい、 「カッコーの歌」 なのに、どうしてフクロウが出てくるんだ?…という事からして許せない気がするんですが、いや、もしかしたらこの歌は 「カッコーの歌」 ではなくて、 「静かな湖畔」 というのが正式名称なのかも知れませんけどね。それはそうとこの歌はあまりにも展開が早過ぎますよね。1番の歌詞でカッコーに起こされたと思ったら、次の瞬間には早く寝ろとフクロウに諭されて、起きてる時間ないやん!…と思わずにはいられません。第一、フクロウにいつまでもホッホー、ホッホー、ホッホーホッホーホッホー♪…と輪唱で歌われては、やかましくて寝れないじゃないか!…という気もします。

 だいたいフクロウなんぞに、早く寝ろと言われたくないですよね。フクロウなんてのは典型的な夜型人間…というか、夜型フクロウでありまして、暗くなると目をランランと輝かせて夜遊びしまくる、まるで不良少年のようなキャラですもんね。善良な人間を早く寝かしつけておいて、その間に目一杯遊びまくってやろうという、そういう魂胆なんでしょう。僕は健全な青年で夜遊びなどしたことがないので、フクロウどもが夜中に何をして遊んでいるのかまったく検討がつかないんですが、もしかしてゲーセンでUFOキャッチャーしてるとか、ファミレスで「新宿の母」の 200円占いをしてるとか、あるいはギャル系のフクロウと不純異性交遊に耽っているとか?許せないと思います。お巡りさんはいったい何をしているんでしょうね?今夜あたり、静かな湖畔の森の影に踏み込んで、不良フクロウを一網打尽に補導して欲しいところでありますが、それに比べて、カッコーというのはいいですよね。爽やかです。ギャル系カッコーとの不純異性交遊に走ることもなく、純粋に愛を確かめ合っているような気がします。ま、不純だろうが、純粋だろうが、結果的にやってることは同じのような気もするんですけどね。

 ところでカッコーというのは一体、どこに棲息しているんでしょうね?ま、おそらく静かな湖畔の森の影なんだろうな。…ということは分かるんですが、僕は未だかつて静かな湖畔の森の影でカッコーが鳴いてるのを聞いたことがありません。もしかして日本にはいない鳥なんでしょうか? 問題の 「静かな湖畔」 という歌もイメージ的には日本の霞ヶ浦とか印旛沼とか手賀沼とかではなくて、例えばスイスのレマン湖とかのほとり?…といった感じがしますもんね。 と思って調べてみたところ、実はこの歌の舞台って、野尻湖だったんですね。あそこにはスモールマウスバスとか、ナウマンゾウくらいしかいないものだと思っていましたが、カッコーまでいたんですね。ちょっと意外な感じがしました。 「静かな湖畔」 という歌は長らく作詩作曲者不明とされてきましたが、どうやら詞のほうは山北多喜彦という人が書いたみたいです。多喜彦クンが婚約者にあてた手紙の中に、ほぼ同一の歌詞が見つかり、詞の作者は明らかになった。…とのことでありますが、いや、婚約者にあてた手紙に、カッコー、カッコー、カッコーカッコーカッコーなどと書くというのはどうか?…という気がしないでもないんですが、 「ひろぽん(仮名)、今度、こんな歌を作ったよ。 (前略) カッコー、カッコー、カッコーカッコーカッコー♪」 「ああん、タッキーってとっても詩人なのぉ♪」 …みたいなやりとりがあったのかも知れません。いいではないですか、本人たちがそれで幸せならば。

 ま、惜しむらくはそこで、ひろぽん (仮名) が、「ああん、でも2番の歌詞は今ひとつなのぉ。」…という助言をしてくれなかった事なんですが、ま、余計な事を言ってタッキーに嫌われたくないという気持ちがあったのかも知れませんけどね。僕としても、もしギャル系読者から 「ああん、今日の “じゃず・じゃいあんと” は今ひとつなのぉ。」…などと言われたらかなり傷付いちゃうに違いなくて、いや、ナイーブでセンシティブな生き物ですからね、オトコというのは。 ちなみに作曲者のほうは山北多喜彦クン説、外国民謡説、不明説の3つがあって、未だによく分からんというのが実情のようです。外国民謡説の中にもアメリカ民謡説、スイス民謡説、どこか分からないけど、とにかく外国説。…の3つがあって、かと思えば、作詞者は多喜彦クンではなくて “東京YMCA” という説もあったりして、YMCAは西城秀樹の 「ヤングマン」 ではなかったのか?…という気もするんですが、ま、それ以外の歌を作っていたとしても別に不思議ではないんですけどね。

 調べれば調べるほどこの歌には謎が多くて、曲名にしても 「静かな湖畔」 だったり、 「静かな湖畔に」 だったり、 「静かな湖畔で」 だったり。 そのうち、静かな湖畔の森影近く、 起きてはいかがと鳴くよカッコー♪…などという新たな歌詞まで登場しました。ちなみに2番の歌詞は、夜もふけたよおしゃべりやめて、おやすみなさいと鳴くフクロウ♪…であります。いずれにせよ、フクロウって何だか説教くさくて、ウザいよな。…という感想に変わりはないんですが、とにかくまあ、よく分からないので、この際この歌のことはきっぱりと忘れることにして。

 カッコーです。カッコーなどという片仮名の名前がついているので、外国の鳥かと思われがちなんですが、ちゃんと漢字の名前だってあります。 “郭公” というのがソレです。ちなみに英語ではカッコーのことを “Cuckoo” と呼ぶようですが、やはりあの鳴き声は日米の国籍や人種間の壁を越えて、“カッコー”と聞こえるわけなんですね。ニワトリの鳴き声の場合、日本では “コケコッコー” 、アメリカでは “クックアドゥードゥルドゥー” という差異があるんですが、いや、ニワトリの鳴き声として、こんなローマ字カナ変換しにくい擬声語を採用している国に生まれなくて、本当によかったと思いますね。もっともアメリカ人はローマ字カナ変換で原稿を書く必要はないので、さほど不便は感じていないのかも知れませんけど。 とまあそれはそうと、カッコーというのは正式には “カッコウ” と呼ぶみたいですね。カッコウ、カッコウ、カッコウカッコウカッコウ♪…と、 “ウ” の字を意識し過ぎると今ひとつ歌いにくいので、歌の場合はカッコーでいいんですが、ローマ字漢字変換をする場合には “かっこう” でないと駄目です。 “かっこー” だと “括弧ー” になったりします。 で、ワープロでは出てこないかも知れませんが、 “郭公” という表記のほかに、カッコーのことを…いや、カッコウのことを “閑古鳥” と書くこともあるようです。閑古鳥というのはカッコウのことであったのか!…と、目からウロコが落ちる思いでありますが、確かにカッコウの鳴き声というのは、カンコー、カンコー♪…と聞こえなくもないですよね。ところで、カッコウという鳥は “託卵” をすることでも有名ですよね。託卵というのは文字通り、卵を託すという行為であるわけですが、たくらん、らんらん、たくらん、らんらん、たくらんらんらんらんら〜ん♪…と、 「花の子ルンルン」 の節で歌ってみるといいかも知れません。いや、歌ってみたところで何がどうなるわけでもないんですが、自分の卵をほかのトリの巣の中に産みつけて、あわよくばそのトリに養育してもらおうと、そういう事を企んでいるわけですな、託卵というのは。

 カッコウに卵を託される鳥はウグイス・モズ・ホオジロなどなど…であるわけですが、その手段は巧妙極まりないもので、例えば生まれたばかりの卵があるホオジロの巣を発見すると、カッコウは親の隙を狙ってこっそり巣の中へと進入し、そこにあるホオジロの卵を1つ外に捨てて、その代わりに自分の卵を1つ産み付けるわけです。ホオジロの卵とそっくりの卵を産めるかどうかが成否を分けるポイントなんですが、ホオジロのほうもアホではないので、明らかにこりゃ、カッコウの卵であるな。…ということに気が付くと、その卵を外に捨てちゃうみたいですからね。そっくりな卵を産む技術と、それを見分ける眼力との“進化のせめぎ合い”のようなことが起こるわけでありますが、ま、ホオジロとしても、ちょっと怪しいかな?…という気はしても、もしその卵が紛れもなく自分の生んだ卵だったりしたら外に捨てちゃうのは自爆行為でありますので、とりえあずしばらくは様子を見ることにして…と。 ところが、ホオジロだとばかり思って温めていた卵から孵ったのはカッコウの雛でありまして、いや、これはびっくりしますよね。川口浩探検隊が持ち帰った巨大蛇ナークの卵を温めたところ、中から普通のニシキヘビが出てきた時も驚きましたが、ホオジロの親としてもまったく同じ気持ちだったでしょう。いや、薄々と嫌な予感はしていたんですが、まさか本当にそうなっちゃうとは。…みたいな。

 ちなみにカッコウの卵というのはホオジロの卵に比べて2〜3日ほど早く孵るそうですが、早く雛になったのをいいことに他のホオジロの卵を全部外に捨てちゃうというのだから、極悪非道な話ですよね。そして自分だけ生き残ったのをいいことに、ホオジロの親から与えられる餌を独占して大きくなるそうですが、いや、ホオジロのほうも早く自分の子供でないことに気付けよ!…という気もするんですけど。 いずれにせよ、カッコーというのは人里離れたところに住んでいるし、その生き様からは何だかワビ・サビや諸行無常の心が感じられたりするので、その鳴き声の侘しさと相まって “閑古鳥” などという名前が付けられたんだそうです。

  憂きわれを さびしがらせよ 閑古鳥 (芭蕉

 ちなみに “カンコー学生服” の “カンコー” というのは、閑古鳥のことではなくて菅原道真公、すなわち “菅公(かんこう)” にちなんだものであるという話は以前にこのコーナーで書きましたよね。もし学問の神様として有名なのが菅原道真でなく、台湾の陳水扁総統だったりすれば、あのブランドは “チンコー学生服” という名前になっていたのにぃ。…と思うと、残念でなりませんが、ま、そんなことでカッコウのお話はこれにておしまい。じゃ、また。

 ということで、今日はレイ・ブライアントでありますが、カッコウについて色々と調べているうちに、素晴らしいサイトを発見しました。 ここ です。 書いているのは坊さんらしいんですが、いや、実に素晴らしい説教ですよね。説得力があります。これを読んでいて僕は思わず、先生、俺、明日から浄土真宗を帰依するよ!…と言いそうになってしまいましたが、いや、すんでのところで思いとどまりましたけどね。ちなみに、さば家の宗派は曹洞宗なんですが、母方の実家は浄土真宗なんですよね。法事に行くといつも坊さんが説教をしてくれるんですが、この坊さんはいつも話が長いっ! しかも、話がつまらんっ!…というので、親戚の間ではあまり評判がよくありません。せめて “カッコウ坊主” くらい心にグッとくる話をしてくれたら法事の席もあまり退屈しなくて済むし、その後の仕出し料理のエビフライもより一層美味しく頂けると思うんですけどね。ところでカッコウって、ずいぶんとデカい鳥だったんですね。スズメくらいの大きさの鳥が可愛く鳴いているのだとばかり思っていたら、体長30〜35センチって、デカいやん! ホトトギスというのも同じ仲間でやはり託卵をするんですが、こちらは体長27〜28センチと、やや小ぶり。 といってもハトくらいの大きさはあるんですね。このホトトギスというのもワビ・サビがあって、なかなかネタになりそうな鳥なんですが、それはそうとレイ・ブライアント。この人はアレです。日本ではそこそこ人気があります。そこそこ人気があるので、けっこう地味なアルバムでも国内盤でCD化されていたりするんですが、しかし CADET盤なんかCDで出して、そんなに売れるものなんすかね?…と思いつつ、先日3枚目を仕入れて来たんですけどね。ブライアントの CADET 移籍第1弾は 『ゴッタ・トラベル・オン』 というアルバムで、これは以前、このコーナーでも取り上げております。 ここ ですね。読み返してみると、先日、名古屋で仕込んできた8枚ほどのCDの中に 『ガッタ・トラベル・オン』 というのがありました。…などと書いてありますが、先週、名古屋で仕込んできた8枚ほどのCDの中に、今度は 『スロー・フレイト』 というのがあったんですよね。僕の場合、大抵CDというのは8枚ずつ買いますからね。輸入盤中心のタワーレコードで4枚、国内盤中心のヤマギワソフトハウスで4枚という内訳なんですが、購入予算は約2万円って、 『塩通』 の原稿のためにかなり金使ってますよね、僕って。

 ところでこの “CADET” というレーベルは元の “Argo” が1965年に名称を変更したものなんだそうです。いや、ちっとも知りませんでした。危ないところでした。TVチャンピオンの 「ジャズ通選手権」 で出題されたら答えられないところでありましたが、アンモナイトみたいなロゴマークが目印でありますな。で、このレーベルは名称変更当時、ラムゼイ・ルイスの 『ジ・イン・クランド』 全米ポップチャート第2位という快挙を成し遂げてウハウハだったわけなんですが、丁度その頃に移籍してきたレイ・ブライアントも似たような大衆向け路線で売り出そう!…と画策したわけでありますな。…といった話がブライアントの CADET 第2作、 『ロンサム・トラベラー』 の日本語ライナーに書かれていたような気がします。具体的にはどういう路線なのかと言うと、普通のピアノ・トリオではなくて、トランペットを2本入れて、バック・アンサンブルを付けてカラフルなサウンドにしよう!…という試みであるわけなんですが、1作目がそこそこ好評だったので、2匹目のドジョウ狙いで第2弾も作ってみたと。それもまずまず好評だったので、3作目まで作ってしまったのがこの 『スロー・フレイト』 というわけですが、メンバーこそ微妙に違うもののコンセプトは同じで、しかもトータル・コンセプトも “旅行シリーズ” と、統一されております。日本人なら普通、2回でやめておくものなんですが、お構いなしなんですね、アメリカ人は。 ということで、では1曲目から聴いてみることに致しましょう。

 まず最初はアルバム・タイトル曲の 「スロー・フレイト」 でありますか。フライトではなくて、フレイトなんですね。どういう意味なのかと思ったら “普通貨物列車” のことのようでありまして、やはり “旅行シリーズ” の一環ではあるみたいなんですけど。いや普通、あまり普通貨物列車で旅行に行くことはないような気もするんですが、そういう細かいことはお構いなしなんですね、アメリカ人は。 で、この演奏、始まってすぐに 「ん〜、ん〜♪」 というオッサンの声が聞こえたので、CDを間違えたのか?…と思ってしまったんですが、大丈夫でした。ボーカルというか、 “しゃべり” みたいなのが入った演奏だったんですな。しゃぶるのは得意でも、 “しゃべり” というのはちょっとぉ。…と思ったギャルも少なくないと思いますが、R&Bライクな曲+ブラス・アンサンブル+しゃべり…ということで、かなりベタな作品に仕上がっております。大衆にはウケるかも知れませんが、ここまでクサいと体臭フェチにはかえって嫌がられるものと思われ、シャンプーのさわやかな香りに、そこはかとなくワキガの匂いが混ざっていたりするところにコーフンするわけですからね。いや、僕にそんな趣向はないので、あまり詳しいことはよくわからんのですけど。 で、これ、9分19秒もあるかなり長い演奏なんですが、ブライアントのソロをじっくり鑑賞するにはあまりにも不向きでありまして、企画自体が失敗であったな。…と思わずにはいられなくて、んなことで、さっさと次の曲にいっちゃいましょう。

 2曲目の 「エイメン」 はお馴染み、ドナルド・バードの曲でございます。エイメンで恋をして〜♪…というナイアガラ・トライアングルの曲とはあまり関係がありません。イエメン共和国ともぜんぜん関係がないんですが、僕はどちらかというとラーメンの麺は細麺よりも太麺のほうが好きですね。細いですからね、細麺は。細目の冷や麦と太めのソーメンではどちらが好きかというと、これは微妙なところなんですが、それにしてもピアノと2本のトランペットでコール&レスポンスって、あまりにもベタなアレンジですよね。この編成で 「エイメン」 をやるとなると、これ以外に手はないよな。…といった感じでありまして、ま、ヘンに意表をつくよりは分かりやすくていいと思うんですけど。 が、テーマ部のみならず、ブライアントのアドリブ・パートまで呼びかけ&応答形式にするというのはどうか?…という気がしないでもなくて、ま、早い話がちょっとクドいところが問題であるわけでして。僕はどちらかというとラーメンのスープはこってり系よりも、あっさり系のほうが好きなんですよね。昔ながらの中華そばのような和風テイストが好みでありまして、その意味で、2日前に食べた “昭和軒” のラーメンはまずまずだったと思うんですけどね。ただ麺がかなり細くてソーメンみたいだったところがあまりよくなくて、でもまあ、店員のギャルが僕好みのやや不細工なポチャ系でありましたので、トータルすると3つ星半…といったところですかね? で、ブライアントの演奏のほうも、さすがにソロの後半には余計な管楽器が消えて、こちらもまずまずといったところではないでしょうか。 『ゴッタ・トラベル・オン』 の頃は、結構いいかも?…と思ってしまった2管ハモリ入りピアノ・トリオというアイデアも、今となってはただウザいだけでありまして、ラーメンでも海苔とか、煮卵とか、ニタリ貝の煮たのとかを入れるのって、あまり好きではありませんからね。シンプルなのが一番!…だと、僕は思います。

 その意味で、3曲目の 「サテン・ドール」 はいいですよね。シンプルなトリオ演奏でありまして、余計なものが付いてこないところがいっそ清々しいばかり。岐阜の茶店 (サテン) に入ってモーニングを頼むと、トーストとゆで卵のほかに、茶碗蒸しやミニうどんが付いてきたりしますが、あんなものは余分だと思うんですよね。トーストやコーヒーに和食の副菜は合わないと思うし、いや、でもちゃんと食べますけどね。出されたものは嫌いなものでも一応は食べる。…というのが僕のポリシーでありまして、ましてや茶わん蒸しやウドンはそれほど嫌いではありませんからね。そのうち、僕のうーんと嫌いな、例えばアサリに寄生している小さなカニみたいなヤツがモーニングに付いてきたらどうしよう?…と心を痛めているところでありますが、それはそうとこの 「サテン・ドール」 は実にオーソドックスな演奏でありまして、悪くないですね。わりと速めのテンポでスインギーに料理しておりまして、切れ味がいいです。少なくとも100均で買ったハサミよりはよく切れます。安いだけのことはあって、切れ味が今ひとつですからね、100均のハサミは。 刃先が尖っているから鼻毛を切るには便利なんですけどね。ただ、刃先が尖っているから鼻の穴の中を突いて鼻血が出ちゃう恐れがあって、ちょっぴりデンジャラスではありますが、それと同時にここで聴かれるリチャード・デイビスのベース・ソロはややテクニックに走り過ぎる嫌いがあって、よくありません。ブライアントにはもっと地味目のベーシストのほうがお似合いだと思うんですが、どんなものでしょうか?

 で、4曲目は 「イフ・ユー・ゴー・アウェイ」 という曲ですね。根はシャンソンなんですが、アメリカではダミタ・ジョーのヴォーカルでヒットしたんだそうです。いいですよね、ダミタ・ジョー。いや、一度も聴いたことはないんですが、名前が何だか、 “駄目だじょー” に似ているところがとてもいいと思います。そういえば昔、そんなネタのジャズ人名俳句があったような気がしますが、この曲はアレです。まるっきり日本の歌謡曲でありまして、いやこれ、和田弘とマヒナスターズに歌わせてみたら絶対にヒット…しませんよね。ヒロシ君の雰囲気とは、ちょっと違うかな?…という気がするんですが、新井薫子あたりに歌わせたらすごくB級っぽい感じになって、マニアにはそこそこウケるかも知れません。松本ちえこでもいいですよね。で、ここまでベタなメロディになると、2本のトランペット・アンサンブルが実に効果的に聞こえてくるから不思議なんですが、いや、ブライアントのピアノがぜんぜん目立たなくなってしまって、ジャズ的なスリルという点では今ひとつなんですが、下劣なムード音楽としては、かなり良質なものとなっております。ま、これはこれで、いいんぢゃないですかね? で、続く 「ホエン・ザ・ワールド・ワズ・ヤング」 もシャンソン曲でありまして、こちらのほうはなかなか凝ったアレンジがなされております。もう、バルブコッタと同じくらい凝った編曲ですよね。いや、バルブコッタというのはエンジンの部品なんですが、先日、某・三○自動車製のエンジンを積んだ発電機がブッ壊れまして、久しぶりにエンジン部品の拾いだしをやったんですよね。ピストンが粉砕して粉々になっておりましたが、久しぶりの派手な壊れっぷりにちょっぴり胸がときめきました。 とまあそういうことで、 「パリの騎士」 という邦題があるらしいこの曲でありますが、ベースの弓弾きが何ともクラシック音楽的なムードを高めておりまして、…と思ったら、ブライアントのピアノのパートは一転して軽快なワルツ・タイムになったりして、何ともバルブコッタ的に凝った演奏となっております。ま、実際のところ、地味でチンケな部品だったりするんですけどね、バルブコッタ。

 6曲目、 「ザ・リターン・オブ・ザ・プロディガル・サン」 …という原タイトルでは何のことやらさっぱり分かりませんが、 「放蕩息子の帰還」 と日本語に訳せばピンと来る人もいるでしょう。フレディ・ハバードがアトランティック盤で取り上げていたジャズ・ロック・ナンバーでございます。曲名からして、ロクなものではなさそうだな。…ということを薄々と察することが出来ようかと思いますが、画家のレンブラントにそういう名前の作品があるみたいですね。聖書に出て来るエピソードをモチーフにした絵のようですが、レンブラントと、レイ・ブライアント。ちょっぴり名前が似ているから、取り上げてみる気になったのでありましょう。ちなみに、この歌に登場する放蕩息子というのはどうやら山梨の出身のようで、好きな食べ物は “ほうとう” なんだそうですが、こういうベタな曲になると、またしてもブラス・アンサンブルが効果的でありますな。そういえば5曲目ではアート・ファーマーとスヌーキー・ヤングの出番はなかったんですが、スヌ・ヤングはともかくとして、せっかく名手のアート・ファーマーが参加しているというのに、出番が “伴奏” だけというのはちょっともったいないですよね。これくらいなら、ヤマハのイージートランペットでも何とかなりそうですもんね。そういえば例のオモチャ、ちっとも吹いちゃいねーな。…ということを思い出してしまいましたが、ま、ブライアントのソロもそれなりにフィーチャーされているし、リチャ・デビのアルコ・ソロだって聴けちゃうし、ジャズ・ロックとしては、ま、それなりに楽しめる1曲ではないですかね?…という気がしないでもありません。

 で、ラストです。 「ザ・フォックス・ストーカー」 はブライアントのオリジナルです。トリオ演奏です。アト・ファマ&スヌ・ヤン抜きです。どっかで聴いたことがあるような曲やん。…という点にさえ目をつぶってしまえば、これほどブライアントらしくて、且つ、日本人好みのメロディはないわけで、いや、全編がこんな感じの仕上がりであれば、アルバム全体のイメージもかなり違ったものになったんでしょうけどねぇ。…という気がしないでもないんですが、でもまあ、エズモンド・エドワーズのプロデュース&スーパーヴィジョンの意向が “大衆路線” である以上、ま、これでレコードがそこそこ売れたんだったら他人がとやかく言う筋合いはないんですが、ある種、最強の “馴れ合いジャズ” であると言えるかも知れません。 んなことで、今日はおしまい。

【総合評価】

 レイ・ブライアントのアルバムなら、他に聴くべきものがいくらでもあります。…という気がします。ま、有名どころはほとんどクリアしちゃったしぃ。…という倦怠期の人には、たまにはこういう軽いのもいいかも知れませんけどね。いずれにせよ、ジャケ絵を描くのが簡単そうでいいよね。…という点で、僕はけっこう評価しているんですけどね。


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