GOTTA TRAVEL ON (CADET)

RAY BRYANT (1966/2/17,18)

GOTTA TRAVEL ON


【パーソネル】

RAY BRYANT (p) WALTER BOOLER JR. (b) FREDDIE WAITS (ds)
CLARK TERRY (flh) <#2,5,6> SNOOKY YOUNG (tp) <#2,5,6>

【収録曲】

GOTTA TRAVEL ON / EREWHON / SMACK DAB IN THE MIDDLE / MONKEY BUSINESS / ALL THINGS ARE POSSIBLE
IT WAS A VERY GOOD YEAR / BAG'S GROOVE / MIDNIGHT STALKIN' / LITTLE SOUL SISTER

【解説】

 台風でしたなぁ。ということで今日は台風について考えてみたいと思います。いや毎年、台風が来るたびに台風ネタを書いているような気がするんですが、気にしてはいけません。季節ネタというのはそういうもんです。台風が来るたびに台風ネタを書くのはけしからん。…などと言い出したら「サザエさん」の立場がありませんもんね。正月にはモチを喉に詰まらせ、節分にはマメを鼻の穴に詰まらせ、台風が来るとなれば雨漏りを直そうとして屋根に上ったところで梯子を片付けられて、取り残される。こうして日本の1年というのは過ぎていくんですよね。ということで台風なんですが、台風というのは卵から生まれます。そして海の上の暖かい湿った空気の中にでも放置しておけば、卵から孵って勝手に大きくなります。とっても簡単ですね。飼育の簡単さという点では“シーモンキー”にも匹敵するものがありますが、事実、のび太でさえ育てることに成功しておりました。確か「台風のたまご」という名前のドラえもんの道具ではなかったかと記憶しておりますが、なかなか感動的なストーリーでありましたな。テレビを見ながら、ちょっぴり泣いちゃいましたもんね。この感動を僕の胸の中だけにしまっておくのは勿体ない話だと思いますので、簡単に紹介してみたいと思います。いや、ネタ切れとか、そういうことではなくて。

 台風が関東地方に接近中…という場面から物語は始まります。のび太とパパとママが台風接近を知らせるニュースをテレビで見ている場面ですね。そしてママが「怖いわねぇ。」といったありがちな感想を漏らすわけです。ま、ウンコを漏らすことを思えばありがちな感想を漏らすくらいのことは大目に見なければなりませんが、のび太のママというのは良くも悪くも常識的ですよね。とっておきのギャグを披露するといったタイプではなく、基本的には小言しか言わないキャラクターなんですが、それもまあ、息子の出来の悪さからするとやむを得ない部分もありますけどね。不出来ですもんね、のび太。その不出来さは西城フデキにも匹敵するものがありますが、僕だったらあんなどうしようもないガキは即座に見捨てちゃいますけどね。ただ、ママの立場にして見ればPL法の概念からして製造しちゃったからには最後まで責任を取るというのが筋道でありますが、ま、それはともかくとしてママは「怖いわねぇ。」といった感想を漏らしたわけです。それに対してパパは「こっちのほうにきそうだなぁ。」と、これまたあまり“ひねり”のない意見を述べるわけですが、その口調からはそれほど切迫したムードは伝わってまいりません。のんびりしてますからねぇ、パパは。のんびり屋でノビリア化粧品を愛用というのがこの人のキャラクターでございます。

 さていっぽう、自分の部屋に戻ったのび太はドラえもんに対して「台風って、どうやって生まれるのかなぁ?」といった質問を投げ掛けるわけです。不出来なくせに、こういうことに関してはわりと勉強熱心ですからね。いや、ここでのび太がこういう質問をしてくれないと、その先のストーリーが先に進んでいかないという作者の都合もあるのかも知れませんが、こういった子供のような好奇心がこのキャラクターの魅力なんですよね。いや実際に子供なんですけどね、のび太。で、この質問に対するドラえもんの答えが「じゃ、作ってみるぅ?」というものでありました。このフットワークの軽さがこのキャラクターの魅力なんですよね。「子供ってどうやって作るのかしら?」とジャイ子からダミ声で聞かれたとしても、「じゃ、作ってみるぅ?」と気軽に応じたりして。ジャイ子相手って、もしかしてマニア?…といった疑惑も浮かび上がるし、それになにより、それって犯罪じゃねーの?…という気がしないでもないんですが、「どうやって作るのさぁ?」というのび太の疑問に対してドラえもんがポケットの中から取り出したのが「台風のたまご〜♪」という秘密道具だったわけです。

 ドラえもんの秘密道具にしては、どうも今ひとつかな?…という気がしないでもないんですが、ただ卵から台風が生まれてくるだけのGOODSですからね。あまり世の中の役に立つとも思えないしー。…という僕の思いは後に大きな間違いであることが判明するわけでありますが、とにかくのび太は卵から孵った台風を「フー子」と名付けて、かわいがって育てるわけです。「好物は温かくて湿った空気なんだ。」とドラえもんが科学的な知識を披露することも怠りなく、ローソクで温かい空気を作ってフー子に食べさせたりします。今どき、ローソクなんか常備している家庭があるのか?…という疑問を呈する読者もいるかも知れませんが、台風の接近に備えてママが非常持出袋の中から引っ張り出していたという可能性は充分に考えられます。場合によってはその日の野比家の夕食はカンパンアルファ化米だったのかも知れません。カンパンは子供のウケがよくないじゃないか?…と心配する向きもあるかも知れませんが、最近のカンパンは乾燥パイナップルを入れるなどして、そのへんのニーズにも充分に配慮がなされておりますので、たぶん大丈夫なんじゃないかと思います。

 そしてフー子は元気にすくすくと成長します。台風と言ってもオモチャのようなものなので、せいぜい“つむじ風”くらいのものなんですが、しずかちゃんの股の下に入り込んで、風でスカートをめくれ上がらせるといった読者サービスも怠りません。しずかちゃんのぱんつの色はで、あまり股ぐりの深くないタイプだったように記憶しておりますが、フー子が大きくなるにつれて、本物の台風のほうも次第に勢力を強めながら関東地方に接近してくるわけです。家族みんなでテレビを見ていたシーンからもう何日も経過しているような気がしてたんですが、作者の都合なのか、ずいぶんと動きの遅い台風だったんですな。そして台風が関東地方に上陸して大きな被害をもたらすであろうことが避けられない情況となった時、フー子はいきなり家を飛び出します。その頃にはかなり大きくなっていたフー子は食卓の食器を吹き飛ばしたり、パパを階段の上から突き落としたりして、大人たちから次第に疎まれる存在になっていたんですよね。ママからは「あんな危険なもの、はやく外に捨ててきなさい。」とまで言われる始末であります。そんな空気を察してフー子は家を飛び出すわけでありますが、汚名挽回をはかる彼女は台風の接近を防ごうと無謀とも思える戦いを挑みます。そしてフー子の驚異的な粘りもあって、台風は日本に近付くことが出来ないまま、やがて台風とフー子は力尽きて消えてなくなってしまいます。

 台風一過の哀しいような青空のもと、のび太が涙を浮かべながら「さようなら、フー子。。。」とつぶやくラストシーンが今でも忘れられません。うーん、ええ話や。…ということで、台風の話はこれでおしまい。

 ということで、レイ・ブライアントです。先日、名古屋で仕込んできた8枚ほどのCDの中に『ガッタ・トラベル・オン』というのがありました。レイ・ブライアントの名前を広く世間に知らしめた『アローン・アット・モントルー』というアルバムでトップを飾った「ガッタ・トラヴェル・オン」の初演が聴ける。…というのがこのアルバムの売りのようですが、『アローン〜』を持っていない僕には、そんなことはどうだっていいです。僕の場合、ジャケットに惹かれましたね。ウディ・ショウは地下鉄に轢かれましたが、関係ないですね。おそらく、旅行関係のチラシをコラージュしたものだと思われますが、なかなかいいセンスをしております。ジャケ絵を書くのは大変そうですが、この手のものは適当に手を抜いておいても、それなりに見えちゃうような気もするしー。ただ、メンバーを見るとクラーク・テリーがフリューゲルで参加しておりますし、素股で抜くのが好きそうな若者トランペッター、スヌーキー・ヤングという人も入っていて、いったいどういうサウンドになるのかと若干の懸念を抱かせるものとなっておりますが、いざ聴いてみたらまったく問題はありませんでした。詳しくは各曲の解説で触れることにしますが、とりあえず1曲目から聴いてみることに致しましょう。

 はい、「ガッタ・トラヴェル・オン」です。まずはトリオ演奏から始まります。ジャケットを見ているだけでは分かりづらいんですが、テリーと素抜きーが参加しているのは3曲だけでありまして、それ以外はオーソドックスなトリオ編成となっているんですよね。まったく問題ないと僕が断言した所以なんですが、曲自体はアレです。ものすごくベタなトラディショナル・ナンバーでありまして、ちょっぴり古風なムードがブライアントにはぴったりですよね。日本語ライナーで油井正一センセイは「“旅をつづけよう”といっても汽車の旅でも車の旅でもない。ブルマの旅である。」…と、そんなことは書いていませんね。「鉄道線路の上を包みを背負っての流浪の旅である。」…ということを書いておられますが、そんなことをしていたら地下鉄に轢かれやしませんかね?いや、別に地下鉄に限定しなくてもいいんですが、電車に轢かれやしませんかね?ま、僕の会社の塩野というおじさんは道路と間違えて線路の上を車で走ったという経験の持ち主なんですが、それでも何とか生きておりますので、運がよければ大丈夫ということなんでしょう。ま、ほとんど運だけの世界ですけどね。線路というのは道路と違ってそれほど途中で交差したり、分岐したりということがないので、方向感覚が極めて鈍い人にとってはあまり道に迷う心配がなく、なかなかいいアイデアかも知れません。…とまあそれはともかく、ブライアントの演奏には放浪のムードがよく現れていて、いいですよね。もう、カボチャを焦げつかせても大丈夫?…という感じなんですが、あ、それは放浪じゃなくて琺瑯ですね。漢字で書くとえらく難しくて、今ひとつわかりにくいボケではありましたが、ブライアントのプレイは両手のバランスがいいことでも知られております。“モダン版テディ・ウィルン”なんて言い方をされることもありますが、洒脱なセンスとアーシーなブルース・フィーリングがないまぜになっているところに独特の味がありますよね。で、ここでは「黒さ」を強調したプレイとなっておりますが、決して野暮になっていないところがさすがです。名古屋から奈良まで走っているJRの急行は「かすが」です。…って、誰もそんなローカル急行のことは知らないと思いますが、ブライアントの旅はまもなく終点を迎えようとしております。

 ということで2曲目です。レイ・ブラのオリジナルで「エリューオン」とか言う曲ですね。タイトルは“NOWHERE”の穴倉夢…いやアナグラムだそうですが、ゆったりしたボッサ、略して“ゆっさ”風のリズムに乗せた、なかなかメロディアスなナンバーでありますな。わりといい曲を書くんですよね、ブライアント。哀愁があります。臨済宗もあります。…って、最後の「いしゅう」の部分はあってますが、意味がなかったですね。AA形式にオマケの数小節がつくような構成(たぶん)なんですが、トリオでテーマが演奏された後、テリーとスヌーキーが登場してハモりながらもう一度テーマを繰り返します。なるほど、フリューゲルとトランペットの2人はこういう使い方をされていたんですね。ソロをとらない“ハモり要員”だったわけです。これがなかなか洒落ていて、いい感じです。ハモりながらAA形式のテーマを奏でた後、オマケの部分はトリオに戻って、おしまい。ブライアントのソロもほとんどなくて、初心者にはわかりやすい演奏でありますが、ちょっぴり物足りないない感は否めませんね。ま、いいんですけどね。で、3曲目です。「スマック・ダブ・イン・ザ・ミドル」という曲です。日本語ライナーを書いている油井正一センセイの曲解説がかなり適当で、「もともとはビッグ・バンドをバックにヴォーカル・グループで歌われた曲。」としか書いてないんですが、確かにビッグ・バンドをバックにヴォーカル・グループで歌われそうな曲だなぁ。…といった感じの曲ですよね。再びホーン抜きのトリオ演奏になりますが、ゴスペル・ライクな曲調がブライアントのスタイルにはぴったりです。そんだけ。次にまいりましょう。4曲目は再びブライアントのオリジナルで「モンキー・ビジネス」という曲です。猿商売?…と思って調べてみたところ、「いんちき」とか「いたずら」とか「悪さ」といった意味があるそうです。ま、所詮はサルのやることですからね。悪さもするでしょうし、いんちきめいたことだってあるでしょう。…と、心から納得のいく故事成語でありますが、ちなみに“monkey tricks”という言い方もあるそうです。ま、曲自体にはそれほどインチキ臭いところもなく、「ちょっとした悪戯」といった感覚ではないかと思うんですが、上履きを隠したりとか、机の引き出しにネズミの死体を入れておいたりとか。ま、サルのやったことなので、大目に見てやってくださいね。で、演奏のほうは明るく楽しいのもであったのではないかと記憶しております。

 はい5曲目です。これまたブライアントのオリジナルで「オール・シングス・アー・ポッシブル」という曲です。タイトルはブラちゃんの信条を示したものだということですが、「何事もいつも前向き」というのは、とってもいいことです。バックはやらねーぞ!…といった気概のようなものを感じさせますね。あ、バックの場合は2人とも前向きだから、別にいいんですか。で、このアルバムでは2曲目のホーン入りセッションなんですが、“flh”と“tp”のハーモニーというのはいいものでありますな。洒脱ですよね。曲自体もとっても軽妙でありまして、ピアノとホーンとの絡み具合も絶妙なんですが、同じメロディが何度も繰り返されるので、聴いていてちょっぴりしつこい感じがしちゃうのも否定出来ませんね。ま、別にいいんですけどね。で、続く「イット・ワズ・ア・ベリー・グッド・イヤー」もホーン入りでありまして、こちらはテーマ・メロディの前半にホーンが出てきて、こんにちは。坊ちゃん、一緒に唐揚げ粉ぉ♪…はどうでもよくて、テーマの後半はピアノが受ける形で演奏が進んでまいります。で、ここでのブライアントが絶品なんですよね。跳ねるようなスイング感とウディ・ショウを撥ねる地下鉄…って、僕も相当しつこいですが、テディ・ウィルソンの流れを汲むブライアントの軽妙さがよく現れた逸品だと思います。ちなみにこれは1965年にシナトラが歌ってヒットした曲だということですが、十二支で表した北東の方角は丑寅。

 はい、7曲目です。次第に解説が適当になってまいりましたが、ま、いつものことです。気にしてはいけません。ここまで聴いてみて、ホーンのハモり具合が絶妙なのはわかるけど、今ひとつジャズ的なスリルに欠ける嫌いがあるなぁ。…という感想をもった人もいるかもしれません。嫌いはいけません。地雷というのも世の中から廃絶しなければならないもののひとつでありますが、好き嫌いというのもよくありません。サバは蕁麻疹が出るから好きじゃないのぉ。…といったワガママは許されません。ま、蕁麻疹が出るというのは体質なので、ワガママとかそういった問題ではないような気もするんですが、さばアレルギーの子供にバッテラを強要したりするのは単なる幼児虐待ですもんね。で、ここまで今ひとつジャズ的なスリルに欠ける嫌いがないでもなかった本アルバムでありますが、でもだいじゃぶ。7曲目の「バグス・グルーヴ」でブライアントのジャズ・グルーヴは炸裂します。カツレツもしますし、オムレツもします。あとはえーと…奇天烈とか。この曲はブライアントの愛奏曲でありまして、確かシグネチュア盤のトリオでも取り上げていたのではなかったかという気がするんですが、もしかしたら取り上げてなかったかも知れません。確率はフィフティ・フィフティですね。ま、何かのアルバムには入っていたような気がするんですが、それと比べてもここでの演奏はいいです。どこがいいのかと言われると困るんですが、えーと、ノリがいいです。ということで8曲目。今週はあまりヤル気がないので、解説が淡白なわけでありますが、ブラちゃんオリジナルで「ミッドナイト・ストーキン」という曲です。もはや自分でモノを考えるのも面倒なので油井先生の日本語ライナーを引用させて頂きたいと思うんですが、「このごろ日本語になったストーカー。真夜中につけられたのでは堪らない。」そんだけ。あかんやん!なんの解説にもなってへんやん!仕方がないので自分で考えてみることにしますが、ジャズ・スピリッツに溢れた、とてもよい演奏だったのではないかと思います。

 はい、ラストです。「リトル・ソウル・シスター」「リトル・スージー」の姉妹曲だそうです。シスターだけに姉妹曲。ま、そりゃそうやろ。…という気がします。シスターなのに「兄弟船」だったりしたら、ワケわかんないですもんね。『リトル・スージー』と言えば、クリソツの娘と一緒に嬉しそうにジャケットに写っていた「いかにも人がよさそう。」といった感じのブライアントが印象的でありましたが、マッコイ・タイナーも少しは彼を見習って欲しいところですな。ま、顔が怖いのは生まれつきだし、顔は怖くても根は「いい人」なのかも知れませんが、それはともかく「リトル・ソウル・シスター」。わりとシンプルな曲で、ブライアントの弾きっぷりも概ね良好だったのではないかと思います。ちなみにこの曲にはテリーとスヌーキーが参加している旨のクレジットがあるんですが、僕にはどうしてもトリオ演奏のように聴こえるんですがねぇ。ともあれ、今日はおしまい。

【総合評価】

 書き手にまったくヤル気が感じられないものの、アルバムの出来は悪くないです。ホーン入りのセッションを3曲にとどめておいたのが勝因でしょう。吉田は松蔭ですけどね。松蔭、シンガポールを恋しがるぅ♪…って、これは前にも書きましたね。ちなみにこれは“ウルトラマンコスモス”同様、“しょういんしんが…”のところで息継ぎをしちゃうとちょっぴり危険が生じます。で、ホーン入りセッションはそれなりにイイ感じに仕上がっておりますし、ラスト3曲ではブライアントのソロも充分に堪能できます。そこのところがいいと、僕は思います。


INDEX
BACK NEXT