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6.レシピの設計


 自家醸造で得られる喜びと満足の殆どは、自分自身のビールを設計できることである。次の章の基本的レシピは、指針を意図しており、石に刻まれた戒律ではない。経験を積んだ後では自分の好みに合わせて自由に変更できる。

 モルトは甘味とアルコールの強さを与え、ホップは苦みのバランスを与える。甘めのビールが欲しければ、モルトを多くし、ホップを減らす。逆に、甘さを減らすなら、ホップを多くし、モルトを減らす。各バッチ毎にどんなに変更しようとも、それを記録しておくことが肝心である。そうすれば、レシピからの風味の変化を追跡できる。


初期比重 Starting Gravity 

 軽いさわやかなビールの初期比重は1.030位の低さで、強力なバーレーワインは1.090位の高さである。自分のレシピで、おおよその初期比重を決めるには、62頁の総度数を全部のポンドで足し合わせ、それを醸造しようとするガロン数で割る。例えば、5ガロンのレシピで、6ポンドのシロップモルトエキス(ポンドあたり34度掛ける6)と1/2ポンドのクリスタルグレイン(ポンドあたり16度割る2)でエキスの総度数が212となる。それを5ガロンで割って、およその初期比重の値1.042を得る。


最終比重 Finishing Gravity 

 初期比重と異なり、最終比重は有意な精度で計算するのは難しい。なぜなら、異なるモルトエキスは異なる量の醗酵可能糖分を含み、イーストの種類によっては他の種類が好まない種類のモルト糖分を非常に好む事があるから。正確な計算は無理だが、大雑把なやり方でオールモルトビールのおおよその最終比重を見当付けることができる。ビールの初期比重を3.7で割る(割る前に一定の値の上二桁を取ること、つまり1.042は42とする)。例えば初期比重1.042のオールモルトビールでは、42を3.7で割って(11)、最終比重が1.011と見積もれる。この計算による最終比重は実際の最終比重と高くても低くても20%位しか違わなく、使われている原料や醗酵条件によって左右されるが、大雑把な目安として焼くに立つ。瓶詰前に三日置いて二回比重計で測定するのは、比重低下が終わって瓶詰しても安全である事を確かめる為に、必要である。


アルコール含有量 Alcohol Content  ビールのアルコール含有量は、醗酵前の冷ましたてのワートに含まれている、イーストが消費できる、醗酵可能な糖化合物の量によって決まる。醗酵可能糖分のレベルが高ければ、完成ビールのアルコール分が高くなる。完成ビールのアルコールの体積含有量のおおよその値を求めるには、初期比重(最初の二桁を取る、つまり1.042は42とする)から最終比重を引いた値に0.129を掛ける。

 例えば、初期比重が1.042(42)、最終比重が1.011(11)ならば、比重低下は31で、ここに0.129を掛けて、おおよそのアルコールの体積含有量は4%となる。


ホップ苦味の計算 Calculating Hop Bitterness 

 スパイスの無いコックの様に、ホップ無しの醸造者はやっていけない。ホップは、ビールの甘いモルトとバランスを取るのに必要な、爽やかな苦みを与える。コックと同様、醸造者は経験からビールのバランスを取るのにどれだけのホップの風味が必要かを学ぶ。少なすぎるとビールは刺激不足になり、多すぎると苦みが浸透しすぎてモルトの微妙な風味が圧倒されてしまう。

 調理と同じ様に、風味のバランスが命である。今まで、熱中しすぎの初心者の最初の努力の結果である苦すぎるビールや、誰のシェアをも攻撃しないような商業ビールを、色々味見してきた。自家醸造者は、多分、汚染されたイーストや急な温度変化による風味劣化を少しでも隠す為に、非常に高いホップレベルになりがちである。改良された種類のイーストが幅広く入手可能になり、温度コントロールができるようになり(単に水タンクに浸けるだけから、サーモスタット付きの冷蔵庫に至るまで)、自家醸造者はとうとうビールの風味のバランスの微妙な芸術に集中できるようになった。

 ビールの風味バランスは、おもにワートの沸騰の段階で行われ、そこでモルトの溶液にホップを加えて沸騰し苦みをビールに抽出する。ビールに加えるアルファ酸の量を簡単に計算するために、Dave Lineデイブ・ライン("the Big Book of Brewing"の著者)が70年代初期にAlpha Acid Unitsアルファ酸単位(AAU's)という簡単な方法を工夫し、それは今だに使われている。1アルファ酸単位は、1%アルファ酸のホップ1オンスに含まれるアルファ酸の量である。従って、アルファ酸値5%のCascadeカスケードを2オンスで、10AAUになり、また、7%のアルファ酸値のPerleペーレを1.5オンスで10.5AAUになる。

 AAU値は、色々なアルファ酸含有量のホップを使うときにホップ添加レベルを調節できるので、ビールのバランスを取るために価値のある指標である。しかし、肝心なことは、ホップのアルファ酸量は、天候や収穫条件によって、同じ種類でも収穫毎に20%以上も変化することである。例えば、レシピで、5ガロンのビールに対し、4%アルファ酸値のファグル(English Fuggle)を3オンスで計12AAU要求しているとき、手元に5.6%アルファ酸値のケントゴールディン(East Kent Golding)しかない場合は、12AAUを5.6で割って2.14を得、2.14オンスの5.6%ホップで同じ苦みを得る事ができる。

 アルファ酸単位AAUは、優れた指針であるが、ビールに加えられた生のアルファ酸がどれだけ熱によって変質し風味豊かなイソアルファ酸になるかの手がかりとなるものではない。ホップに含まれる不溶性のアルファ酸は、実際に苦みを出すものであるが、高温沸騰で虐待してイソアルファ酸に変わってからであり、それがすっきりした苦みを与える。生のアルファ酸は僅かにしか冷たいビールに溶けず、風味はほとんど無い。一方、沸騰で変質したイソアルファ酸は、ビールに容易に溶け、すっきりした苦みを出す。薄めたワートが激しく沸騰するなかで、生のアルファ酸が50分間かけて風味豊かなイソアルファ酸に変化する。芳香用ホップは最後の5分間に加えるかドライホッピングをするので、アルファ酸が水溶性のイソアルファ酸に変化するほど充分な時間加熱されてないのでほんの僅かの苦みしか加わらない。最も効果的な沸騰のなかで、1時間のぐらぐらする沸騰の中で最初から加えられたホップは、そのアルファ酸の30%が風味を作り出すイソアルファ酸に変化する。

 この異性体化、つまり生のアルファ酸から水溶性イソアルファ酸への変化は、時間と温度によって左右され、さらにワートの密度と使うホップの形によって影響される。密度のかなり高いワートの場合、例えば5ガロン分のモルトエキスを2ガロンの水で作る場合、アルファ酸からイソアルファ酸への変化の効率はもっと薄めたワートに比べて劣る。ペレット状のホップは、分子が容易に分散するので、そのままの(Whole)ホップよりも容易に異性体化が起こる。


国際苦味単位(IBU) International Bittering Unit 

 ビールの国際苦味単位(IBU)を適切に計算するためには、ホップの苦みの活用度合を知ることが重要である。国際苦味単位は、苦味測定の国際標準であり、自家醸造する上でも市販ビールとホップの苦味を比較する為に有益である。

 IBUを1ガロン当たりのAAU(アルファ酸単位)から計算するには、まず、ホップの異性体化のおおよその効率を知らなければならない。ペレット状ホップを使い、3から5ガロンのワートで平均比重1.038〜1.048で沸騰すると仮定して、50〜60分の沸騰で30%がイソアルファ酸になる。30分の沸騰で21%のアルファ酸が変化し、また芳香用ホップを5分間沸騰させると、2、30分間の150V(65℃)以上での冷却期間も含めて10%のアルファ酸が変化する。もっと変化しにくいそのままの(whole)ホップを使用するときは、上記変換率から15%引く(85%を掛ける)。

 ホップ異性体化の比率を求めるには、それぞれのホップ添加の比率を計算する。例えば、5%アルファ酸のホップを1オンス(5AAU)沸騰の最初に入れ、4%アルファ酸のホップを1/2オンス(2AAU)30分後に加え、3%アルファ酸のホップを1/2オンス(1.5AAU)55分後に加えた場合、以下のように計算する。

	最初の風味付け:	5AAU×0.30(30%)=1.5AAU
	第2の風味付け:	2AAU×0.21(21%)=0.42AAU
	芳香付け:		1.5AAU×0.10(10%)=0.15AAU
	沸騰前8.5生AAU、沸騰後2.07変化後AAUで、イソアルファ酸化率は24%

 2.07をガロン数5で割り、0.414を得る。これが完成ビールのイソアルファ酸量である。最終のイソアルファ酸単位0.414を1IBUでのイソアルファ酸単位量0.01335で割ると31となり、これが完成ビールのおおよそのIBU値である。

	商標			(初期比重)	IBU
	Budwiser 		(1.044)		12
	Spaten Club Weiss 	(1.050)		14
	Beck's Light 		(1.044)		23
	Anchor Steam 		(1.050)		40
	Pilsner Urquell 	(1.048)		43
	Red Tail Ale 		(1.055)		45
	Guiness Stout 		(1.050)		50

 上記の市販ビールと比較する場合は、モルトが苦味を中和する甘味を出すことに留意する。従って、初期比重(O.G.:Original Gravity)は同じ苦味バランスを得るように釣り合わせなければならない。  

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