幹事クリタのコーカイ日誌2024 |
1月17日 ● 万城目学が直木賞。 昨日取り上げた万城目学の『八月の御所グラウンド』が直木賞に決まりました。まさか万城目が直木賞を取ることはないだろうと思っていたので、なによりそれがビックリです。初ノミネートから6度目、16年半かかっての受賞となりました。本人も多分驚いていたことでしょう。直木賞というのはどんなに売れる作家になっていても縁がない人には縁がない賞です。かつて小谷野敦が『直木賞をとれなかった名作たち』という本を出したほど、ベストセラー作家になっても取れない場合は取れません。 僕の好きな作家で作品を多く読んでいるのに、きっと直木賞取れないのかもなと長年思っていた御三家が、万城目学、海堂尊、清水義範でした。難しいと思っていた理由は「一芸」がある、というよりは「一芸」ばかりが目立ち過ぎるからです。万城目はファンタジー、海堂は医療、清水はパスティーシュ。いずれも作家としての売りがハッキリしていますが、逆にそれ以外に芸がないと思われているので、直木賞の選考委員にはまらないと、ずっとはまらないままなのです。ナックルばかり投げているピッチャーと同じです。好投している割に評価されていません。ピッチングの基本は真っ直ぐやろ、とかつて沢村賞を取った選考委員が言っているかのようです。 直木賞は大衆文学を対象にしているので、広く大衆受けする「芸域の広さ」みたいなものが求められているのではないかと思います。もし芸域がそれほど広くなくても、ストレート勝負の気持ち良いピッチングをするならOKだけど、癖球ばかり投げる変化球投手には点が辛いということでしょう。今回万城目が受賞できたのは、昨日書いたように『八月の御所グラウンド』が、これまでに比べてファンタジー色が薄く、ヒューマンでちょっと泣かせにきているからではないかと思います。ストレートも投げられるんだぞと万城目がやって見せたら、コロッと手の平を返されたのかも知れません。 万城目はまだ47歳だったので先の可能性もありました。海堂62歳、清水にいたっては76歳ですから、もう直木賞は難しいでしょう。清水は最近執筆活動もしていないようです。作家にとっては賞を取ることなんて、本来的には作品を書いたおまけなので、僕の評価はなんら変わりませんが、「文壇」というものがまだ存在しているのなら、受賞することによって立場がかなり良くなったりはするんでしょう。そうじゃなくても本が売れますから、万城目学が受賞したことは素直におめでとうと思います。 |