幹事クリタのコーカイ日誌2024

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1月16日 ● 『八月の御所グラウンド』感想。

 万城目学の作品は全部ではないですが、大半は読んでいます。『鴨川ホルモー』と『鹿男あをによし』を続けて読んで「なんて奇才だ!」と感心し、以降作品が書店で目につくたびに購入しては読み続けてきました。ただどれも面白いのですが、個人的には『鴨川ホルモー』の感動を超えてくることはありませんでした。『プリンセス・トヨトミ』も『偉大なる、しゅららぼん』も映画化されるほどの人気作ですが、万城目ならではの現実に得体の知れない非現実が入り込んでくる独特のファンタジーに、時々「やりすぎ」感があるからかも知れません。もちろんそれこそが万城目の良さだと言われると、それはもちろんその通りなのですが、これはもう個人の好みの問題かと思います。

 そんな万城目の最新作である『八月の御所グラウンド』。昨年購入して年末に読んで感想を書こうと思っていたらコロナに罹ってそれどころではなくなってしまいましたが、ようやく体調も落ち着いたので、改めて感想を書こうと思います。これは傑作です。と言うか、僕の好みにドンピシャでした。まさか万城目がこれほど素直な青春スポーツ小説を書けるとは思いませんでしたし、まさか万城目の小説にジーンと温かな感動をさせられるとは予想していませんでした。癖の強いファンタジー万城目が好きなファンには少々物足りないかも知れないなと思いつつ、僕にとってはなぜ『鴨川ホルモー』が好みなのかを改めて再認識させられました。

 そもそもこれを読もうと思ったのは雑誌の書評で「8月の京都のグラウンドに現れたえーちゃん」というヒントから、すぐに「あの人」の話かとピンときたからです。若い人にはわからないでしょうけど、僕のような古い野球好きになると十分なヒントです。ただ逆に言えば、それだけで話の骨子がある程度わかってしまったので、読む前にネタバレしていたのは少々残念でした。それでも悲惨な戦争の話を織り込みつつ、京都という町だからこそ起こる奇跡の物語を堪能しました。

 そしてこの中編の表題作以外に、実は都大路を舞台にした全国女子高校駅伝の短編が掲載されています。片や真夏の野球の話、片や冬の駅伝の話とバランスが取れているのですが、駅伝も野球に劣らず大好きな僕には、こちらの短編がまた本当に傑作でした。ファンタジーとしては恐らくファンには全然物足りないだろうと思いますが、ほんの少し加わるスパイスのような京都の歴史ファンタジーがあることで、単なる青春スポーツ部活小説を超えた作品に昇華しています。駅伝を題材にした小説としては、三浦しをん『風が強く吹いている』という傑作長編がありますが、感動では負けていませんでした。

 個人的にはこの短編『十二月の都大路上下ル』の続編をぜひ読んでみたいです。これで終わるにはもったいないと強く思いました。



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