幹事クリタのコーカイ日誌2023

[ 前日翌日最新今月 ]

4月6日 ● ムツゴロウさんの思い出。

 僕は中高生の頃にユーモラスな筆致のエッセイを読むのが好きでした。最初にはまったのが北杜夫で、『どくとるマンボウ青春記』がとてつもなく面白かったので、似たタイトルに惹かれて畑正憲の『ムツゴロウの青春記』を読んだのが始まりでした。『ムツゴロウの無人島記』『ムツゴロウの結婚記』『ムツゴロウの大勝負』と読み進めるうちに、なんて知性的で感性が細やかで、かつ行動力があって突き抜けた人だろうとワクワクしたのを思い出します。

 そんな好きな作家であった畑正憲がいきなりテレビ番組で動物たちと戯れているのを見た時には驚きました。エッセイ通りというよりは、エッセイの印象を超えていて、パワフルかつ奇天烈な人として、1980年代に一気にテレビスターの「ムツゴロウさん」としてブレイクしていきました。ただ僕は作家の畑正憲から入っているので、逆にテレビの中のムツゴロウさんには少し引き気味になってしまいました。テレビというのはやはりキャラクターをより強烈に演出していくので、ムツゴロウさんの知性的な面よりも変人の部分が強調され過ぎている嫌いがあったからです。

 その後、ムツゴロウさんはライオンに指を食われたり、莫大な借金を抱えたりして、そのたびに世間を騒がせていましたが、作家としては初期の頃のエッセイの名手から方向性が変わってきてノンフィクションに偏っていたのであまり読まなくなりました。そんな中、今から10年以上前のことですが仕事でムツゴロウさんとご一緒する機会がありました。ちょうど東京ムツゴロウ動物王国の借金を返済するために彼がガムシャラに働いていた頃で、僕の低予算のローカルなラジオCMにナレーターとして出演してくれたのです。普通なら絶対に出てくれないような些少なギャラでした。

 ほんのわずかな時間でしたが、短い会話の中でも感じられたムツゴロウさんの頭の回転の速さ、理解力、低予算なのにきちんと仕事をしてくれた紳士的な態度、気配りや豊かな人間性も含めて、10代の頃に思い浮かべていたムツゴロウさんそのもので感動しました。一瞬ですがムツゴロウさんと人生が交錯したことがとても嬉しく思いました。今回の訃報に接し本当にショックでした。謹んでご冥福をお祈りいたします。



gooブログでも読めます「幹事クリタのコーカイブログ」

テニス好きなら「幹事クリタのテニス日誌」