幹事クリタのコーカイ日誌2016

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4月11日 ● 無難なだけの候補案。

 東京五輪のエンブレムですが、新しく候補案が4つ発表されました。これについて広く国民の意見を聞いた上で最終的に審査員が決定するとか。前回の大炎上でとにかく揉めないように揉めないようにと安全策を考えてやっていることが歴然としています。そして、長年広告制作の現場にいた人間からすると、これが一番つまらない、結果的に金の無駄遣いに終わる案に落ち着くダメなやり方だというのも痛いほどわかっています。

 クリエーティブな世界というのは結局1人のアイデアで作るものです。みんなでよってたかって作ったら、どんどん平凡でどこかで見たことがあるようなつまらない案になります。最初にあったはずの大事な角が削られて削られて、ただ丸いだけの何のインパクトもない無難さだけが取り柄の案になり果てるだけです。前回取り下げになった佐野研二郎の案だって、原案からあれこれ審査員がこねくり回してしまったので、面白くないものになってしまいました。

 それでも今回の4案を見ると、これならまだ佐野の案の方が良かったなと思います。今回は全部どこかで見たことがあるような既視感のあるベタな案ばかりです。これが例えばどこかの地方博覧会のエンブレムなら良いかも知れません。田舎のイベントにはちょうど良い頃合いです。しかし、世界が注目する最先端のデザインだとしたら、あまりにも守りに入っていて、いつの時代のデザインだよ、と突っ込みたくなります。

 しかも東京らしさも一切感じられません。ヨーロッパだろうが南米だろうがアフリカだろうが使えてしまうモチーフで、辛うじて市松模様のA案だけが「和」を感じさせますが、それにしたって日本人にはそう見えるだけの単なるシンメトリーのデザインに過ぎないと言われそうです。他の3案はどれもこれもちょっと前に流行ったようなデザインで新しさがない上に、東京もイメージできません。

 その上、視認性や展開性を考えたのかどうかも疑わしいと思います。小さくした時にきちんと潰れないで認識できるのか、モノクロで使った時に色の組み合わせは変にならないか、そういうプロのデザイナーなら当然考えるべきことを本当に検証しているのかなと疑問に感じてしまいます。そして、そういう機能的な部分まできちんと考えたらA案の市松模様しか残らなくなります。これだけ他の3案と異質なのは、最初からこの案を残すために「捨て案」を3つ入れたのかと勘繰ってしまうくらいです。

 そして、デザインの「耐久性」も疑問です。これから4年先まで使い続けるエンブレムですから、当然すぐに飽きられてつまらなく感じてしまうよう耐久性の短いデザインではいけません。だいたいにおいて最初に「いいな」とすんなり受け入れてもらえるようなデザインというのは見慣れているからこそ受け入れやすいのであって、見ているうちにすぐに飽きてきます。最初はちょっと違和感がある方が、少しずつ見ているうちに「これ良いんじゃない」と感じるようなデザインで、いつまでも使える耐久性のあるものです。

 まあ今回はもうどうしようもありません。最初のミスとその収拾策の拙さがこういう事態を招いたのですから、諦めてどれか平凡で無難なエンブレムを選ぶしかないでしょう。前回東京五輪の亀倉エンブレムの今でも通用する美しさに全く及びもつかないのが残念ですが。


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