いま名古屋市内各所に、僕のコピーライターとしての最後の仕事が掲出されています。駅張りや車内吊りなどの交通ポスターを筆頭に、いろいろなところで展開されているのは、今週末に控える統一地方選の選管による告知キャンペーンだからです。面白いとかユニークだとか斬新だというものではない、何の変哲もないありふれたデザインですが、地元出身の若いタレント２人を起用したこの仕事は、タレント選定もコンセプトもコピーも全部自分のアイデアで提案して競合プレゼンに勝ったものだったので、結果的にこれが最後の仕事になって良かったなと思っています。

　３２年も広告を作っていれば、面白かった仕事や大変だった仕事、広告賞を貰った仕事などいろいろあります。数々の有名人に広告に出てもらって仕事をしたこともあります。テレビに出ているタレントだけではなく、東宝撮影所でゴジラの撮影をしたり、石ノ森章太郎に個人的にサイボーグ009を描いてもらったり、池田満寿夫に寿司をご馳走になったりしたことも良い思い出です。

　それでもやはり印象に残っているのは、新入社員時代の仕事です。初めて自分が書いたコピーが新聞に掲載された時の嬉しさは今でも忘れられません。小さなローカル新聞の小さなコラムのようなシリーズ広告でしたが、新人の時から２年間、後輩が入ってきてその仕事を引き渡すまでずっとそのコラム広告を書いていました。単に初仕事だったからというだけではなく、作家気分を味わえて楽しかったこともあります。

　どんな仕事でもそうなのかも知れませんが、やはり「初心」に勝るものはありません。まあ忘れるなと言われても、慣れるにしたがって忘れてしまうのが人間ですが、この４月から社会人になったフレッシュマン諸君も、いまの気持ちをなるべく忘れないようにした方がいいよ、とアドバイスしておきます。なにせ僕自身もいま第２の新人時代を過ごしているので、自戒の意味も込めて。