幹事クリタのコーカイ日誌2010

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6月19日 ● テニスを文化として語る雑誌。

 日本のスポーツジャーナリズムというものにはロクなものがありません。全然ないというわけではないのですが、大半は勝ち負けだけに拘って結果を追うだけのものか、スポーツ自体を見ずにお涙頂戴的な人生浪花節ばかりを取り上げています。スポーツを文化として捉える視点が希薄だからです。もっとも、それでは売れないから結果を追うか嘘臭い人間ドラマを作るかになるのかも知れませんが。

 日本にはテニス雑誌が5誌もあります。「スマッシュ」「テニスマガジン」「テニスクラシック」「テニスジャーナル」「ティー・テニス」いくらテニス人口が多いとは言え、これでは多すぎるという気がします。しかも雑誌の中身はどれも似たようなもので、一番ボリュームを占めているのは技術特集。サービス、フォアハンド、バックハンド、ボレーを順番に取り上げます。その次に世界のトッププレーヤーから日本の学生までの大会レポート。後はラケットを中心とした用具情報。この三大テーマを5誌が繰り返しやっているのですから、読んでいる方としてはマンネリも甚だしいわけです。最近の雑誌不況の中で、これで5誌が維持できるとはとても思えませんでした。

 そんな中、先月で「テニスジャーナル」が休刊しました。「誌面と動画のハイブリッドマガジン」と謳って、一時期からDVDをつけて雑誌単価を上げたのですが、それがかえって足を引っぱったのではないかと僕は思いました。最終号はせっかくだから記念に買ったのですが、あまり最終号らしくなくあっさりした誌面だったのでちょっと不思議に思っていました。

 そうしたら、なんと今月新装の「テニスジャーナル」が発刊されているではありませんか。書店で見つけて読んでみたら、隔月刊になったこと、雑誌のサイズが一回り小さくなったこともありますが、何より中身が全然変わってことに驚きました。

 特集は「天然芝テニスの美学」。美学です、美学。ついぞこれまでのテニス雑誌にはなかったアプローチ。そしてもっと驚いたことに、雑誌の中に一行たりとも技術解説ページがないのです。日本のテニスは見るスポーツではなくプレイするスポーツです。なのに、プレイヤーのための情報をばっさり削ってしまい、さらに大会レポートもないし、ランキングなどのページもないから、見る人にとっても情報が足りません。

 で、代わりに何があるのかと言えばテニスの蘊蓄です。今回はウィンブルドンに合わせて天然芝の特集を組み、さらに往年の名プレーヤーであるジミー・コナーズを巻頭から巻末までフィーチャー。表紙に書かれている「呼び醒ませ!テニスの情熱」というコピーから推察しても、明らかに雑誌のターゲットは50代以上のテニス愛好家。そう、1970年代にポパイが特集を組んで巻き起こったテニスブームに乗った当時の若者たちです。今は50才を超えてしまったオジサンたちに対して、まったりと昔のテニスを懐かしみながら、知的にテニスの蘊蓄を楽しもうじゃないか、というのが雑誌のコンセプトです。

 でも、ここには文化がありました。ちょっと底は浅いかなと思いましたが、それでもテニスを文化として語ろうという心意気は感じました。隔月刊になった以上、最新のニュースを追ってもネットに勝てるわけはないし、技術特集もマンネリだし、そもそも若いテニス愛好家は減少の一途の上に、彼らは雑誌を買わない。だからボリュームゾーンであり、雑誌を買うオジサンを狙って知的懐メロ路線でいこうというのもよくわかります。僕もそんなオジサンの一人ですから。オジサンは昔話が大好きですしね。

 そんなわけで、ようやく少し毛色の変わった雑誌が登場したことを僕はとても嬉しく思いましたし、これが売れるかどうかはわかりませんが、少なくとも支持していることを表明して応援していこうと思ったのでここに取り上げてみました。まあ最低でも1年くらいは続いて欲しいですからね。コナーズ以降は、ボルグ、マッケンロー、エバート、ナブラチロワと取り上げて、レンドルあたりで終わってしまうかも知れませんが。



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