幹事クリタのコーカイ日誌2009

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2月24日 ● 滝田洋二郎とアカデミー賞の落差。

 第81回アカデミー賞で『おくりびと』が外国語映画賞、『つみきのいえ』が短編アニメ映画賞をダブル受賞しました。日本映画のダブル受賞なんて実に快挙です。外国語映画賞は過去に『影武者』『たそがれ清兵衛』など何回かノミネートまではいったのですが、受賞したのは初めて。今回もダメだろうと予想して期待していなかっただけにビックリしました。

 それにしても滝田洋二郎がオスカーを手にする日が来るとは驚きです。僕はかなり昔から滝田の作品を見てきました。滝田ファンと言っても良いくらいです。とは言え、さすがに1980年代前半に「痴漢」シリーズで成人映画を撮っていた頃は見ていませんが(もしかしたら記憶にないだけで1、2本はそれと知らずに見ているかも知れませんが)、1985年の一般映画デビュー作となった『コミック雑誌なんかいらない!』はちゃんと劇場で見ました。2才年下の女の子と行きましたが、彼女は「なんだかよくわからない映画だった」という感想で、僕は「変な映画だけど妙に印象に残る」と思いました。

 次に『愛しのハーフ・ムーン』。これは当時人気アイドルだった伊藤麻衣子を主演に据え、アイドルの彼女が濡れ場を演じることが話題になった作品。いわゆるB級アイドル映画です。その次が『木村家の人々』。これは原作の谷俊彦が会社の先輩Y田さんの友人で、それで興味を持って映画も見に行きました。ここでその後の滝田のコメディセンスの萌芽が垣間見えるのですが、まだマニアックなところが残っていました。

 そして次のヒット作『病院へ行こう!』でついに滝田は一般映画の作り方をマスターしたなという感じがしました。この作品は本当に面白くて、続編の『病は気から 病院へ行こう2』とか『僕らはみんな生きている』『熱帯楽園倶楽部』など次々と面白いコメディを作り、コメディ映画なら滝田という感じになっていきます。ただこの頃は原案・脚本の一色伸幸の力量もあったと僕は思っていますが。

 ところが滝田洋二郎のイメージが僕の中でガラリと変わったのが1999年の『秘密』でした。小林薫、広末涼子、岸本加世子によるこの作品は、東野圭吾の原作の出来の良さということを差し引いても、映画として面白いものに仕上がっていました。もちろん原作ファンにしてみれば映画版の改変部分(特にラスト)は許し難いという意見もあったかとは思いますが、僕はこの『秘密』は原作、映画ともにそれぞれ素晴らしいと評価しています。

 これ以降、滝田はコメディ路線からシリアスな映画に転向し『壬生義士伝』『陰陽師2』『バッテリー』などを手がけ、それが今回の『おくりびと』につながるわけですが、『秘密』から滝田を見始めた人はともかく、『コミック雑誌〜』『愛しのハーフ・ムーン』から見ていた僕としては、とてもオスカーを手にするような監督だとは想像もつきませんでした。過去に外国語映画賞にノミネートされた熊井啓とか黒澤明とか山田洋次のような巨匠ならともかく、成人映画出身のコメディ映画監督ですよ。もちろん、だからこそ人間の本質を描けるんだとも思っていますけどね。

 こうやって振り返ってみると、なんだか滝田の監督人生は豊臣秀吉並の出世双六を見ているような気がします。昔からのファンとして、今回の受賞はそんな大出世を遂げたことに対するちょっと戸惑いながらの大拍手というところです。