幹事クリタのコーカイ日誌2008

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7月8日 ● テニス史上最高レベルの名勝負。

 5時間近いその死闘の果てに、ついにフェデラーの牙城が崩れました。生ける伝説ロジャー・フェデラーが、あろうことか最も自信を持っているウィンブルドンの芝の上で負けたのです。フェデラーは勝てばボルグを抜く6連覇、そしてウィンブルドンでの連勝記録もボルグと並ぶ41連勝になるはずでした。フェデラーが築き上げてきたものを崩壊させたのは、スペインの若きファイターであり「土の王者」ラファエル・ナダルでした。いや、芝の王者に勝ったのですから、ナダルはもはや土だけの王者ではありません。真の王者になろうとしています。王朝が交代し、そしてナダルもまた伝説になったのです。

 我々のように30年もウィンブルドンを見てきたオールドファンには、この王朝交代劇は、まさに1980〜81年のボルグとマッケンローの対決を彷彿とさせます。1980年、決勝で激戦の末にマッケンローを下し5連覇を達成したボルグでしたが、翌年マッケンローにその座を奪われて、失意のうちに引退しました。その後、マッケンローはコナーズやレンドルと競いながら王者として君臨していくわけですが、まさに昨年のフェデラーとナダルの激戦と、今年の王者交代劇は「歴史は繰り返す」の諺どおりの展開となりました。

 ただボルグはそのままモチベーションを失ったかのように若くして引退してしまいましたが、フェデラーが易々とナダルにその座を譲り渡すとは思えません。恐らく必ずやナダルにリベンジすることを誓っているはずです。昨晩の2人の対戦もほぼ互角でした。前半の2セットの中であと1ポイントをフェデラーが奪ってサービスをブレイクしていれば、どうなっていたかはわかりません。フェデラーは確かにナダルの進化を誰よりも感じ理解していることでしょうが、まだ自分がナダルに負けているとは思っていないことでしょう。

 それにしても凄い試合でした。まるで宇宙空間でテニスをしているかのように軽々と重力を感じさせないほどのスピード感溢れる動きの中で、お互いが信じられないようなスーパーショットを連発し、それをまた切り返していました。フェデラーのテクニック、ナダルの身体能力の高さは、人類未踏の領域でした。僕が見た中で間違いなくベストバウトであり、最高峰のテニスの発表会でした。テニスはついにここまできたのかと感嘆させられました。

 次は9月の全米オープン。今年ひとつもグランドスラムを取っていないフェデラーにとって、どうしても譲れないタイトルだけに、さらにヒートアップした戦いが見られそうです。しかし、ライバルとしてここまでお互いに高め合ってしまうと、他の選手たちにとってはたまったものではありません。かつてないほどレベルが上がっている男子テニス界。いまこれを見逃すのは、実にもったいないです。全盛期の2人のテニスの伝説を見ておいて絶対に損はありません。

 ところで余談ですが、実況を担当したNHKの森中アナにはいくつか苦言を呈したいと思います。最初に選手を紹介する時にフェデラーとナダルのことを「永遠のライバル」と言ったのは良いとして、「ボルグのライバルはレンドル」「マッケンローにはコナーズ」というのはおかしいでしょう。最初に書いたように今のフェデラーとナダルは、まさにボルグとマッケンローの関係にあり、強いてボルグのライバルをもう1人挙げるならコナーズしかあり得ませんし、マッケンローのライバルこそレンドルでしょう。逆になっています。マッケンローとコナーズはボルグ引退後にも競い合っていますから良いとして、ボルグとレンドルは全くライバル関係にはありませんでした。

 それからフェデラーの得意ショットである回り込んでのフォアハンドストロークを「あえてフォア」と連発するのはおかしいでしょう。「バックハンドで打つところを、あえて得意のフォアハンドで打った」ということを言いたいのはわかりますが、普通に「まわりこんでフォア」と言えば良いと思います。「あえてフォア」と言われたら「あえてナダルが得意のフォア側を狙って打った」と捉えるのが通常のテニスファンの感覚だと思いますから。

 またフェデラーのバックハンドを「鍛え上げたバック」と連発したのも妙でした。「苦手だったバックハンドを鍛え上げてきた」と言いたいのでしょうが、その「鍛え上げたバック」をナダルに狙われたことがフェデラーの敗因だったのですから。フェデラーがバックハンドをミスして劣勢になっていくうちに「鍛え上げたバック」の連発はやめましたが。森中アナはウィンブルドンを長年担当しているベテランスポーツアナだけに、ちょっとどうしちゃったの?と思わせる実況でした。