TRIO '65 (VERVE)

BILL EVANS (1965/2/3)

TRIO '65


【パーソネル】

BILL EVANS (p) CHUCK ISRAELS (b) LARRY BUNKER (ds)
【収録曲】

(01-03) ISRAEL / ELSA / 'ROUND MIDNIGHT
(04-06) LOVE IS HERE TO STAY / HOW MY HEART SINGS / WHO CAN I TURN TO?
(07-08) COME RAIN OR COME SHINE / IF YOU COULD SEE ME NOW

【解説】 (2009年05月03日更新)

  前回に引き続き、長野お花見旅のお話です。 1日目は小諸に泊まったんですが、小諸には懐古園くらいしか見るものがありませんな。コモロ諸島ならシーラカンスが見れるんですけどね。とりあえず須坂まで足を伸ばして、 臥竜公園 にでも行ってみますかね? とか思っていたんですが、開花情報を見ると、既に臥竜公園の桜はかなり散っちゃったようでありまして。 「やっちゃったちーちゃん」 というスケベ動画はなかなかソソられるものがあったんですが、桜は散っちゃったら、それでおしまいですからね。仕方なく、代替プランとして小諸付近の観光スポットを調べてみたところ、わりとよさげなところを発見したんですが、 布引観音 というのがソレであります。何でも 「牛に引かれて善光寺参り」 の舞台になったところなんだそうですが、善光寺と言えば今年 (2009年) は7年に1度の御開帳というので、大いに賑わっているみたいですね。7年に1度などと勿体つけてるので、てっきり御本尊を御開帳してくれるのかと思ったら、ご本尊の身代わりの前立本尊という、何となく前立腺肥大に効果がありそうなのを見せてくれるだけなんだそうで、ちょっぴり騙されたような気もするんですが、極秘ルートから入手した裏モノだというので7000円も払ったのに、モザイク入りやん!…みたいな、 高く見積もってもせいぜい1000円くらいの価値しかなくて、それと同様、前立本尊レベルなら1年に1回くらい御開帳してくれてもよさそうなものなんですが、それはそうと 「牛に引かれて善光寺参り」 というのは、どういう話なんですかね? 言葉だけはよく耳にするし、養老町にある養老ミートという店の看板にも 「牛に引かれてお馴染みの」 などと書かれているんですが、話の中身まで知っているという人は、あまり多くはないような気がします。 ということで、調べてみました。こんな話 (↓) でした。

 むかし信心のうすい老婆が住んでおりました。ある日、千曲川で布を晒しておりますとどこからともなく一頭の牛が現れ、その布を角にかけて走り出しました。老婆は驚いて、野を越え、山を越え、牛の後を追いかけました。ふときがついてみますと信州の善光寺の境内まで来ておりました。老婆は、やっとのことで牛に追いついたのかと思ったのもつかの間、牛は金堂あたりで、突然姿を消してしまったのではありませんか。驚きと悲しみに疲れ果てた老婆は、あっけにとられてその場にたたずんでしまいました。日も暮れる頃、どこからともなく一条の光明がさし、その霊光の尊さに思わずひざまずいて、菩提心を起こし一夜を金堂にこもって罪悪を詫び、家に帰ってまいりました。ある日のこと、ふと布引山を仰ぎ見ますと、岩角にあの布が吹き付けられているではありませんか。老婆は何とかして取り戻したいと思いましたが、断崖絶壁のことで取る術もありませんでした。一心不乱に念じているうち、布とともに石と化してしまったということです。 この布引山の断崖には今も白く布の形をした岩肌が眺められます。布引観音菩薩が牛に化して信心うすい老婆を、善光寺阿弥陀如来の許に導いて教化をしたのだそうです。この話は信濃四大伝説の一つとして今に語り伝えられています。

 あかんやん!…と、僕は思いましたね。菩提心を起こして金堂にこもって罪悪を詫びたのに、石にされてるやん! 俄か信心では結局のところ救われることはないという、仏の道の厳しさを世に知らしめるための説話なんですですかね、こりゃ? あまりと言えばあまりにもシビアなので、信心に目覚めた婆さんは心を入れ替えていい婆さんになって、めでたく極楽浄土に行くことが出来た。…と、結末を改ざんしたバージョンもあるようなんですが、それはそうとこの布引観音、プチ清水寺みたいで、なかなかよさそうではありませんか。 ということで、行ってみました。詳細は ここ を見て貰うとして、懐古園と布引観音。2つも見るところがあって、小諸もなかなか立派なものでありますな。これであとひとつ、コモロオオトカゲセンターでもあれば完璧なんですけどね。その辺のシケた大トカゲを展示するだけでも、コモドオオトカゲがいるのか?…と勘違いする人がいて、けっこう集客が見込めると思えるんですが、どんなものでしょうか? ということで、続いての目的地は白馬なんですが、その前に 雷電くるみの里 という道の駅を覗いてみることにしました。小諸の隣の東御市というところはクルミの産地らしいので “くるみの里” は分かるとして、“雷電” って何?…と思ったら、相撲取りの雷電のことなんですな。この辺りが出身地なんだそうで、復元モノながら雷電の生家というのもあるようです。くるみの里だけにクルミ系のお菓子が充実しておりまして、残念ながら着ぐるみのクルミちゃんとか、そういうグッズは無かったんですが、 “くるみおはぎ” というのがあったので、購入しました。とまあそんなことで、白馬に向けて出発ー。

<姫川源流自然探勝園> (←クリックすると写真ページに飛びます。)

 小諸・上田方面から白馬に抜けるには、とりあえず上信越道で長野インターまで行って、そこから下道を走るというのがいいのではないかと思います。微妙に遠回りなんですが、そのルートが一番わかりやすいような気がします。インターを降りたら川中島古戦場の横を通って、国道19号線の長野南バイパスに出て、犀川沿いの道を走って、白馬長野有料道路に向かいます。この道路は有料なだけあって、なかなか優良な道路でありまして、特に天気がいい日に白馬方面に向かって走っていると、目の前にどどーんと北アルプスが見えて来て、 「おおっ♪」 と気分が盛り上がってくるところがいいです。 特に北アルプスが雪をかぶっているシーズンがよくて、夏場だとそれほど感動はしません。 4月の中旬から下旬にかけてのこの時期ならまだ残雪も見られるし、沿道のあちらこちらに桜の花も咲いてるし、路面凍結の心配も無いので、ドライブにはベストかも知れません。 で、この日の山の見え具合はそうだったかというと、んー、まあまあ? 白い山はそれなりによく見えるんですが、空もなんだか白っぽくて、ま、ぜんぜん見えないよりは遥かにマシだと思って自分を慰めるしかない、そういう状況でありました。 とまあそんなことで、白馬に到着ー。

 ここでの目的地は 姫川源流自然探勝園 であります。親海(およみ)湿原という、ちょっとした湿った原っぱと姫川の源流とがペアになっていて、国道のすぐそばという便利なロケーションであるにも関わらず、それなりに山野草も咲いていたりして、個人的に好きなスポットなんですよね、ここ。 “白馬さのさか” というスキー場の駐車場が使えるというのもポイントが高いです。 で、4月中旬になるとフクジュソウが咲くというので、その筋のマニアの間では有名なんですが、今年はちょうど、僕の訪れた4月19日が 福寿草まつり のイベント日になっておりました。ラッキー♪ オカリナ演奏やコーラス、そば茶やオリジナル漬物のふるまい…というのは別にどうでもいいんですが、山菜てんぷらというのはいいですよね。たかが山菜でも店で天麩羅を食べたりすると意外に高かったりして、山菜で散財ということに成りかねないんですが、タダでふるまってくれるというのは、なかなか太っ腹でありますなー。 腹が太くなるまで食いまくってやるぅ!…という闘志を秘めて会場に向かうと、おおっ、ふるまってる、ふるまってる♪ オッサンが嬉しそうに山菜のてんぷらを食っておりますな。なかなか盛況なようで、何よりなんですが、僕は決してガッついたりしません。楽しみは最後まで取っておく主義なので、とりあえず先に散策のほうを済ませて、あとからゆっくり山菜てんぷらを食うことにしてと。

 で、結論から言うとですね、フクジュソウは思ったほどは咲いておりませんでした。 ま、ぼちぼちといったところでしょうか? 恐らく散策路から花までの距離が遠いであろうと踏んで、カメラには 70-300mmのズームレンズを付けたんですが、それで正解。 写真の出来としては、んー、まあまあ? でもまあ、予想してなかったミズバショウの花も見られたし、カタクリも咲いてたし、梅花藻やキクザキイチゲも見れたし、何より姫川源流のせせらぎがとってもせせらいでいて、とってもよいところでありました。 隣の親海湿原のほうは、その辺を徘徊していたガイドのおっさんの話によると、まだ花には早いみたいで、それより何よりイベント会場の山菜てんぷらが気になるので、さっさと引き上げるとして。 で、駐車場の横の特設テントに戻ると、さっきよりも人が少なくなっていたんですが、 “ふるまいコーナー” に行ってみると、ん!?無いっ!山菜てんぷらが無いっ!そば茶と漬物しか無いっ! も、もしかして、山菜、品切れ? 楽しみは最後まで取っておく主義が完全に裏目に出ちゃったようですが、いやあ、見掛けたときにさっさと食っておくべきでしたなぁ。。。 ま、小麦粉をつけて油で揚げてみたところで、所詮は山菜ですからね。悔しくない!ぜんぜん悔しくなんかない! それに、今日のディナーは山賊焼きの予定なので、昼間っからアブラっぽいものを食べて下痢になったりしてもつまらないしー。


<信濃大町> (←クリックすると写真ページに飛びます。)

 やさぐれた気分で会場を後にした僕でありますが、それはそうと、昼飯を山菜てんぷらでまかなうというアテが、すっかり外れてしまいましたなぁ。 幸い、道の駅で “くるみおはぎ” を買っておいたので、飢えることはないんですが、どうせなら景色の綺麗なところで食べて、少しでも荒んだ気持ちを解きほぐしたいところでありますな。 ということで、木崎湖のほとりにクルマを止めて、 そこで食べることにしました。 “くるみおはぎ” はですね、思ってたのはちょっと違っていたんですが、美味しかったです。 どのように思ってたのと違ってたのかと言うと、ぜんぜん甘くなかったんですが、中にアンコが入ってないタイプのおはぎなんですよね。 で、外にまずしたクルミのほうは完全に粉化しているため、クルミらしい歯応えはありませんでした。パッケージに “くるみおはぎ” と書いてなければ、甘くない “きな粉おはぎ” だと誤解したまま死んでいくことになりそうなんですが、和菓子というより、普通に主食になりそうな感じです。これをご飯の替わりにして、おかずに山菜の天麩羅を食ったら、さぞや美味しかっただろうにー。 ま、とりあえず腹も膨れて満足したので、ちょっと付近を散策してみることにしたんですが、湖のすぐ横を大糸線の線路が走っていて、何だかとっても “撮り鉄” したい気分にさせられるロケーションなんですよね、これがまた。 W-ZERO3 で時刻表を調べてみたら、あと10分ほどで普通列車が来ることが判明したので、ちょっと待ってみることにしました。

 ということで、来ましたー。  海ノ口駅を 12時15分に出発する南小谷行きでありますかー。 これの1本前だと 10時40分、1本後だと 14時23分と、極めて本数の少ないローカル線でありますので、待ち時間10分でモノに出来たというのは、ラッキーなタイミングでありました。 ま、写真の出来そのものは、ぜんぜん大したことのない結果に終わってしまいましたけど。 5月24日には快速姫川源流ハイキング号という特別列車が走るようなので、マニアな人は狙ってみましょう。 ということで、続いての目的地は安曇野 です。 木崎湖から豊科までは国道148号線だか、147号線を走るのがカーナビ的には無難なルートなんですが、走って楽しいのは 北アルプスパノラマロード です。大町市まで国道を走ってこの道に出ることも可能なんですが、個人的には山のほうを走る道のほうがお薦めです。言葉では説明しにくいので地図で説明すると、 これ 。 この道の途中に蓮華大橋というのがあるんですが、ここから見る北アルプスが絶景です。天気がよくないと見えないし、夏場だとさほどでもないので、そういう状況の場合は敢えて走る必然性は無いんですが、今回は丁度、近くの公園の桜が綺麗に咲いておりましたので、こっちのルートにして、よかったぁ♪…という感じですな。 豊科方面に行くには橋を渡ってすぐの信号で左折することになるんですが、左に曲がってすぐのところに、また左に入っていく道があって、その下のところにちょっとした駐車場があるので、そこにクルマを止めて散策してみるといいでしょう。 名前も見た目もカッコいい鹿島槍と、名前はダサいけど見た目は意外とイケてる爺ヶ岳とが、とってもよく見えます。


<大王わさび農場> (←クリックすると写真ページに飛びます。)

 ということで、安曇野に到着ー。 安曇野の観光スポットといえば、これはもう、 大王わさび農場 で決まりでしょう。 “わさび” と “農場” は分かるとして、 “大王” というのは何や?…と思ったら、その昔、この辺りに魏石鬼八面大王という大王がいたことに由来するようなんですが、ネーミングのパターンとしては “雷電くるみの里” と同じであると言えそうです。頭に雷電とか大王とかを付けたおかげで、全体的な印象がややお間抜けになってしまっておりますが、ま、関係者がそれで納得しているのなら、部外者があれこれと言う筋合いではありません。 で、大王わざび農場と言えば、水車小屋が定番の撮影スポットなんですが、これってやっぱりパチモンなんですかね? あまりにもハマり過ぎていて、観光用に後から作ったとしか思えないんですが、場内のあちこちに散らばる道祖神も、恐らくはバッタモンでしょう。 で、天気がよければここから綺麗に常念岳が見える筈なんですが、この日は午後から次第に雲が広がってきて、ちょっと今ひとつでありました。ずっと前に撮った写真が ここ にあるので、これでヨシとしておきましょう。 昔はこれで、綺麗な写真が撮れた♪…と思ってよろこんでいたんですが、今から思えばさっぱりですな、こりゃ。


<ほりがね物産センターの菜の花> (←クリックすると写真ページに飛びます。)

 ということで、この日の最後は菜の花です。ほりがね物産センター南の休耕田に広がる黄色いじゅうたん。残雪の北アルプス常念岳、澄み切った青空とのコントラスト。思わず手にするのはカメラ、それとも絵筆。見頃は4月中旬から5月中旬。 …と、 ここ に書いてあったので、思わずカメラを手にしてしまった次第でありますが、成るほど、確かにカメラを手にしたオッサンがたくさん来ておりました。絵筆を手にしたオバチャンとかはいませんでした。確かに休耕田には黄色いじゅうたんが広がっていて、残雪の北アルプス常念岳も見えていたんですが、澄み切った青空というのはさっぱりでありましたな。このサイトはちゃんと、今ひとつな天候時の写真も掲載していて、その点ではなかなか良心的だと思うんですが、出来れば左のような写真を撮ってみたかったですなー。 で、この菜の花畑、思ってたほどは広くなくて、写真のマジックで、何とか一面に咲き誇っているように見せることは可能なんですが、右と左、大きく2箇所に分散していて、その中間部分が単なる荒地みたいになっていたのが、ちょっと残念なところです。 ま、空き地になってるからそこに人が入ることが出来て、若いギャルとかの姿もそれなりに見られたので、それはそれでよかったと思うんですけどー。

 とまあそんなことで、僕はすっかり満足して、宿泊先である ほりでーゆ〜四季の郷 に向かったのでありました。 ということで、この続きは、また来週〜♪

 ということで、今日はビル・エバンスです。この人に関しては今さら説明不要だと思われるので、経歴だとか、人となりだとかの話は省いて、さっそく本題に入ろうかとも思ったんですが、今日の後半はあまり書くこともなさそうなので、簡単にそのプロフィールを紹介しておこうと思います。ビル・エバンス。本名ウイリアム・ジョン・エバンス。 エバンスではなく、エヴァンスと書くのが正解なんじゃないか?…という意見もあろうかと思いますが、どうせ僕の発音では外人に通じる筈がないので、日本風の記載に統一しておこうと思います。ナガシマスパーランドのコマーシャルでも、大阪のテーマパークがなんだー、日本で外国ぶることはないんだよー♪ …と歌われてますしね。 ちなみにナガシマではこのゴールデンウィークに、期間限定で “リアル恐怖体験 廃校の呪人形” などというオバケ屋敷イベントをやっているようですが、2ちゃんねるでの評判は、どうも今ひとつのようです。 とまあ、そんなことはどうでもよくて、ドビュッシー、ラベルなどのクラシックに影響を受けた印象主義的な和音、スタンダード楽曲を題材とした創意に富んだアレンジと優美なピアノ・タッチ、いち早く取り入れたインター・プレイの演風は、ハービー・ハンコック、チック・コリア、キース・ジャレットなど多くのピアニストたちに多大な影響を与えたほか、ジョン・マクラフリンといった他楽器のプレイヤーにも影響を与えている。エヴァンスのアルバムには駄作が一枚も無いと評されることもあるほど、質の高い録音が多い。中でもベースのスコット・ラファロと録音した諸作品 (特にアルバム「ワルツ・フォー・デビー」) は、ジャズを代表する傑作としてジャズファン以外にも幅広い人気を得ている。…って、Wikipediaをコピペしたら、表記がエヴァンスにブレてしまいましたが、保守的な僕としては、エバンスと言えばリバーサイドという思い入れが強いです。かと言って、今さら 「わるでび」 というのもプライドが許さないし、仕方が無いので今回はヴァーヴ盤にしておこうと思うんですが、とりあえず 『トリオ '65』 、いっちゃいますか。

 保守的な僕としては、エバンスと言えばスコット・ラファロ&ポール・モチアンやろ?…という思い入れが強いんですが、それがどうしても無理というのなら、ベーシストはチャック・イスラエルで妥協してもいいんですけど。 ラファロは1961年にお亡くなりになってしまったので、それ以降は妥協せざるを得ないんですが、この 「トリオ '65」 はベースがチャック・イスラエルで、1曲目も 「イスラエル」 だったりするので、リバーサイドのエバンス好きの日本人にも、わりと受け入れられやすい1枚であると言っていいでしょう。ちなみにドラムスはラリー・バンカーですか。 ま、悪くはないと思うんですけどね。 ということで、 「イスラエル」 が始まりました。 言わずと知れたエバンスの最高傑作…だと個人的には思っている 『エクスプロレイションズ』 の冒頭を飾ったナンバーでありますが、あまりにもあっちのバージョンに慣れ親しみ過ぎているので、今さら再演されても、ちょっぴり違和感を思えてしまいます。何というか、あの繊細でセンシティブだったエバンス青年が、洗剤で恥部を洗っているオッサンになってしまったような感じで、やや寂しさを覚えてしまいます。 が、余計な思い入れを排除して、純粋に演奏に耳を傾けてみると、これはこれで、それなりにアレだという気もしてくるんですが、ただ、いくら曲がイスラエルだからといって、ちょっとチャック・イスラエルをフィーチャーし過ぎですよね。 テーマに続いてエバンスのソロがあって、その後ベースが登場するんですが、正直、ちょっぴり退屈です。 続いてエバンスとラリー・バンカーとの絡みがあるんですが、正直、ちょっぴり喧しいです。 人間というのは普通、年を重ねるにつれて、枯れた味わいが出てくるものなんですが、エバンス・トリオの場合、中年になって厚かましくなった感がありますな。 それがサイドマンの資質によるものなのかどうかは定かではありませんが、とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 続いて、これまた『エクスプロレイションズ』 に収録されていたナンバーで、 「エルザ」 。この選曲を、日本人の心をよく分かっていると見るか、単なる懐古主義と捉えるかで、このアルバムに対する評価が大きく違ってくるんですが、 「エルザ」 と言えば動物レストランですよね。 “動物レストラン エルザ うんこ” で検索すれば、僕が前に書いたネタとかが引っ掛かるので、ここでこの話題に深入りするのはやめておきますが、アール・ジンダースという人の作ったワルツ・タイムの佳曲であります。ジンダースというと僕の場合、桑名の相川町にあるヂンダ薬局を思い出してしまうんですが、子供の頃はよく、ヂンダまで仁丹を買いに行ったものであります。普通の仁丹はオッサン臭くて嫌いだったんですが、グリーン仁丹とか、うめ仁丹とか、レモン仁丹なんかは美味しかったので、おやつ代わりによく食べておりました。懐かしいですなぁ、仁丹。 …って、この話は本題とは何の関係もないので、これ以上深入りするのはやめておきますが、ここでの 「エルザ」 は意外と悪くありません。 あのセンシティブだった青年時代のエバンスの面影が色濃く感じられます。ベースやドラムスがあまり出しゃばらないのが功を奏したのか、概ね、いい感じでピアノのソロが進められております。 とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 3曲目、 「ラウンド・ミッドナイト」 。 僕は “ラウンド” という言葉を見るとどうしても “皿うどん” を思い出してしまうんですが、先日、リンガーハットで食べた皿うどんは、ちょっと今ひとつでありました。 いや、別にリンガーハットに非があるわけではなく、僕のペース配分に問題があったんですが、前半にあんかけのタレを浪費し過ぎて、終盤、バリバリの麺だけが残ってしまったんですよね。 CoCo壱番屋でカレーを食べても同じような状況に陥ることがあって、最後のほうはカレーライスではなく、単なる “福神漬ごはん” になったりするんですが、で、演奏のほうはと言うと、ま、バラードなので、叙情派としての持ち味はよく出ていると言っていいでしょう。 アドリブ・パートではそれなりにテンポも速くなって、スインギーな展開になったりもして、で、続いてイスラエルのベースがフィーチャーされることになります。 ソロというより、途中からほとんどテーマ・メロディを弾く形になるんですが、それはそれで、なかなかよく考えられた演出だと思います。 でもって、何だか妙に陽気なエバンスがテーマの後半を担って、ということで、おしまい。 で、続いてはガーシュイン・ナンバーの 「ラブ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」 。 ミディアム・テンポで軽快にバウンスする仕上がりとなっております。 が、テーマに津好いてすぐベースのソロが出てくるところがちょっとアレで、でもまあ、さほど長くは続かないところが救いでありまして、続くエバンスのソロはなかなか快調だと思います。快くて調子がいいです。 とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 5曲目、 「ハウ・マイ・ハート・シングス」 。 エバンスには同名のリーダー作があって、そこでのタイトル曲は彼の隠れ名演では無いかと僕は高く評価しているんですが、いや、世間的に見ても別に隠れているわけでは無いのかも知れませんけど。 何とも日本人ウケのするメロディなんですが、 「エルザ」 と同じアール・ジンダースの曲なんですな。仁丹を3ダース食べた時のような清涼感が感じられ、いや、それだけ食えばむしろ気持ち悪くなるような気もするんですが、リバーサイド時代よりも若干テンポを速めて、エバンスが軽快なソロを聴かせてくれております。ラリー・バンカーのブラッシュ・ワークも切れ味抜群。ベースが出しゃばってこないのも賢明な措置でありまして、ロシアの保養地ソチで過ごす休日のような満ち足りた気持ちになれます。 とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 6曲目、 「フー・キャン・アイ・ターン・トゥ」 。 「私はだれに頼ってもよいですか?」 …って、そんなこと僕に聞かれても困るんですが、日本語、ちょっと変ですしね。 ま、翻訳サイトの実力としてはこんなものなんでしょうが、個人的にはかなり好きな部類の曲であります。エバンスの演奏も普通によくて、彼らしさは十分に発揮されていると評価していいでしょう。 とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。 7曲目、 「カム・レイン・オア・カム・シャイン」 。 誰もがこれを 「降っても晴れても」 と訳すわけなんですが、翻訳サイトだと 「輝きに雨のように降らすか、または来に来てください」 になっちゃいますか。 彼の実力からしても、ちょっとひど過ぎるような気がするんですが、英語的にも見ても正しい文法であるとは思えないので、やむを得ないところなのかも知れません。 アップ・テンポでスインギーに迫るか、スロー・テンポでムーディーに料理するか、エバンスがどちらの道を選ぶのか、ちょっと興味があるんですが、 『ポートレート・イン・ジャズ』 ではかなり速くやってたような記憶があるんですが、果たしてどうでしたか。 で、ここではかなりスローなテンポを採用したようなんですが、テーマに続いてすぐイスラエルのベース・ソロが出てくるところは、ちょっとどうかと思います。 僕はこのアルバムで彼に対する好感度がちょっとダウンしてしまったんですが、続くエバンスのプレイは普通によかったと思います。

 ということで、ラストです。 「イフ・ユー・クッド・シー・ミーナウ」 。 タッド・ダメロンのペンによる珠玉のバラードなんですが、ここでのエバンスはロマンチックな表現に終始していて、良好です。 下手に派手に装飾しないほうが格調が高くなっていいんですが、その点、この人はよく弁えてますよね。 「わきまえる」 というのが、漢字で書くと弁当の “弁” という字だというのは今初めて知ったんですが、ま、便所の “便” という字よりはマシだと思うし、とまあそんなことで、今日のところは以上です。

【総合評価】

 少し前に “アルゼンチンのビル・エバンス” と呼ばれるピアニストのアルバムを紹介しましたが、これもまあ、 “ヴァーブのビル・エバンス” と呼ばれるピアニストの演奏だと思えば、十分に楽しめるのではなかろうかと。 ベタ過ぎる選曲もここまで露骨だと、むしろ清々しい気がするし、エバンスも見た目こそかなりオッサン臭くなってしまったものの、まだ髪型は爽やかだし、演奏スタイルそのものはそれなりにアレだという気がするし、ま、無難な仕上がりだったのではないでしょうか。 地味ィなお薦め盤といった感じの1枚でありますな、こりゃ。


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