THE MAN WHO CRIED FIRE (NIGHT)

ROLAND KIRK (1975年頃)

THE MAN WHO CRIED FIRE


【パーソネル】

ROLAND KIRK (ts,fl,manzello,stritch,tp,cl & Others) HILTON RUIZ (p) <except #5> RON BURTON (p) <#5>
HENRY "METATHIUS" PEARSON (b) SONNY BROWN (ds) ROBERT SHY (ds)
JOHN GOLDSMITH (ds) JOE "HABOA" TEXIDORT (perc) TODD BARKAN (perc)
STEVE TURRE (tb) <#9> KENNY ROGERS (bs) <#1,7>
【収録曲】

(01-03) SLOW BLUES / BYE BYE BLACKBIRD / MULTI-HORN VARIATIONS
(04-05) UNIDENTIFIED TENOR SELECTION / YOU DIT IT , YOU DID IT
(06-07) NEW ORLEANS FANTASY : (1) TRADITIONAL NEW ORLEANS PIECE 〜 (2) THE BLACK AND CRAZY BLUES / NIGHT TRAIN
(08-09) MR.P.C. / A VISIT FROM THE BLUES

【解説】 (2008年06月29日更新)

 世の中で何が嫌いって、蜘蛛ほど嫌いなものはありません。 ま、他にもいろいろと嫌いな物はあって、例えば機雷なんかも嫌いなんですが、水中に敷設され、艦船が接近又は接触したとき、自動または遠隔操作により作動する水中兵器って、いったい何てものを作ってくれるんでしょうか。そんなものに触ったら、船が沈むやーん! ま、それに比べれば蜘蛛なんてやつはまだ安全度が高いと言えるんですが、僕の蜘蛛嫌いはですね、とある幼児体験が要因となっております。あれは小学校6年生の頃でしたか。夏休みに学校のプールで泳いでいて、プールサイドで何やら不思議な袋状の物体を発見したんですよね。何だこりゃと思って指でツンツンすると袋が破れて、中から無数の小さな蜘蛛がウジャウジャウジャウジャと出てきて周囲に飛び散って、うわー!地雷踏んじまったぁ!…という、そういう悲惨な体験だったんですが、いや、 「蜘蛛の子を散らす」 という言葉の意味が凄くよく分かったような気がしました。 小学校の6年生にもなって、何が幼児体験や?…とか、そういう意見もあろうかと思うんですが、蜘蛛の子を散らしてしまった以上、僕が極度のクモ恐怖症になってしまったのも当然であると言えるでしょう。幸いにも僕は今まで熊に襲われたことがないのでクマ恐怖症では無いし、鴨鍋を食べて食中毒を起こしたこともないのでカモ恐怖症でも無いんですが、クモは駄目です。あと、肝も駄目です。肝を食べると気持ち悪くなります。フォアグラなんても所詮は肝なので、あまり食べる気はしないんですが、ここまでの勝敗はというと、カモとクマは大丈夫でも、クモと肝が駄目で、2勝2敗。 が、コモのパンは大好きなので、最後で勝ち越すことが出来たんですが、もしかして東京とかでは売っていないんですかね、コモ。 裏で何か悪いことをしているのではないか?…と勘繰りたくなってしまうほど賞味期限が長いので、昼食用に買いだめしておくには非常に便利なんですが、最近、カロリーの摂取量を制限するため、お昼にコンビニでハムカツサンドとポテチを買うのはやめにして、コモのパンで飢えを凌ぐことにしているんですよね。デニッシュ系は1個あたり300kcal 前後とカロリーが高いので、156kcal の “毎日クロワッサン” とかで我慢してます。あとは76kcal くらいのクラッカーを1パック、25kcal くらいの蒟蒻畑を1個、更には27kcal くらいの“おしどりミルクケーキ”を1本とか。 蒟蒻畑、原材料がコンニャクの分際で、意外とカロリーが馬鹿になりませんな。1個だけでは物足らず、ついつい2個、3個と食べてしまって、あげくの果てには喉に詰まったりしてちょっと危険なので、最近は ウィダーのゼリー に切替えたりしているんですが、ファイバーとかマルチミネラルのタイプなら180gで35kcal なので、とっても好都合♪ ただ、100万人に1人くらいの割合でいるらしいゼリー恐怖症や寒天恐怖症のギャルには、あまりお薦め出来ないんですけど。

 世の中には色んなタイプの恐怖症があるんですが、その中でいちばんポピュラーなのは何でしょう? 恐らく、高所恐怖症というのがいちばんメジャーなのではないかと思うんですが、僕も高いところはからきし駄目です。ランドマークタワーの展望台とか、そういう間違っても下に落ちそうもないところであれば、最近はわりと大丈夫だったりするんですが、サル梯子は駄目です。4段くらいならまだ何とか耐えられるんですが、5段を超えるともう駄目です。サル梯子の場合、そんなに多く間違えなくても、ほんのちょっとした間違いでも下に落ちちゃいますからね。間違えて両手を離したりすると、たぶん落ちます。両手でしっかり梯子につかまっている分には大丈夫なんですが、それでは梯子を上りも下りも出来なくなってしまいますからね。梯子というのは上に昇ったり下に降りたりする目的で設置されている場合が多く、ずっと梯子につかまって静止していても埒が開かないので、仕方なく片手を離して上の段、もしくは下の段に持ち変えるという作業を行なわなければならないんですが、片手を離す際に間違えて両手を離しそうになっちゃいます。足が震えて、全身が硬直します。半泣きになって、ちょっぴり漏らしちゃうこともあります。普通の梯子ならまだ多少は角度があるからいいんですが、サル梯子の場合は垂直ですからね。ほとんど垂直とかそういうレベルではなく、完全に垂直。設置する際には水平器とか下げ振りとかを使ったりするので、よほどアバウトな性格の工事監督のもとで施工されたものでなければ、かなりの精度で垂直であると思っておいていいでしょう。こんなん、サルでなければ無理や!…と思わずにはいられませんが、50段くらいあるサル梯子を何の躊躇も無く、平気な顔で昇っていくヤツというのも、世の中にはいるんですよね。人間として、どこか間違って生まれてしまったとしか思えないんですが、調べてみたら高所恐怖症というのは恐怖症のランキングの中では思ったほど上位ではなかったりするようで、そのデータというのが ここ にあるんですけどね。

 蜘蛛恐怖症が1位。ちょっと意外でした。いや、確かに蜘蛛は怖いんですが、何も1位にならなくてもエエやろ?…という気がします。7位あたりが順調ではないかという気がするんですが、対人恐怖症というのも多いんですな。世界レベルで見たランキングということで、恐らく世界でいちばん対人恐怖症の人が多いとされるタイ人の存在が全体の順位を押し上げているのではないかと思うんですが、この中で今ひとつすっきりしないのが飛行機内、空気の淀んだ場所への恐怖症。 何かもうちょっと、すっきりした表現は出来ないのか?…と、気分がもやもやしてしまいますが、オープンスペースに対する恐怖症というのもよく分かりません。閉所恐怖症ならよく分かります。狭くて暗くて空気の淀んだ場所。そういうところは嫌です。何だか窒息死しちゃいそうですもんね。生命の危険を感じる場所への恐怖心というのは非常によく理解出来るんですが、オープンスペース。何が怖いんですかね? これがもし、オーブン寿司飯恐怖症というのであれば、オーブンでグラタンを作る際、取り出す時にめっちゃ熱くて手を火傷するかも知れなくて怖いし、腐ったご飯を食べたら酸っぱくて、何だかちょっと味が変だとは思ったんだけど、もしかしたら寿司飯なのかも知れないしぃ。…と自分の気持ちを納得させて全部食べたところ、めっちゃ腹が痛くなって下痢をして、寿司飯って怖い! そういう事態は日常生活において十分に起こりうる事なので、恐怖を感じる心は非常によく理解出来るんですが、一方でオープンスペース。開かれた空間。怖がる要素はどこにもないような気がするんですが、あまりにも開かれ過ぎた空間だと、おちおち鼻クソもホジっていられなくて、息が詰まっちゃうんですかね?鼻が詰まって息苦しい時は、思いきり鼻クソをホジりたくなっちゃいますからね。便所とか、物陰とか、体育館の裏とか、そういう閉鎖的なスペースというのも生きていく上では必要なのかも知れません。

 で、この 恐怖症リスト を見ると、人類は実にさまざまな恐怖に曝されていることはよく分かるんですが、あ、オープンスペース恐怖症というのは、人ごみ、公共の場、安全な場から離れることへの恐怖でありましたか。それならそうと最初から “人ごみ、公共の場、安全な場から離れることへの恐怖症” といったスッキリした表現にしておいてくれれば、いちいち鼻の穴まで指を突っ込むことも無かったんですが、野生動物恐怖症道路横断恐怖症尖端恐怖症。この辺りはよく分かります。山を歩けば野生のクマに襲われるし、道路を横断すればクルマに撥ねられるし、先っちょが尖ったものがあれば刺さって痛いしー。いずれも生命の危機に関わる問題ですよね。僕も出来ればクマには襲われたくないし、クルマにも撥ねられたくないし、先っちょが尖ったもので刺されたくも無いんですが、尖端恐怖症に関してはちょっと微妙です。うんと暇な時にシャーペンの先っちょで指先とか手の甲とかをツンツンと突き刺したりすると、ちょっぴり快感だったりしますもんね。 ま、それもシャーペンの先という、さほど生命には影響が無さそうな尖端だからいいのであって、さすがにコンパスの針とか、縫い針とか、ハリセンボンの針とかだったらちょっと嫌なんですけど。後は栗とか、ウニとか。 猫恐怖症。ま、世の中にそういう人がいたとしても、さほど不思議ではありません。猫は機嫌が悪いと噛み付いたりしますからね。ひっかかれたりもします。猫にひっかかれると “猫ひっかき病” になる人もいて、命に関わります。 男性恐怖症。これも分かります。先日、 『実写版まいっちんぐマチコ先生』 の “Let's 臨海学校” という巻を見ていたら、男性恐怖症の陸奥むつ子という教育実習生が出てきたんですが、実写版のマチコ先生に出てくるということは、これはもう史実であると判断していいのではなかろうかと。かくいう僕もかなりの男性恐怖症ですしね。オッサン、嫌いです。

 ピーナッツバター恐怖症。確かに太りそうで、ちょっと怖いです。コモのクロワッサンもノーマルタイプなら156kcal で済むものの、クロワッサンピーナッツだと184kcal になっちゃいます。意外にもクロワッサンストロベリーの 191kcal よりは低いんですが、通風恐怖症。これも怖いです。通風のいい部屋だと痛風になった時に痛みが増してしまいそうで、嫌です。風が吹いただけで痛むそうですからね、痛風。ペンチで締め上げられるような激痛という表現もあって、たいへん嫌な病気なんですが、肉恐怖症。肉の食い過ぎは痛風の元ですからね。これからはコモのパンと蒟蒻畑だけを食べて生きていくのがいいのかも知れません。多分、栄養失調になると思いますけど。 …と、無駄に行数を費やすことが出来たところで本題に戻りたいと思うんですが、僕は蜘蛛と機雷が嫌いであると。肝もあまり好きではないと。よって、鰻屋さんで肝吸いが付いてきてもあまり嬉しくはなくて、むしろ迷惑だったりするんですが、肝吸い。字面からして何だか猟奇的な雰囲気が漂ってますもんね。妖怪肝吸いとか、そんなヤツに捕まったら内臓をエグられて、吸い物にされちゃいそうです。 肝と言えば子供の頃に学校で配布されて、とっても甘くて美味しくて大好きだった肝油ドロップ。あれって今から思えば、肝の油だったんですな。子供を騙して、気持ち悪いものを食わせやがって!…と思わずにはいれれませんが、ま、別に肝臭くもなくて普通に美味しかったから、別にいいんですけど。 嫌いなものでもそうと気が付かなければわりと大丈夫だったりするんですが、蜘蛛の場合もぱっと見て、クモやぁ!…と分かるような姿形でなく、油を絞られてドロップ状にされた形で生きていて貰えれば、さほど恐怖を感じなくて済むんですが、蜘蛛と言うのは一般的に、どこからどう見ても蜘蛛としか思えない形をして生きてますからね。特に黄色と黒のヤツが、最高に蜘蛛やん!…といった感じで最悪なんですが、ま、蜘蛛なんてヤツは見た目がエグいだけで別にヒトを噛んだりすることもなく、逆にハエや蚊などの害虫を捕まえてくれるので、根はいい奴なんだとは思うんですけど。

 が、最近、そんな悠長なことも言っておれなくなってきました。桑名市内やその近隣の地域で、たくさん棲息しているのが見つかったらしいんですよね、毒グモが。毒グモというと、タランチュラみたいな奴なんですかね? 動物界節足動物門の中でタランチュラみたいに嫌な奴というのはそうはいなくて、全身に毛が生えていて、大きいものだと全長が10センチにも達するという。そんなヤツ、たとえ毒が無かったとしても、そのへんを歩いているだけで恐怖のどん底なんですが、幸いにもうちの近くに出没しているのはタランチュラの類では無さそうです。セアカゴケグモという、何だかちょっとシケた奴らしいんですが、セアカだけに背中が赤いらしくて、フォントカラーもとりあえず赤色にしてみました。 こんな奴 なんだそうです。いや、意外とお洒落なデザインなんですな。そのまま靴下の柄にも応用出来そうなんですが、これで “背赤” なのは納得がいきます。 一方、ゴケグモというのは何かと思ったら、漢字で書くと、後家蜘蛛。英語だと “widow spider”。 夫に先立たれ、未亡人カフェで働きながら生計を立てている、可哀想な境遇の蜘蛛なんだね。…と、思わず同情しそうになっちゃいましたが、実態はさにあらず。この蜘蛛はメスのほうがオスよりも数倍カラダが大きいらしく、すけべ行為に及んだ後、もはや用無しと見るやオスを捕まえて食っちまうんだそうです。ま、確かに後家さんであることは間違いないんですが、原因はアンタやん!…みたいな。おそらく、たんまりと生命保険も掛けてあるに違いありません。主人はクモ膜下出血で急死しまして。…とか、適当なことを言って保険金を騙し取ろうとするに違いありません。恐るべき、毒蜘蛛女!

 …などという言い伝えによってゴケグモなどという名前が付けられておりますが、実際にはオスよりもメスのほうが寿命が長くて未亡人になる可能性が高いものの、必ず食い殺すというワケでもないようです。性格もわりと温厚で、驚かされると死んだふりをするなど、こちらからちょっかいを出さない限り、噛まれる心配はないそうなんですが、そういうことならちょっと実物を見てみたい気もしますよね。ただ、大量発生したといっても、木曽三川公園で見つかった600匹はバーナーで焼殺されちゃったみたいで、今から蜘蛛をつかまえるというのは、それこそ雲をつかむような話なのかも知れません。苦もなく蜘蛛を発見♪…とはいかないかも知れませんね。運良く発見することが出来た場合、指で突付いてちょっとだけ噛んで貰って “サバくん蜘蛛に苦悶” という特集を組んでみたいと思いますので、乞うご期待!

 ということで “その他の楽器編” なんですが、そろそろ飽きてきたので今日で最後にしようかと。最後を飾るのはローランド・カーク。やはりこの人しかありません。楽器を3本まとめて咥えて吹いたり、鼻でフルートを吹いたりと、その暴挙は枚挙にいとまないんですが、今回はそんな彼の 『ザ・マン・フー・クライド・ファイア』 という1枚を紹介したいと思います。 「炎を泣かせた男」 。 “” と言うのはおそらく冠二郎のことではないかと思うんですが、泣かせちゃいましたか、二郎。 おそらく、なにが 「アイ、アイ、アイライク演歌♪」 やー。二郎のくせに英語なんか使って生意気だぞ!…とか、そういうことを言われて泣いちゃったんだと思うんですが、保守的な演歌界では反感を持たれそうなキャラですもんね。 ま、かく言うカークのほうもやってることは無茶苦茶で、保守層のウケは決して芳しくないと思うんですが、異端児ですもんね。問題児ほど問題ではないものの、麒麟児ほどウチの婆ちゃんに好かれているわけでもない。そういう立場にあると言えるわけなんですが、僕が子供の頃によく相撲に連れてってくれた婆ちゃん (大森屋のヒロシくんの母) は、麒麟児が大好きだったんですよね。どうやら童顔がタイプだったようですが、あと、カンロ飴も好きでした。 で、今回、このアルバムを選んだのは他でもない、ジャケットが最初からイラストになっていて、ジャケ絵を書くのが簡単そうで、いいかな?…と思ったこと以外に特に理由はないんですが、内容のほうはというと、今回の採用を思わず見合わせたくなるほど、かなり怪しいものとなっておりました。何とかすんでのところで思い止まって今日に至ったわけなんですが、基本はライブ盤なんですけどね。録音されたのは恐らく1970年代の半ばごろ。そういうアバウトなデータしか残っていないので、一応、冒頭での記述は1975年頃としておいたんですが、録音場所は3曲を除いて、サンフランシスコにあったジャズ・クラブ 『キーストン・コーナー』 。 名物料理はおそらく、キース豚(とん)の溶岩石焼とかではないかと思うんですが、中には不完全テイクもいくつかあって、寄せ集めもいいところなんですが、ということで、では1曲目から聴いてみることにしましょうか。

 まず最初は 「スロー・ブルース」 という曲です。解説書のクレジットは 「UNIDENTIFIED BLUES」 となっているのもあって、要するにこれ、正式名称は未確認なんだけど、とにかくブルースであることだけは確か。…といった作品でありまして、かなり遅いテンポで演奏されているものだから 「スローブルース」 という名前が付けられたんでしょう。 で、これはアレです。スローなブルースです。私家録音なのか、音質はお世辞にもいいとは言えないんですが、ま、鹿が録音するよりはマシ?…と思って諦めて貰うしかありません。機械の使い方が分からなくて、何にも録れてない可能性が極めて高かったりしますからね、鹿録音。ライブらしく拍手の音から始まるんですが、このセッションはバリトンサックスのケニー・ロジャースを加えた2管編成となっておりまして、低音サックス2本がねちこく絡むテーマ部が何とも言えずにディープです。観客から思わず 「イヤー!」 といった声が掛かるんですが、マチコ先生だったら思わず 「いやあん♪」 とか言っちゃいそうな嫌な世界でありまして、若いギャルにはちょっとウケがよろしくないかも知れません。僕も基本的に、あまりにも泥臭い世界というのは得意ではなくて、泥臭いくらいならまだ、イカ臭いほうがいいかも?…とか思ってしまうんですが、何故かこの演奏は大丈夫でした。人間が持っている根源的な哀しみがダイレクトに伝わってくると言うか、特にバリトンの深い音色がバリ豚(とん)の溶岩石焼のような味わいを持っている迫ってくるんですが、いや、これは深いです。ちょっぴり不快に思えるほど深いです。

 ブルースの意味を改めて教えられたような気のするテーマ部に続いてバリトンサックスのソロになるんですが、これがまた、なかなかの出来だったりします。キーを押すカチャカチャという音も生々しく、臨場感満点だったりするんですが、途中からカークが絡んでくるのもちょっといい感じで、これ、地味に2本吹きとかやってるんですかね?トータルして3つくらいの管楽器の音がしているようにも思えるんですが、アドリブパートに入るとテナー1本で勝負しておりまして、で、ここでのフレージングはアレですな。わりとチャーリー・パーカーだったりしますよね。時おりフリーキーなトーンも聴かれるものの、彼のこういうオーソドックスなプレイというのはある意味貴重だと思うんですが、普通にやろうと思えば出来る人だったんですな。改めて彼の底力を思い知らされた気がします。終盤には鼻から息を吸って口から出す、循環呼吸による息継ぎ無しの超ロング・フレーズも聴かれたりして大いに盛り上がっておりますが、とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。いや、よかったです。

 2曲目、 「バイバイ・ブラックバード」 。私の青い鳥はクッククックなんですが、黒い鳥はバイバイなんですな。…という、日本とアメリカの文化の違いのようなものが分かる、そういうナンバーだったりするんですが、ブラックバードというのは確かスラングで黒人芸人のことを意味するのではなかったかと。スッカラカンになって夜逃げする様を歌った作品だと記憶しているんですが、もしかしたらぜんぜん違うかも知れません。当てになりませんからね、僕の記憶。こんなことなら子供の頃、キオークマンでも買っておくんだったとちょっぴり後悔しているんですが、あ、今でも売ってるんですか。となると別にそれほど欲しくもないんですが、電験3種に出てくるややこしい公式とか、口に出しでブツブツとつぶやいてみたところで、そう簡単に覚えられるとも思えませんからね。どうせなら睡眠学習のほうがラクでよさそうな気がするんですが、で、この曲はアレです。ジャズの世界ではもっぱら、マイルス・デイビスの十八番として知られております。 で、カークのこの演奏は丸っきりマイルス版のパロディとなっておりまして、冒頭の挨拶では声真似まで披露しております。 「エブリバディ・ガット・チェンジ」 とか、今にもマイルスが言いそうな台詞ですよね。 で、ピアノとベースによるシンプルな伴奏をバックに吹かれるミュート・トランペットは、まさしくマイルスそのものでありまして、ライブでウケを取る余興としては最高のパフォーマンスであると言えるでしょう。芸達者ですよね。芸者の世界でもゲイの世界でも十分に生きていけそうなんですが、続いて登場するテナーがちょっぴりコルトレーン風だったりするところも笑えますな。とか思ってたら、ここでフェードアウトして終わってしまったんですが、いや、何とも適当な作りのアルバムでありますな。

 ということで、次。 「マルチホーン・バリエーションズ」 。 カークのマルチ管楽器吹きのパフォーマンスが披露されることになるんですが、曲そのものは彼がライブでよくやってるナントカというナンバーでありまして、部分的にちょっぴり 「エリーゼのために」 だったりするヤツです。そのテクニックはまさに超人的だと思うんですが、ただこの曲は他のライブ盤でも頻繁に耳にするので“今さら感” があるというのも正直なところかと。今さらジローだよね。…と、冠二郎も言っておりますが、中盤、終わったと思わせておいて、しばらくスロー・テンポで粘ったりするところは、かなりねちっこくて悪くありません。このパターンは他のライブ盤ではあまり無かったような気がします。その後はおなじみのニューオリンズ風の展開になって、で、最後がちょっぴり尻切れトンボな感じになっているのはあまりよくないんですが、続いては 「アンアイデンティファイド・テナー・セレクション」 。 未確認テナー集ということになろうかと思うんですが、かなり長めのお喋りパートも含めて、演奏時間は2分06秒。 ビ・バップっぽいかなりオーソドックスな演奏が聴けるんですが、途中でフェイドアウトして終わってしまって、いかんせん、あまりにも短すぎ。これではおちおち “イカせん” を食べている暇もないんですが、海老せんとイカせんとタコせん。この中で僕はイカせんがいちばん好きです。ほとんど磯の味がしなかったりするんですが、僕は基本的に海産物というのがあまり好きではないですからね。イカせんでも、なるだけイカの含有量が少ない、なるだけイカ臭くないものがタイプなんですが、それにしてもこのあたり、あまりにも寄せ集め感が強すぎて、ちょっといけません。

 次。 「ユー・ディッド・イット・ユー・ディッド・イット」 。 これはいけません。恐らく鼻でフルートを吹きつつ、口で歌を歌うという、どういう大道芸を披露しているのだと思うんですが、こういう汚らしい演奏を人様に聴かせてはいけません。無論、こういう汚らしい姿をライブで人様にお見せするというのは、もってのほかです。ジャズって、ぜんぜんよく分からないんだけど、ジャズ・ライブってちょっとお洒落っぽいしー。彼女を誘って、いいムードになったところで口説いてみたりするぅ? そういう下心を抱えてカークのライブにやって来た人がいた場合、ここですべてが台なしになってしまうんですが、いや、もうちょっとよく勉強して人選に注意を払うべきでしたな。バックで聞こえるピアノはさほど悪くないだけに、カークの傍若無人ぶりにはちょっぴり殺意のようなものさえ覚えてしまうんですが、早まってはいけません。ローランド・カーク、1977年没。老い先の短い人生なので、ここはひとつ大目に見てあげてください。1970年代半ばということは、既に脳溢血の後遺症で半身付随になっていることも考えられます。阪神ファンの僕としても、さすがに半身付随の人を苛めるのは本意ではありませんので、ま、これもひとつの表現方法であると、前向きに捉えることにしようかと思うんですが、とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 6曲目、 「ニュー・オーリンズ・ファンタジー」 。生意気に2部編成になっておりますが、パート1の 「トラディショナル・ニュー・オーリンズ・ピース」 は、始まったと思ったらすぐに終わってしまう不甲斐のないナンバーで、ほとんど意味無し。パート2の 「ザ・ブラック・アンド・クレイジー・ブルース」 のほうはアレです。かの名盤 『溢れ出る涙』 でも演奏されていたナンバーです。日本語ライナーで岡崎正通クンは、そっちよりもこっちのほうがいい。…みたいなことを書いておりますが、それは親の欲目というか、岡八郎の奥目というか、贔屓目に見てもやはりあっちのほうの出来がいいような気もするんですが、かといってこっちのほうがとてつもなく悪いというわけでもないんですけどね。可もなく不可もなく、中華料理のコースでいうとフカのヒレは出てこない替わりに、蚊の目玉も出てこない。…みたいな。コウモリのウンコから分離するんだそうで、非常に貴重で高価な食材だそうですが、個人的にはそんなもん、ぜんぜん食べたくないですからね。普通にギョーザとかシューマイとか春雨とか、そういうコースのほうがいいです。 ブラックではあるが、クレイジーではないブルース。そういう世界が表現されているんですが、カークの他にバリトン・サックスも入っているような気がします。パーソネルを見るとケニー・ロジャースは1曲目と7曲目に参加していることになっているんですが、おそらく6曲目の間違いなのではなかろうかと。ま、人間、誰にも間違いはありますからね。ヘンな格好で寝ていて、朝起きたらめっちゃ首が痛かったりするとか。それは間違いではなくて、寝違えですか。よく似ているので、間違えてしまいました。 で、テーマ部ではわりと低い音の楽器を吹いてたっぽいカークは、ソロ・パートではストリッチと思しき楽器を用いているんですが、敢えてマルチプレイに走ったりしないところに真剣味が感じられて、いいことです。終盤にはちょっぴりバリトンも絡んで、循環呼吸もばっちり決まって大いに盛り上がって、続いてピアノのブルージーなソロがフィーチャーされて、でもってテーマに戻って、おしまい。 こうして聴いてみるとぜんぜん悪くなかったんですが、ま、聴いたことのある曲の場合、どうしてもライブだと “今さら感” が出ちゃいますからね。余計な予断さえ持たなければもっと素直に聴くことが出来たのではないかと思うんですが、ということで、次。

  「ナイト・トレイン」 。 カークにしてはちょっと珍しい選曲ではないかと思うんですが、バリサクを加えた2管編成による、非常に素直な演奏が繰り広げられております。あ、ケニー・ロジャース、ちゃんと7曲目にも参加しているんですな。この人のワイルドな吹きっぷりが、他のカークのアルバムにはない新しい息吹を吹き込んでいるように思えるんですが、ここでもソロの1番手として見事なブロウを披露しております。ナイス・ブロウ・ジョブ♪ 中盤、カークのマルチ・ソロも絡んで、クインテット編成ながらコレクティブ・インプロビゼーション的な展開もほんのちょっとだけあったりして、でもって、続くカークのソロで吹かれている楽器はテナーでありましょうか? 途中からバリサクが絡んで来たりして、非常にいい感じで盛り上がっているんですが、…とか思っていたら、何だか唐突に終わってしまって、なんというか、ま、別にいいんですけど。 ということで、次。 「ミスターP.C.」 。これまたちょっと意外な選曲ですな。コルトレーンがミスターP.Cこと、ベーシストのポール・チェンバースに捧げたナンバーでありまして、何かめっちゃパソコンが得意そうな感じでいいですよね、ミスターP.C。ミスターPCBだと発ガン性がありそうなんですけど。トレーンにしてはわりとシンプルなブルース・ナンバーで、ノリがいいのでわりとよくジャム・セッションとかでも取り上げられるんですが、カークはフルートを用いて急速調の演奏を展開しております。相変わらずこの人、黙ってこの楽器を吹くことが出来ないようで、怪しげな奇声に思わずまた殺意が芽生えかけたりもするんですが、今回は何とか我慢出来ないこともないギリギリの線で踏み止まっておりまして、で、お馴染みのテーマは出てこなくて、最初からアドリブで突っ走っております。しかもベースとのデュオという異色の展開なんですが、途中からは楽器を捨ててスキャットに専念してたりもしております。フルートが無いと、意外と歌がうまかったりしませんか? で、途中からはもうひとりのオッサンがスキャットで絡んできて、その後、フルートが再登場して、よくやくお馴染みのテーマ・メロディがちょっとだけ出て、その後、しばらくフルートと声とのバトルのような展開になって、最後はまたしても唐突なエンディング。もう、何がなんだか。

 というとこでラストです。 「ア・ヴィジット・フロム・ザ・ブルース」 。 これはアレです。フルートによるスローでディープなブルースです。地味で分かりにくいんですが、トロンボーンも参加している模様で、カークは時おりボーカルのようなものも披露しております。 ギミックの要素は少なく、わりと真面目に物事に取り組もうとする姿勢が窺えます。いいことです。途中、ちょっと変な展開になりかけたりもするんですが、許容の範囲内です。許す心を持って受け入れましょう。最後まできちんと職務を真当したエンディングになっているところも好感度が高く、会場が温かい拍手に包まれたところで、このアルバムはおしまい♪ …と思わせておいて、最後、ラフなピアノの音色をバックにカークの肉声を流すところなど、何とも憎い演出でありますな。何を言ってるのか、英語のヒアリング能力が皆無で、まったく分からないのがちょっと残念なところではあるんですが、とまあそんなことで、今日のところは以上です。

【総合評価】

 寄せ集めですな。それ以外の何物でもありません。 が、最初と最後にスローブルースを持ってくるなど、妙にコンセプトがきっちりしているようなところもあったりして、ブルースを無心に吹くカークの生身の姿を捉えた秀作であると、贔屓目な評価を下すことも不可能ではないのではなかろうかと。普通のアルバムだと思うと不審な点が目立ってしまうんですが、ドキュメンタリーだと思えば、なかなかの作品と言えるのではないでしょうか。いや、多分。


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