BEFORE DAWN (VERVE)

YUSEF LATEEF (1957/4/16)

BEFORE DAWN


【パーソネル】

CURTIS FULLER (tb) YUSEF LATEEF (ts,fl,orghul,per) HUGH LAWSON (p,celeste)
ERNIE FARROW (b) LOUIS HAYES (ds)

【収録曲】

(01-03) PASSION / LOVE IS ETERNAL / PIKE'S PEAK
(04-06) OPEN STRINGS / BEFORE DAWN / TWENTY-FIVE MINUTES BLUES
(07-08) CHANG,CHANG,CHANG / CONSTELLATION

【解説】 (2008年05月04日更新)

 先日、ラジオを聞いてたら、茨城県の “つくばみらい市” というところから中継をしておりました。僕の知らないうちにいつの間やら、こっそりとこんな市が誕生していたんですな。つくばと言えば科学万博、もしくは研究学園なんてのもあって、とっても未来的だよねっ♪…というので付けられた名前なのではないかと思うんですが、ちょっと、どうかという気がしないでもありません。ま、余所者の僕がとやかく言う筋合いはないんですが、平仮名ばかり6文字も続く市の名前というのは、ちょっと違和感があります。どうせなら “つのだ☆ひろ” みたいに途中に星印を入れて “つくば☆みらい市” にしたほうがインパクトもあるし、未来っぽくていいのではないかと思うんですが、よくよく調べてみるとこの地名、ただ単に未来っぽいからとか、そういう理由で付けられたものではないみたいですね。水海道 (みつかいどう) と、谷和原 (やわら) と、伊奈 (いな) 。その3つの地名から頭文字をとって “みらい平” と名付けられた地区が前からあったので、そちらの意味も兼ねているようなんですが、もっともミライ連合から水海道だけが離反して常総市のほうに行っちゃったので、実態としては “つくばらい市” という形になっちゃってるみたいですけど。

 平成の市町村合併では、かなり多くの新しい市や町の名前が誕生したんですが、中にはセンスが疑われるようなものもあったりします。よく槍玉に挙げられるのが山梨県の南アルプス市なんですが、個人的にはこれ、決して悪くないとは思うんですけど。とにかくまあ、南アルプスの麓あたりにあるんやろな。…ということがすぐ分かるし、イメージ的にも天然水が美味しそうな感じがして、いいと思います。 かと言って、長野県の駒ヶ根市と飯島町と中川村が合併して、じゃ、うちは中央アルプス市にしよう♪…とか言い出したのはちょっとどうかと思うんですが、二番煎じではインパクトが弱くなっちゃいますからね。どうせなら真ん中に星印を入れて、 “中央アルプ☆ス市” にしたほうが…、って、いやそれも二番煎じである上に、星を入れる場所が間違ってるような気もするんですけど。結局、名前のことで揉めて、合併の話自体が白紙に戻っちゃったようなんですが、愛知県の南セントレア市も同じような理由でポシャってしまって、何よりだと思います。 で、一方、誰も反対しなかったんかい?…と思わずにはいられないのが静岡県の伊豆の国市なんですが、いくら先に伊豆市を取れれちゃったという理由があるにせよ、 “国” を持ち出してきたのはあまりにも分不相応だったと思います。どうせなら “伊豆の踊り子市” とかのほうがよかったと思うんですが、場所的に踊り子とはあまり関係が無さそうなので、思いきり反対されそうではあるんですけど。

 いっぽう、地元の桑名市はどうなのかと言うと、近隣の長島町や多度町と合併して、新しい桑名市になったんですが、もともと長島や多度も桑名郡という地名だったので、あまり名前で揉めることは無かったように思います。最終候補として、同じ “くわな” という読み方でも “久波奈市” もしくは “九華 (くはな) 市” とする案、あるいは “くわな市” と平仮名にするか、それともぜんぜん別の “川津(かわづ)市” とか “川美(かわび)市” とかにしちゃう?…という意見もあったようですが、そんな変な漢字やカエルみたいな名前にならなくて、本当によかったと思います。 とまあ、名前だけに関して言えば円満な合併だったんですが、ドコとドコがくっつくか?…という問題に関しては、ちょっと悶着がありました。桑名郡には長島町と多度町の他にもうひとつ、木曽岬町というのもあったんですが、ここがですね、 「桑名と一緒になるの、やだ!」 とゴネて、合併協議会から離脱しちゃったんですよね。ここは長島とは木曽川を挟んだ対岸に位置していて、愛知県側とは陸続きになってるものの、桑名とは2本の橋でしか繋がっていないという事情もあって、弥富市との越県合併を企んでいるようなんですが、ま、ここにはゴールデンランドというレトロな温泉施設があるくらいで、さほどソソられるものないので、愛知県に取られてもさほど悔しくはないんですけど。旧桑名市民としては、とりあえず長島スパーランドが貰えたから、ラッキー♪…という感じですな。一方、旧多度町のほうはというと、無駄に土地が広いだけで大して人も住んでいなくて、人口密度が著しく低下するという点はちょっと今ひとつなんですが、多度山、多度豆、多度大社の3点セットを貰えたところは大きいです。富士通の関連会社の工場とかもあるので、税収の増加も期待できます。 “東建多度カントリークラブ・名古屋” というゴルフ場もあるので、石川遼クンだって来ちゃいます。最後に付いてる “・名古屋” は、余計やろ?…という気はするんですが、ま、名古屋に近いというのは桑名人にとっての唯一の拠り所だったりするので、やむを得ないところではあるんですけど。

 で、一方、近隣の地域に目を転じてみると、合併話で揉めたところがいくつかあったりするんですが、まずは愛西 (あいさい) 。いや、別に揉めたということではないんですが、そんな愛妻弁当みたいな名前で、ちょっと恥ずかしくないか?…と思わずにはいられません。 で、続いて北名古屋市。いや、別に揉めたということではないんですが、自ら名古屋のオマケであることを認めるような名前を名乗るのは、どうか?…という気がします。 ま、 「北名古屋市って、どこ?」 と聞かれた場合、 「んーと、名古屋の北のほう♪」 と答えておけば、誰もが心の底から納得してくれるという利点はあるんですが、で、揉めたところというと、大垣市なんかそうですな。最初のうち、1市19町村で行っちゃおう!…などという無謀なプランを提唱していたんですが、それが、大垣市以下、神戸町、輪之内町、安八町、墨俣町、養老町、上石津町、垂井町、池田町、更には関ヶ原も含めて、1市9町で合併して、人口30万人の中核都市を目指そう!…という方向に転換して、で、そこから1つ抜け、2つ抜けしているうちに、ふと気が付けば、残ってるのは大垣と墨俣と上石津だけやん!…という結果になってしまったんですよね。人口は16万そこそにしか増えなかったし、合併したところが2箇所とも飛び地になっちゃうという、何とも不恰好な姿を近隣に曝す破目になってしまいましたが、聞いたところによると安八町と墨俣町とは仲が悪いらしく、安八が合併協議会から抜けた事に対する嫌がらせの為に、墨俣は敢えて大垣市と合併する道を選んだんだとか。いや、嘘か本当か知りませんが、隣接する町同士の仲が悪いという話は他でもよく聞きますからね。岐阜だと多治見と土岐との仲が険悪であるように見受けられます。東海北陸道の “土岐南イインターチェンジ(仮称)” という名前も、多治見側の反対によって “土岐南多治見インターチェンジ” などという長ったらしい名前になってしまったんですが、余所者である僕にしてみれば無駄に長くて迷惑なだけなので、そういう諍いはやめて欲しいと思うんですけどね。

 で、一方、名前で揉めたのが海津郡の海津市、南濃町、平田町の合併で誕生することになった新しい市なんですが、平田の “ひら” 、南濃の “な” 、海津の “み” 、3つあわせて、 “ひらなみ市" っ! そういう名前に正式決定したわけなんですが、これが発表されるや否や、住民や宗猛や宣銅烈から猛烈な反対が。いや、 “猛烈” という字を見ていたら何となく宗兄弟の弟と元中日ドラゴンズのピッチャーの名前が浮かんできたんですが、自分達の住む町が変な名前になって迷惑を蒙るのは地元住民ですからね。反対したくなる気持ちはよく分かります。そもそも、海津 (かいづ) を “み” にしたところからして、かなり無理があると思うんですが、平田の “ひら” 、南濃の “な” 、海津の “か” 、3つあわせて、 “ひらなか市" っ!…というのなら、まだ分からんでもないんですが、 “ひらなみ市” では今ひとつ語呂もよくありません。最初に出てきた “南アルプス市” に “さいたま市” と “四国中央市” を合わせて、 日本三大珍市名と呼ぶそうなんですが、こんなの、ぜんぜんマシですよね。ちなみに四国中央市の場合、公募で最後まで残った候補には “ひうち市” とか “うま市” なんてのもあったそうですが、余所者の僕からしてみると、むしろそんな名前にならなくてよかったという気もします。ま、もともと “宇摩 (うま) 郡” という名前があったので、地元住民はそちらのほうが愛着を持てるのかも知れませんけど。 で、 “ひらなみ市” は結局のところ “海津市” という、極めてノーマルな名称に落ち着くことになったんですが、もともと公募では “海津市” という意見が圧倒的に多かったみたいですし。その他にはどんな候補があったのかと思って調べてみたら、ちょうどいいデータがありました。 これ です。

 いきなり “あいさつ市” ? 海津町民×1名にその真意を問い質したいところでありますが、 そのちょっと下のところにある “歩夢 (あゆむ) ” というのは悪くないと思うんですけどね。是非とも自分の子供や孫の名前として活用してやって下さい。 “揖川 (いかわ) ” “揖木長 (いきな) ” “斐長木 (いながき) ” “揖長木 (いながき) ” などといった案が出されるのは、この辺りが揖斐川、長良川、木曽川の流域に位置している関係ではないかと思うんですが、揖斐川と書いて “いびがわ” なので、 “斐長木” では “びながぎ” としか読めないような気もするんですけど。 よく分からんのが平田町民×1名から出された “NHK市” という提案なんですが、何の意味があるんでしょうか? 一瞬、 “N” が長良川、 “K” が木曽川なのかとも思ったんですが、となると、真ん中の “H” がよく分かりません。揖斐川のことを “ひびがわ” だと思っているのか、あるいは、木曽川と長良川の河川敷でエッチしたい♪…という願望なのか。そう言えば、ふりがなが “えぬえいちけい” ではなく、 “えぬえっちけー” となってますよね。長良でエッチしよけー? そういう略語なのかも知れません。 “おちょぼ市” あるいは “お千代保市” というのは平田町にある千代保稲荷神社、通称 “おちょぼさん” から取ったんだと思いますが、なかなかラブリーで悪くないと思いますね。 が、僕が大いに気に入ってしまったのは、その2つほど下にある“カイーズ市” でありまして、こうなってくるともう、公募を舐めているとしか思えませんな。

 と、ここまでは1人から2人、多くても4人くらいまでしか支持されそうにもない少数意見なんですが、やはり “海津 (かいづ) ” という意見が511人と、圧倒的多数でありますな。微妙にふりがなを間違えてしまった “海津 (かいず) ” というバージョンや、あるいは最初から平仮名のものも含めると800名を超える大勢力になるんですが、 “海津サンリバー” などという、どうしても3つの川を織り込みたいという意見も、少数ながら根強いものがあるようです。 “海津南濃平田市” というのはあまりにもそのまんまだし、 “海津南濃市” では海津が抜けているし、 “海津平田市” では南濃が抜けているし、そういう事情を考慮すると “海津南平” や “海津平南” 、更に略して “海南平” や “海南田” ということになってくるんですが、 “海” で始まる名前にはどうにも似たような発想のものが多過ぎて、見ていて途中で飽きてしまったので、先に進みます。 “合併市” 。いや、これはちょっと意表をつかれましたな。合併で新しく誕生する市の名前は、合併市っ! いや、言ってることは決して間違いではないと思うんですけど。 続いて “きらら市” 。おこめの名前としてはいいかも知れません。 “玄関口市” 。ま、確かに三重県方面から見ると岐阜の玄関口ということになるんですけど。 “コラボレー市” 。カッコいい名前だとは思うんですが、意味不明です。 “こん平田 (ひらた) ” 。お千代保稲荷のマスコットキャラ、キツネの “こん平田” に因んだものだと思うんですが、残念ながら読み方としてはその2つ下にある “コン平田 (ぺいた) ” のほうが正解です。読み方としてはそれで正しいし、実際、平田公園のグリーンドームでは毎月第1・第3日曜日に “こん平田市 (こんぺいたいち) ” というのも開かれていたんですが、だからといって新しい市の名前を “コン平田市” にするというのは、ちょっとどうかと思います。 “金米統 (こんぺいとう) ” と微妙にアレンジしたところで、それで許されるというものでもありません。  “三愛 (さんあい) ” 。それはウチの会社の名前やがな。 “三川合流” あるいは “三川分流” 。どっちやねん!? “寿市(すし)” 。舐めてんのか? “ソフト市” 。もはやコメントする気にもなれません。

 以下、だんだん面倒になって来たので、目に付く名前を列記するにとどめますが、たんぽぽ市チューリップ市づうた市デレーケ市。 あ、これは木曽三川の分流工事に功績のあったオランダ人技師、ヨハネス・デ・レーケに因んだものですな。…などと、いちいちい注釈を付けなければならない名前を付けられると僕の手間が増えるので、やめて欲しいと思います。 以下、トマト市トミオ市トライ海津市ながいき市。 あ、これはただ単に長生きしたいという願望が込められているだけでなく、長良・揖斐・木曽の3つの川の名前も織り込まれているわけですね。こういう発想をする人が海津町と平田町に各1人ずついたという事に、僕は一筋の光明を見た思いであります。 なの花市なばな市なまず市。 地域の特産が適切に詠み込まれていて、秀逸です。 ならづ市。 アメリカから “ならずもの国家” として認定して貰えそうで、国際的な広がりが感じられます。 のどか市。 確かにのどかなところです。 はりよ市。 そういう名前の魚が住んでます。 平田ゆきえ市。 昔、そういう名前の人が頑張って堤防を作ってくれました。ゆきえちゃんというギャルではなくて、単なるオッサンなんですけど。ちなみに平田町という地名は彼に因んで付けられたものです。 ひらなみ市。 ようやくここに問題となった名前が登場するんですが、応募者はたったの2人だったんですな。よくもまあ、これでごり押ししようとしましたね。 “平南海 (ひらなみ) ” と漢字で書いたバージョンのほうは16名ほどいたようですが、どうせ同じ漢字を使うのであれば “南海平” という並びにした案のほうがいいですよね。 “なみへい市” 。 悪くないと思います。 “20愛 (ふれあい) ” 。 無理矢理です。 “前川清” 。 世の中を完全に舐めてます。ちなみに “前川清市” で “まえかわきよし” と読ませようとしたらしいですけど。  “山川豊” 。 もはや洒落にもなってません。 で、五十音順の終盤は、いちばん最後の “和話輪 (わわわ) ” を除いて輪中がらみの作品が多いんですが、中では個人的に “輪中 (わぢゅう) ” というのがちょっとお気に入り。平仮名や片仮名の名前というのは他にもいくつかあるんですが、ふりがなに “” という字があるのは、おそらく全国でも初の試みではないですかね?…と思ったら、町名単位では東京の “三軒茶屋 (さんげんぢゃや) ” など、そういう例はいくらでもあるみたいですけど。あ、新潟の小千谷市も “おぢや” ぢゃん。 “おじやし” では “叔父やし” とかしか変換されないじゃん。半濁音の付く地名と言うのも北海道に行けばありそうだし、日本初を狙おうとするなら、あとは長音記号くらいしかないですかね? となるとやはり、カイーズ市? 目新しい地名で知名度がアップするのはいいんですが、変な地名が致命傷になることもあるし、地名というのもこれで、なかなか難しいものでありますなぁ。。。

 ということで、今日はユセフ・ラティーフです。変と言えば、この人の名前もちょっと変ですよね。アメリカ人離れしてます。恐らくイスラム名なんだと思いますが、どうせなら “下腿三頭筋内側頭挫傷” みたいな名前にしたほうがよかったような気もします。…って、それはアメリカ人離れでなく、ふくらはぎの肉離れですか。ちなみに、この人の本名がビル・エヴァンスだというのを知っていましたか?僕は先ほど、初めて知りました。ジャズ検定に出題される可能性があるので、覚えておいたほうがいいかも知れません。 で、このラティーフ君はですね、日本では不人気です。新しい市の名前風に言うと、フニンキー。 いや、片仮名にして長音を足してみたところで何がどうなるわけでもないんですが、ま、会社の名前なんかではけっこう有効だったりするんですけど。和江商事→ワコールとか。 ワコールのブラならともかく、和江商事のズロースでは、あまりソソられるものがないですもんね。ちなみに元の和江商事という名前の由来は、社長のコレが和江 (かずえ) ちゃんだったからとか、そういうことなのではないかと思います。公私混同もいいところですよね。いや、もしかしたらぜんぜん違う意味なのかも知れませんけど。 で、ラティーフ君がどうして日本では不人気なのかと言うと、ちょっと奇を衒ったところがあるからではないかと思うんですが、イスラム名を名乗っていることからもわかるように、東洋趣味の傾向が伺われます。ま、東洋趣味というのは盗用趣味に比べればまったく罪はないんですが、東洋人である僕からするとどうしても、趣味悪いなぁ。…という印象を受けてしまいます。 といいつつ、変なもの聴きたさの心境もあって、僕はけっこうこの人のCDを持っているんですが、個性があるというのは人様に迷惑をかけることがない限り、決して悪いことではないですからね。 とまあそんなことで今日は 『ビフォー・ドーン』 というアルバムを紹介したいと思うんですが、ラティーフのヴァーブ盤というのはちょっと珍しいような気がします。もしかするとバーブ佐竹のヴァーブ盤よりも貴重かも知れませんが、ヴァーブ盤なのにジャケットの趣味がいいというのも、ちょっと異色ですよね。プレスティッジとかにありがちなデザインなので、今までこれがヴァーブだとは気付かなかったんですが、で、これ、再度漫画悪くないです。いや、サイドマンが悪くないです。カーティス・フラーが入ってるところが悪くないです。それ以外は、ま、さほどよくもないかな?…という気もするんですが、ルイス・ヘイズヒュー・ローソンと、なかなか渋いところを押えております。からあげクンが美味しいですよね、ローソン。とまあそんなことで、では1曲目から聴いてみることにしましょう。

 「パッション」。 激情、情熱、情愛、情欲、ジョー山中。 あ、最後に関係ないのが混ざってしまいましたが、よかったですよね、 「人間の証明のテーマ」 。3オクターブの声の持ち主なんだそうですが、だとすればクリスタルキングの声の高いほうのオッチャンなら、12オクターブはいけますかね?もしかしたら低いほうはぜんぜん駄目だったりするのかも知れませんが、ちなみに “パッション” にはキリストの受難という意味もあったりします。パッションフルーツの語源はこちらのほうですよね。花の雌蘂が張り付けの十字架に、5本の雄蘂が打たれた釘に、花を取り巻く副花冠がイバラの冠に、10枚の花弁及び萼が一人消えた師弟に例えられ…と、 Wikipedia には漢字の書き取りテストに出されたら困るような単語が出ておりましたが、僕なんか “釘” ですらちょっと危ないですからね。 ラティーフ君がどの意図でこのタイトルを付けたのかは分かりませんが、イスラム教徒なのでキリストの線はないですかね? 実際に聴いてみたところ、さほど情熱や情愛は感じられず、どちらかというと受難の色合いの濃い作風でありましたが、いかにもこの人らしい、アジア味の鯵やな。…といった雰囲気のテーマが2管のユニゾンによって演奏されております。で、ソロ先発はラティーフのテナーでありますか。この人、どんな楽器でも無難にこなす小器用さを持っているんですが、一応、本職はテナー吹きであるものと思われ、で、ここでのプレイは意外にも普通で、かなりオーソドックスなものになっていたりします。1957年というと彼のキャリアの中ではかなり初期の段階で、変な個性をまだ確立しきれてないという事になるんですかね?ごく真っ当なロリンズ派のハード・バッパーやな。…といった感じで、素直に楽しめる出来となっております。続くカーティス・フラーのソロも普通によくて、途中、テナーがちょっかいを出して来たりするのはちょっと邪魔なんですが、でもって、ソロ3番手はヒュー・ローソンでありますか。僕はこの人についてあまり多くは知らず、よって、あまり多くは期待していなかったんですが、オークワの “めはり寿司” 程度にはいい味を出しておりまして、いや、三重県の南のほうに行くとあるんですけどね、オークワという名前のスーパー。めはり寿司というのは高菜の漬物で寿司飯をくるんであるだけの食べ物なので、どう考えてもあまり多くは期待が持てないんですが、これが意外と美味しかったりします。尾鷲のほうに仕事で行った帰りに、よくオークワで買って食べたものでありますが、ブルージーなシングル・トーンを中心としたソロはちょっぴりソニー・クラークを彷彿させるものがあって、シンプルながらも充実感を味わえるところが “めはり的” でありますな。 で、その後、 ts→ds→tb→ds→p→ds の4バースで大いに盛り上がって、でもって、アジアンなテーマに戻って、おしまい。曲はヘンでも演奏のほうは思いのほかマトモで、悪くない仕上がりのスタートでありました。

 2曲目、 「ラブ・イズ・エターナル」 。 「愛は永遠です。」 と、ラティーフ君はそのように言ってるわけですが、これは正直、ちょっぴり疑わしいものがあります。これがもし、 「長い距離を泳ぐのは遠泳です。」 ということであれば、僕は無条件に賛同するんですが、世の中で “愛” ほどうつろいやすいものはないですからね。その昔、 雅夢の 「愛はかげろう」 なんて歌もありましたが、愛はかげろう、ゲゲゲは鬼太郎、夫婦でドンピシャ、キダ・タロー。 で、これはアレです。陰鬱系のバラードなんですが、イントロで微妙にトロンボーンが絡んでくる以外、概ねテナーのワンホーン・カルテットであると思っていただければよく、コルトレーン、もしくはブッカー・アービンのスロー・バラードを想起させるソーキ蕎麦。…といった感じの仕上がりでありまして、ま、個人的に沖縄そばというのはさほど好きではないんですが、ま、最初の一口、二口くらいまでは、わりとイケるかな?…と思ったりもするんですけどね。アービンも同様に、出だしから1〜2分程度までなら、けっこういい感じで聴けるんですが、ここでのラティーフは大丈夫な状態のアービンが2分以降も持続する感じでありまして、けっこう胸にジーンときちゃいます。愛というのは永遠なんだと言われると、もしかしたらそうかも知れないという気もしてきたりして、が、さすがに途中で飽きてきて、この人の言ってる事に次第に疑念が生じ始めてくる頃になって、ちょうどいいタイミングでヒュー・ローソンのピアノ・ソロにスイッチします。前曲では微妙にソニー・クラークだった彼なんですが、今回はわりとバド・パウエルです。そこはかとない典雅さを感じさせる天下茶屋 (てんがちゃや) 。そんな感じの弾きっぷりでありまして、しかし何ですな。大阪の天下茶屋という地名も、たかが茶屋のくせして “天下” とは大きく出たものでありますな。三軒茶屋の謙虚さを見習って欲しいところでありますが、とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 で、続いては 「パイクズ・ピーク」 でありますか。ロッテの “パイの実” はとっても美味しいんですが、すぐバラバラになって “パイ屑 (くず) ” が出るのが難点ですよね。 で、この曲の場合、パイ屑のピークではなく、 “パイクのピーク” ということになろうかと思うんですが、デイブ・パイクのリーダー作にも同じような名前の奴がありましたよね。デイブ・パイクの場合、パイクというのは自分の苗字であるものと思われ、あのアルバムにそういう名前の曲、入ってたっけ?…と思って調べてみたら、そういうのはなくて、よってこのラティーフのオリジナルとは無関係であることが判明したんですが、 “pike” というのは槍 (やり) 、矛 (ほこ) 、あるいはカワカマス (かわかます) といった意味があるんですね。あ、最後のはカタカナなので、ふり仮名が無くても大丈夫だったかも知れませんが、川にいるカマス。恐らくそういう種類の魚類なのではないかと思われます。カマスというのもわりと尖った形状のサカナなんですが、 “peak” となるとこれは恐らく、 「槍の先っちょ」 といった意味になるのではないかと思うんですが、さほど鋭利な感じではなく、どちらかというと、のほほんとした雰囲気の作品だったりするんですけど。 2管のハモりで演奏されるテーマは、純正ビ・バップ風の仕上がりなんですが、ソロ先発のラティーフの吹きっぷりは、かなりロリンズが入っておりますな。どうやら彼にとってのロリちゃんは、なんてったってアイドル♪…といった存在であるようなんですが、ちなみに僕にとってのアイドルはというと、なんてったって哲太♪…ということになるんですが、カッコよかったですよね、杉本哲太。横浜銀蠅系のロックバンド、 紅麗威甦 (グリース)でデビューしたんですよね。ヤンキーというのもアレはアレで、難しい漢字を読み書きしなければならないので、なかなか大変な商売だと思うんですが、 “” などという見慣れない字を書けるなら、立派に更生する日も近いものと思われます。 “更生” を、一文字で書けば、紅麗威甦の “甦” 。そうやって覚えておけばもう安泰です。ま、 “麗” という字もかなりの難関だったりするんですけど。 で、続いてはカーティス・フラーのソロなんですが、この人はあれです。ゾク風に表記しようとするなら、寡阿手椅子腐裸悪ということになろうかと思うんですが、寡黙で、裸がちょっと腐っていて、悪くて、椅子が好き。そういうキャラであるように思われます。 “阿” と “手” はどこにいったのかというと、特に思いつくものがなかったので、とりあえず見なかったことにしたんですが、で、演奏を聴いてみると、なるほど。確かに、いかにも椅子が好きそうな人柄が伝わってきますよね。いや、ただ寡阿手椅子というだけで、椅子が好きとも嫌いとも、その件に関してはどこにも触れられていないんですけど。 とまあ、そんなフラーのソロがあって、続いてピアノのソロがあって、地味にベースのソロとかもあって、 ts→ds→tb→ds→p→ds の4バースがあって、テーマに戻って、おしまい。普通にいい、そんな1曲なのでありました。

 …と、ここまでラティーフが吹いてるのはテナーばかりで、どこが “その他の楽器編” やねん?…と思われえた人もいるかも知れませんが、でも大丈夫。次の 「オープン・ストリングス」 ではですね、彼はちゃんとフルートを吹いております。フルートというのは決してマイナーが楽器ではなく、音楽界全体での地位を 「巨人の星」 に例えるなら、花形とまではいかないまでも、左門豊作。それくらいの知名度があるわけなんですが、ことジャズに限っていうと、この楽器をメインで吹いているのはハービー・マン他数名といったところで、どうしても “その他の楽器” という扱いになってしまいます。 で、わざわざこの綺麗なトーンの楽器を使うのであれば、出来るだけ綺麗なメロディの楽曲を吹いて欲しいところなんですが、冒頭で聴かれるコップを箸で叩いているような音は、こりゃ、チェレスタでありますな。ピアノの先祖と言われるこの楽器は、ま、簡単に言うと鍵盤付きの鉄琴のようなものではないかと思うんですが、その澄んだ音色に地味に濁ったトーンのトロンボーンが絡んできて、で、そこにまたクリアな音のフルートが加わって、そのコントラストが実に対照的であるなと思うんですが、曲のほうもミステリアスな感じがあって、悪くないです。少なくともビオジアスな感じがするよりはマシだと思うんですが、明るい茶の間の笑い声〜、ビオジアス、ビオジアス♪…って、あまりフルートに合うような曲ではないですからね。あ、ビオジアスではなくて、ビオヂアスが正解なんですか。痔の薬でもないのに “ぢ” という字が出てくるところが斬新なんですが、ゆったりとしたバラード風のパートに続いて、テンポの速い第2テーマのようなものが出てくるという構成も、よく練られていて秀逸です。 で、ソロ先発はラティーフですか。ジャズの世界では敢えてフルートを濁った音で吹きたがる傾向にあるんですが、ここでの彼はごく普通に澄んだトーンで明鏡止水の心境を吐露しておりまして、大トロ好きのキム・ジョンイルもこれなら満足出来るのではないでしょうか。 以下、フラーとローソンが各自、持ち味を十二分に発揮したソロを披露して、続いてベースとドラムスの4バースという、盛り上がらないんだか、派手なんだか、よく分からないパートがあったりして、セカンドのほうのテーマに戻って、おしまい。なかなかよく出来た1曲でありました。

 次。アルバム・タイトル曲の 「ビフォー・ドーン」 。名古屋・清水口には “美宝堂” という今ひとつ趣味のよろしくない時計宝飾店があるんですが、この 「ビフォー・ドーン」 というのはそれとはあまり関係がなく、 「夜明け前」 。ま、そういう事なのではないかと思われます。これぞ、その他の楽器編の極みという感じで、ラティーフはアルグールなどという得たいの知れないものを吹くなり、弾くなり、叩くなりしているんですが、今井正弘クンという人の書いた日本語ライナーによると、どうやらエジプトの楽器らしく、葦管を使った循環奏法を使って吹く笛なんだそうです。今ひとつ日本語として分かりにくいものがあるんですが、要は これ なんですな。もの凄く原始的な縦笛っぽい感じです。 で、これがまた、何とも不気味な鳴り方をする代物だったりするんですが、出だしの部分はローランド・カークの1人ハモりを彷彿させるものがあります。 ま、珍しい楽器を使ってみたいという気持ちは分からんでもないんですが、使ってみるだけ無駄だったような気がしないでもなくて、本人もその事に吹いてる途中で気が付いたのか、テーマに入るとすぐ普通のテナーに戻したりしております。結果、バックのリズムが押しなべてエジプトではあるものの、ラティーフ自身のプレイはかなりまともなものとなっておりまして、続くフラーもごく普通に頑張ってます。後ろで鳴っている妖しい楽器は、ベーシストのアーニー・ファーロウのところに “rabab” というクレジットがあるので、恐らくそれではないかと思うんですが、調べてみたら、えーと、 こいつ ですか。ラバーバのほうなのか、あるいはラバーブなのか定かではないんですが、プロとして19,800円ではあまりにもセコいので、最低でも33,000円のラバーブなのではなかという気がします。 管楽器のソロの後、とりあえずコイツが前面に出てくるパートがあって、でもって、テーマに戻って、おしまい。個人趣味に走り過ぎた嫌いはあるんですが、ま、1曲くらいはこういうのがあっても、諦めの付く範囲内ではなかろうかと。

 6曲目、 「トゥエンティ・ファイブ・ミニッツ・ブルース」 。タイトルこそ 「25分ブルース」 なんですが、大丈夫です。5分ちょっとで終わります。水前寺清子の 「365歩のマーチ」 も、別に365日歌い続けるわけではないですからね。ま、 「365日のマーチ」 ではないのでそれも当然なんですが、チャーリー・パーカーのサヴォイ・セッションとかにありそうなシンプルなピアノのイントロに続いて、バップ風のブルースが演奏されるという、ま、そんな感じの作品です。 ソロ先発はラティーフのテナーなんですが、曲調だけでなく、アドリブ・フレーズそのものがえらくパーカー・ライクだったりするところが笑えるんですが、こういう一面も持ち合わせていたんですな。ちょっと意外です。ムール貝の正体がムラサキイガイだというのと同じくらい、意外です。 で、ソロ2番手はフラーです。この人はですね、いつもの通りです。続くヒュー・ローソンはパウエル風…というか、そこまで鬼気迫るような危機感はないので、バリー・ハリス的と言ったほうが的確かも知れませんが、とにかくまあ、正統派のビ・バップです。 で、その後、ベースのソロで大いに盛り上がったところで、テーマに戻って、おしまい。 次、 「チャン・チャン・チャン」 。最初のチャンチャンが鮭のチャンチャン焼きのチャンチャンで、後ろのチャンがアグネス・チャンのチャン。恐らくそういうことではないかと思うんですが、いや、もしかしたら最初のチャンがアグネス・チャンのチャンで、後ろのチャンチャンが鮭のチャンチャン焼きのチャンチャンなのかもしれませんけど。あるいは最初から最後までアグネス・チャンのチャンであるという可能性も無いとは言い切れないんですが、この曲、出だしがまるっとパーカーのナントカという曲そのものなので、パクリなのかも知れません。 …と思っていたら、途中からはちゃんと、チャンチャン風のオリジナルな旋律が出てきたので、あるいはパーカーに対するオマージュということなのかも知れませんが、そういえばパーカーの未亡人はチャンという名前ですもんね。アグネス・チャンではなく、あるいはチャン・パーカーかも知れないという可能性も出てきたんですが、賑やかなラテン風のリズムに乗った、シンプルながらも活気に溢れた脚気持ち。…といった演奏に仕上がっておりまして、いや、下肢がしびれたり、心臓機能が低下したりして、あまり活気に溢れているとも思えないんですけどね、脚気持ち。 アドリブ・パートはラティーフ、フラー、ローソンの順で、各自が十二分に持ち味を発揮した演奏を披露したところで、テーマに戻って、おしまい。ビ・バップは得てして尻切れトンボな終わり方をすることが多いんですが、ここではエンディングにもなかなか工夫が凝らされていて、とまあそんなことで、残すところあと1曲でありますか。

 アルバムの最後を飾る 「コンステレーション」 は、紛うことなくパーカーのオリジナルです。彼にしてはちょっと意外な選曲にも思えるんですが、ルーツがパーカーで、アイドルがロリンズ。そういう素性が浮き彫りになりつつあるような気がします。ここでの彼は楽器こそテナーなれど、パーカーの真髄に迫るストレートなプレイを展開しておりまして、で、以下、フラー、ローソンとソロが続いて、 ts→ds→tb→ds→p→ds という、いつもの順番の4バースがあって、でもって、テーマに戻って、おしまい。 ということで、今日のところは以上です。

【総合評価】

 全体的にラティーフらしからぬオーソドックスな出来なので、マニアの人にはちょっと物足りないかも知れませんが、一般人なら十分に楽しめます。 ヘンな東洋趣味がイヤ!…と、ラティーフのことを毛嫌いしていた人も、毛がないところがイヤ!…と毛嫌いしていた人も、騙されたと思って一度聴いてみて欲しいんですが、ジャケット写真のラティーフ君、帽子を被っているので、ハゲてるのかどうかもよく分からないしー。 共演のカーティス・フラーは、ま、いてもいなくても、どっちでもいいかな。…という気がするほど、存在感があまり無かったりするんですが、期待度の薄かったピアノのヒュー・ローソンが全編に渡って素晴らしいプレイを披露しておりますので、そんなことでまあ、けっこうお薦め♪…でっす。


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