RAMBLIN’ (FRESH SOUND)

JACK WILSON (1966)

RAMBLIN'


【パーソネル】

ROY AYERS (vib) JACK WILSON (p)
MONK MONTGOMERY (b) WARNER BARLOW (ds)

【収録曲】

RAMBLIN' / STOLEN MOMENTS / KILO / IMPRESSIONS
THE SANDPIPER , Part.1 Part.2 Part.3 / THE SIDEWINDER / PENSATIVA

【解説】

 実録、 “ザ・手術” 。 えーと、今回は2006年12月27日に行なわれたサバ君左下腿骨骨折に伴う接合手術の模様をお届けしたいと思います。 ほぉ、なるほど。僕が折った脚の骨は “下腿骨 (かたいこつ) ” という名前の部位だったんですな。初めて知りました。 太股のところの骨が大腿骨で、膝から下の部分が下腿骨になるわけですな。下腿骨。何だかこう、いかにも硬い骨 (こつ) やんっ!…という気概が感じられるネーミングですよね。 軟弱な軟骨野郎とはワケが違って、男気のある大変に素晴らしい骨であるわけなんですが、ただ硬いだけに柔軟性には乏しく、強い力が加わるとポキっと折れちゃうのが難点であるようです。 で、この下腿骨、もう少し詳しく見ると脛骨と腓骨の2つの部位に分けることが出来るんですが、頭の中に骨付きチキンの唐揚げを思い浮かべてみてください。骨付きチキンの唐揚げを食べると最後に骨が残ると思うんですが、その骨というのは太い骨と細い骨が平行に並んでいて、その2本が上と下で引っ付いたような形をしていますよね? 下腿骨というのもあれと同じで、太いほうが脛骨 (けいこつ) 、細いほうが腓骨 (ひこつ) ということになります。 脛骨というのはその名のとおり、脛 (すね) のところにある骨です。もう少し詳しく言うと、脛毛が生えているあたりにある骨のことなんですが、いわゆる “むこうずね” に当たるのがこの脛骨ということになりましょうか。俗に “弁慶の泣き所” と言われ、ちょっと机の角でぶつけたりしただけでも泣けてくるほど痛かったりするんですが、そこの骨がスキーでコケたはずみでポッキリと折れました。 わー、考えただけでもめっちゃ痛そうやんっ!  とまあそんなことで、サバ君の左脚はただちに接合手術が必要ということになったんですが、何でも骨の折れているところに金属のプレートを入れて、そいつをボルトで骨に固定して、後はまあ、人事を尽くして天命を待つ。…と、そのような術が施される模様なんですけどね。 わー、そんなん、考えただけでもめっちゃ嫌やんっ! ちなみに脛骨クンとペアになっている腓骨ちゃんのほうも膝に近いところに “ひび” が入っているそうですが、こちらはギプスで固定してやれば何とかなるというお見立てでありました。

 ということで、いよいよ手術の当日になってしまいましたが、えーと、まず最初にパンツを脱がされたんでしたかねー? 脚の手術だからパンツは関係なさそうなものなんですが、何でも腰椎麻酔をするのにパンツが邪魔になるんだそうで、 “T字帯” とかいうガーゼで出来たフンドシのようなものに替えさせられたんですよね。これがまた何とも締まりがなくて下半身がスースーして、心もとないことこの上なくて、こんなん、貞操帯の替わりにならへんやんっ!…と思わずにはいられませんでしたが、ま、元来そういう目的で作られたものではないので、それは仕方がないとして。 で、あらかじめ知らされたスケジュールによると、その後、点滴、筋肉注射と続いて、手術室に移動してから腰椎麻酔ということになるようなんですが、いやあ、何だか痛くて辛くて、めっちゃ嫌なものばかりが続くんですなぁ。。。 世の中には “禍福はあざなえる縄の如し” という諺があるように、嫌なこと、辛いことがあったらその後には必ず嬉しいこと、楽しいことが待っているというシステムになっている筈ですよね。だから例えば、点滴、筋肉注射の後に “ハゼドンのサイン会♪” みたいな楽しいイベントを組んで貰えれば、とりあえずハゼドンを励みに頑張ろうっ!…という意欲も沸いてくるというものですが、それがよりによって腰椎麻酔って、アンタ。。。 そんなん、 “禍福はあざなえる縄の如し” やなくて、 “禍いはウザったい長縄の如し” やんっ!…って、あ、長縄所長代理さま、某・水源地改良工事の完成検査の際は急な入院によって行けなくなった僕の替わりに現場代理人代理をやっていただきまして、まことにありがとうございました。書類も現場の掃除も何だか中途半端で、検査ではネチネチと苛められること間違いなしだったんですが、丁度いいタイミングで脚の骨を折っちゃったんですよね。まさに、不幸中の幸いと言っていいと思うんですが、ま、その時点で運を使い果たしてしまった反動で手術の前に嫌なことが続いちゃうのも、あるいは仕方がないと言えるかも知れませんなー。

 とまあそんなことで、嫌なこと第1弾の “点滴” 。 これはまあ、慣れました。確かに針を刺された瞬間はチクっとして痛いんですが、一度刺されてしまえばその後はあまり大したヤツではねーな。…といった感じでありまして、嫌さの度合いを海の生き物に譬えてみると、ま、ミズクラゲといったあたりでしょうか。 続いて第2弾の “筋肉注射” なんですが、これはかなり嫌ですな。僕は子供の頃からとっても注射が嫌いな子供でありまして、ま、注射が好きな子供というのはあまりいないとは思うんですが、どうして注射が嫌なのかと言うと、痛いからなんですけどね。 普通の皮下注射でもかなり痛いんですが、 「筋肉注射というのはもっと痛いらしいでー。」 という話を子供の頃に聞いて、大きくなったら筋肉注射だけはされないような立派な大人になろう!…と心の中で誓ったものでありますが、その願いも空しく38歳にして “筋注” 初体験をすることになろうとは。。。世の中、どんな不幸が待ち受けているか分かったものではありませんなぁ。 …と感慨に耽る間もなく腕のどころにブスっと針を刺されてしまったんですが、これがまた、ホンマに痛いやんっ!!…と言いたくなるような代物でありまして、だいたい筋肉に注射をしようという発想自体が間違っているような気がするんですよね。そんなことして筋肉痛にでもなったらどないしてくれるねん!? …と憤慨する間もなく、僕は手術室へと運ばれていくことになるんですが、生まれて初めて見る手術室というのは何とも実に、見事なまでに手術室でありましたなぁ。手術台があって、移動式の照明装置とかもあって、まさに漫画とかテレビドラマで見たことのある手術室のイメージそのものだったので、僕は何だか嬉しくなってしまったんですが、いや、そんなことで浮かれている場合ではありません。 僕はこれから “腰椎麻酔” などという、嫌さの度合いを海辺の生き物に譬えるとフナムシにも匹敵する最大級の嫌がらせを受けなければならないんですが、僕は手術そのものよりもむしろこちらのほうを恐れていたんですよね。 というのもその昔、腰椎麻酔について書かれた山下洋輔のエッセイを読んだことがあるんですが、そこにはこの世の地獄としか思えないような壮絶な実態が記されていたんですよね。

 腰椎麻酔というのは何でも、ベッドの上に横向きになってエビ固めのような体位を取らされ、腰に近い背骨の部分にブスっと針を刺されるそうなんですが、あまりの激痛に思わず逆エビ反り状になっちゃうらしいんですよね。 が、逆エビ反りになると注射の針が折れて危険なので、大のオトナが二人掛かりで逆エビにならないように必死で押さえ込むんだそうでありまして。 僕はその話を青年の頃に読んで、大きくなったら筋肉注射だけはされないような立派な中年になろう!…と心の中で誓ったものでありますが、その願いも空しく38歳にしてエビ固めされる羽目になろうとは。。。 でもまあ、話を面白くするために3割ほどオーバーに書いてるということも考えられますしね。 塩サバ通信なんて当社比230%くらいで大袈裟に書かれていることも日常茶飯事なので、さほど恐れることは無いのかも知れませんが、実際に背骨に骨を刺されてみると、おおっ、ホンマにめっちゃ痛いやんっ!! 苦痛のあまり、思わず逆エビ反りになりそうになるところを2人の兄ちゃんにエビ固めにされて、そういう拷問のような行為が5〜6回ほど繰り返されたでしょうか? そのうちに身も心もグッタリとなってきて、あまり痛みのほうは感じなくなってきたんですが、背骨に直接、ジゥ〜と液体が入ってくるのがよく分かって、何とも言えずに気色悪いこと、この上なし。 いやあ、聞きしにまさるほど、まったくもってロクなものではありませんなぁ、腰椎麻酔。。。

 ということで、いよいよ僕の左脚にメスが入れられることになったんですが、あ・あのぉ? 僕、つい先ほど麻酔をかけてもらったばっかりなんやけど??? そ・そういうことはもう少し時間をかけて、麻酔がしっかり効いてきたのを確認してからやったほうがいいと思うんやけど…? 局部麻酔だから意識ははっきりしているという話は聞いていたんやけど、ほ・ほら、僕、自分の左脚を触られたり消毒されたりしているのが、まだはっきりと分かるしぃ…? さ、果たして、この状態で手術される羽目になってしまったサバ君の運命や如何に? (次号に続く。)

 ということで今日はジャック・ウィルソンなんですが、いや、今日の前半ネタはずいぶんと短めで、あっさりしておりましたなー。 入院生活はあまりにも暇過ぎて、まともに原稿を書こうという意欲さえ薄れてしまって何よりだと思いますが、それはそうと、ジャック・ウィルソンという人はアレです。ブルーノートの 4000番代に2、3枚のリーダー作を残しているピアニストだよね。…とまあ、僕はそれくらいの知識しか僕は持ち合わせていなかったりするんですが、えーと 『イースタンリー・ウインズ』 とか 『ソング・フォー・マイ・ドーター』 といったアルバムがありましたかねー? 前者のほうはこのコーナーでも前に取り上げたことがあったと思うんですが、ホレス・シルバーの 『ソング・フォー・マイ・ファーザー』 をパクった後者のほうは、めっちゃ聴いてみたいっ♪…と思いつつ、いまだに入手出来ずにおります。ちなみにこれ、 『完全ブルーノート・ブック』 によるとパクっているのはタイトルだけで、中身のほうは父と娘とがまったく違っているくらい、違うみたいなんですけどね。なるほど、確かに娘の乳 (チチ) は見たりサワったりしてみたくなるものなんですが、父の乳は見たくもサワりたくもなかったりしますからねー。

 で、このウィルソン君、ブルーノートに数枚のアルバムを残して消えてしまったのかと思ったらそうではなく、調べてみると他のレーベルでも結構リーダー作を作っているようなんですが、今日はそんな中からフレッシュ・サウンドの 『ランブリン』 という1枚を紹介したいと思います。レトロな汽車の前にたたずむ、ちょっぴり情けない顔をしたウイルソン。 レタリングのセンスもどうかと思うし、ジャケットの出来としては決して褒められたものではないんですが、ヴァイブのロイ・エアーズをフィーチャーしたカルテット編成というところに僕は大いにソソられるものを感じてしまいました。好きなんですよねー、ヴァイヴ。 大人のオモチャには詳しいんだけど、楽器の種類については今ひとつ疎い。…という人のために説明しておくと、ヴァイブというのはアレです。正式名称はヴァイブラフォン、もしくはビブラフォン 【vibraphone】 打楽器の一。マリンバに似るが鋼鉄製。各音板の共鳴管の中に円板が組みこまれ、モーターで回転する。これにより共鳴音にバイブレーションが与えられる。…といった楽器でありますな。小学校の音楽会で 「こきりこ節」 とかを演奏する時に使う鉄琴という楽器の発展形と言ってもいいと思うんですが、このヴァイブを堪能するにはやはり、ピアノ・トリオだけをバックにしたカルテット編成がいちばん。 だけど、M.J.Q. みたいなクラシカルなのは、あまり好きではないのぉ。…といった趣向の持ち主である、そこのヴァイブ好きのお嬢さん。んじゃ、このジャック・ウィルソンとロイ・エアーズの取り合わせなんかどうかな? ま、ジャケットのセンスがあまりお気に召さないとは思うんですが、ジャズ・オリジナルを中心にした選曲も大いに興味深いものがあるし、とまあそんなことで、では1曲目から聴いてみることにしましょうかー。

 まず最初はアルバムのタイトルにもなっている 「ランブリン」 でありますか。フリージャズの旗手にして、隠れたヴァイオリンの名手でもあるオーネット・コールマンのオリジナルなんですが、マスオさん、しずかちゃんと並ぶ、世界3大・近所迷惑なヴァイオリニストと呼ばれてますからね。 が、ヴァイオリンは下手でも作曲のセンスには確かなものがありまして、あのM.J.Q. のジョン・ルイスがコールマンの作曲の才能を高く評価したというのは有名な話です。素人の耳で聴く限り、ただのヘンな曲やんっ!…としか思えなかったりするんですが、しつこく何度も聴いているうちに何故だか病み付きになってしまう不思議な魅力を持っておりまして、この 「ランブリン」 もそんなタイプの1曲であると言っていいのではなかろうかと。 ちなみにタイトルは “散歩” とか “ぶらぶら歩く” といった意味のようなんですが、なるほど、それでウィルソン君は汽車の前をぼーっとした顔付きで歩いているわけなんですな。曲調のほうも確かに、ぶらぶら歩いているなぁ。…といった感じがよく出ているんですが、ヴァイブとピアノのユニゾンでテーマが演奏されているところを見ると、2人でぶらぶら歩いているところなんですかね? ピッタリと息が合っていて、2人の “ぶらぶら” がかなりラブラブであることが窺われますが、その後ろでずっと、びよーん、びよーん、びょん、びょん♪…と単一フレーズを繰り返しているモンク・モンゴメリーのベースが何やらストーカー的な不気味さを醸し出していて、秀逸です。 で、ソロ先発はウィルソン君なんですが、コールマンの曲だからなのか、何だかけっこうフリーな感じがしますな。 といってもフリチン的な下品さは無く、前半はシングル・トーン中心に流れるような渦巻くようなグルーヴを表現し、そして後半に入ると怒涛の両手責めで60年代のアメリカ社会が抱える矛盾点を赤裸々に描き出すような姿勢に転じ、あとはえーと…、とにかくまあそんなことで、続いてはロイ・エアーズのソロでありますな。この人は後にファンクな世界でヤングな若者の熱烈な支持を得ることになるんですが、当時はストレート・アヘッドな新主流派風のプレイに徹しておりまして、ボビー・ハッチャーソンが好きな人であれば、きっと気に入ってもらえるんじゃないカナ?…という気がするわけなんですが、やや感情剥き出し気味であったウィルソン君とは対照的に、終始クールなプレイで演奏全体に落ち着きを与えておりますな。とまあそんなことで、最後に再び “ぶらぶら” でラブラブなテーマに戻って、おしまい。 曲そのものが変なので、一聴すると、ただの変な演奏やんっ!…としか思えなかったりするんですが、その実、じっくり耳を傾けてみると、それなりに奥が深いけど、やっぱり変な曲。…といったレベルには昇格するのではなかろうかと。

 ということで、次です。 2曲目はオリバー・ネルソンの 「ストールン・モーメンツ」 なんですが、これはアレですな。名盤 『ブルースの真実』 の冒頭を飾った名曲として広く世間に知られているので、今さら説明は不要かと思いますが、寺井尚子タンなんかも取り上げていたので、バイオリン好きギャルの間にも遍く浸透していると言ってもいいのではなかろうかと。いいですよねぇ、バイオリン。 美人バイオリン奏者とバイオマン。 サインを貰うんだったら、断然、バイオマンかな?…という気がするんですが、バイオリンの演奏を聴かせて貰うんだったらやっぱり美人バイオリン奏者のほうがいいに違いなくて、あまり楽器とは得意そうではないですもんね、バイオマン。 それはそうと、最近よく耳にする “バイオマス” って、 “バイオリンを弾くマスオさん” の略では無かったんですなぁ。…というのを僕はつい最近になって知ったんですが、この曲はアレです。ブルースなんだけど、ちっとも泥臭くなければ、土臭くもなく、おまけに乳臭くもない。 そのような意図の元に作られたブルースでありますので、ヴァイブのクールな響きにはぴったりと言ってもいいでしょう。 幾分クラシカルな響きのするウィルソンのピアノとロイ・エアーズの絡みによるイントロに続いて登場するテーマは、どちらかというと前半がエアーズ主導、後半に入るとウィルソンが引っ張るような形になって、ま、全体として2人は対等な関係にあると言えるかと思いますが、ソロ先発はリーダーとしての顔を立ててウイルソンのほうが担当しております。 でこの、テーマが終わってピアノのソロが出てくるところの雰囲気が、めっちゃ M.J.Q. の 「ジャンゴ」 やんっ!…という感慨に耽ってしまったんですが、アドリブに入ってちょっぴりテンポが速くなり、荘厳ムードから微妙にファンキー路線に転じるあたりの雰囲気がよく似ているんですよね。 で、このジャック・ウィルソンという人は、なかなか一言でその特徴を言い表すのが難しいスタイルの持ち主でありまして、出だしは微妙にジョン・ルイスやな。…と思っていると、途中から急に東海林太郎になったりして、いや、適当な比喩が思い浮かばなかったからと言って、ぜんぜん関係のない名前を出すというのはどうかと思うんですが、後半はちょっぴり前衛風になっていたりして、でもってソロ2番手はロイ・エアーズでありますな。 ここでの彼のプレイはアレです。適度な “ため” があって、なかなかにブルージーだと思います。 ブルンジ共和国に移住しても十分にやっていけるのではないか?…と思えるほどで、もしかしたら麒麟児とだって仲良くやっていけるかも知れません。うちの父方のばーちゃんは童顔フェチで、相撲取りの麒麟児が好きだったんですよねー。 ちなみに僕は、ちょっと不細工くらいのほうが可愛いっ♪…という趣向の持ち主でありますので、朝汐なんかが贔屓だったんですけどね。歴史上の民族では韃靼人 (だったんじん) が好きだったんですけど。 とか言ってるうちにヴァイブのソロは終わってしまって、ほとんど何の解説にもなっておりませんが、そんなことでまあ、テーマに戻って、おしまい。

 3曲目はJ.J.ジョンソンの 「キロ」 という曲でありますな。えーと、キロ、キロ…。特に何も思いつかないので先に進みますが、もしこれが 「ゲロ」 という名前の曲だったとしたら、それなりの展開もあったと思うんですけどね。 「グロ」 とか 「エロ」 でも大丈夫だと思うんですが、よりによって 「キロ」 。 行数稼ぎのしようがないタイトルを付けてしまったJ.J クンを恨むしかありませんが、曲自体はまあ、アップ・テンポで非常に調子のいいものだったりするんですけどね。 調子のいいテーマ部の演奏に続いて、ジャック・ウィルソンの調子のいいアドリブ・ソロが聴かれることになるんですが、時おり背後で聴かれるヴァイブのクールな音色がいい感じのアクセントになっております。 とか言ってるうちに今度はそのヴァイブが主役になるわけですが、ここでのロイ・エアーズは時おりオクターブ奏法のようなものを駆使したりして…とか言ってるうちにモンク・モンゴメリーのベースが出てきたりして、なかなか慌ただしい演奏になっておりますな、こりゃ。 ここでのモン・モンのソロは決して奇を衒ったものではなく、基本に忠実なウォーキング・ベース…というか、ここまでテンポが速いとベース・ランニングと言ってもいいかも知れませんが、とにかくまあ、いかにもベースらしい奏法を耳にすることが出来るシステムとなっております。 で、ピアノ・ソロと同様、時おり背後で聴かれるヴァイブのクールな音色がいい感じのアクセントになっているんですが、とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。3分39秒という短めの演奏の中にハード・バップの要素がギュッっと凝縮された、お金持ちの子の家に遊びに行った時に出されるカルピスのような1曲であると言えましょう。その家の経済状況が如実に反映される飲み物ですからね、濃縮タイプのカルピスって。 で、4曲目にはコルトレーンの 「インプレションズ」 を持って来ましたかぁ。マイルスの 「ソー・ホワット」 と並ぶ典型的なDドリアン・モードの曲でありまして、新主流派の香り高きジャック・ウィルソン&ロイ・エアーズのコンビが取り上げるには、まさに最適な選曲であると言っていいでしょう。演奏時間を見ると3分22秒となっていて、前曲同様、短期集中型で中身の濃いプレイが展開されていることが期待されますな。 ここはひとつイントロからじっくりと鑑賞していきたいと思うんですが、えーと、イントロはあれですな。ありませんな。イントロ無しで、いきなりテーマから始まっているんですが、ピアノの呼びかけに対して、ヴァイブが応答する…というか、各個人がわりと自分勝手に弾いているような感じがあったりするんですが、ピアノのソロ・パートに入ってからもロイ・エアーズは後ろのほうでわりと元気に活動してたりしますしね。微妙に集団即興演奏というか、デリケートなコレクティブ・インプロヴィゼーションというか、でもまあ、ここはやはりピアノが主役であると言ってもよくて、モード曲なのに妙に上下方向に振幅のあるウィルソンの自由奔放なフレージングが何とも言えずにエキサイティングです。 で、続くエアーズのソロは、ま、普通にモードしてるかな?…と言っていいかと思うんですが、終盤には4小節だけのドラム・ソロを挟んで同一フレーズを数回繰り返すなどして、なかなか工夫の跡が窺われる構成となっておりますな。  ということで、最後にテーマに戻って、エンディングということになるんですが、いや、期待に違わず短期集中型で中身の濃いカルピスでありましたなぁ。やはり、持つべきものはお金持ちの家の友達だよねっ♪

 と、ここまで来たところで我々は本アルバム最大の疑問点に直面することになります。この 「ザ・サンドパイパー・パート1」「 (同) パート2」「 (同) パート3」 って、何やろー? 見たところ別テイクというわけでもなさそうなので、おそらく組曲仕立てなんだと思いますが、どうでもいいけど “サンドパイパー” って、ちょっぴり語感が “ワイドハイター” に似ていて、黄ばんだパンツを漂白するのによさそうな気がしますよね。 どういう意味なのかと思ったら “いそしぎ” という鳥のことなんだそうで、それでピンと来た人も多いかと思いますが、これはアレですな。通常、「ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル」 というタイトルで呼ばれているスタンダードでありまして、それをどうやらジャック・ウィルソン君が組曲に仕立て上げたようなんですけどね。意欲的とも言えるし、無謀とも思えるし、どっちにころぶかは実際に音を耳にしないと何とも言えませんが、まずはえーと、 「パート1」 。 これはえーと、 “しみじみ荘厳モード” ですかね? バラード調に格調高く、胃拡張の人でも大丈夫そうなソフトな仕上がりでありまして、ピアノとヴァイブが交互に前に出てくる形で物悲しい旋律が演奏されております。3分15秒ということなんですが、ほとんどテーマ部だけで終わってしまって、でもって、続いては 「パート2」 でありますか。 今度はえーと、 “しみじみ荘厳モード” ですかね? さっきとあまり雰囲気は変わらないんですが、最初にベースのアルコが出てくる分だけ、荘厳ムードがより一層増強されているような気がします。テーマに入るとがちょっぴりテンポが速くなって、しばらくはロイ・エアーズ主導で主旋律が演奏されることになるんですが、…とか思っているとリズムが消えて再びスローになったりして、でもって、今度はウィルソン君の出番でありますかぁ。それなりにアドリブっぽいパートもあったりするんですが、基本的にはテーマをフェイクしていくような形になっていて、分かりやすいと言えば、ま、分かりやすい展開ですかね? ジャズ的なスリルという点ではやや物足りないような気もするんですが、再びヴァイブが前面に出てくるようになる 中盤以降はテンポが速くなってちょっぴり盛り上がるパートもあったりして、それなりに健闘しているとは思うんですけど。 で、ふと思ったんですが、これはアレですな。 極めてM.J.Q. っぽいスタイルであると言っていいかも知れなくて、もしかしたら原文ライナーではその点について言及されているかも知れないね?…と思ってチェックしてみたところ、そのような記述はまったく無くて、僕はすっかり捨て鉢な気分になってしまいました。 ま、終盤はかなり盛り上がっているみたいやから、それはそれでエエんとちゃうの。…と、レビューの姿勢も投げやりになっておりますが、ということで 「パート3」 。 急にまた静かになって、余韻を噛みしめるかのようなテーマの演奏があって、最後にちょっぴりボサノヴァっぽくなったところで、おしまい。 ま、なかなかの意欲作ではあると思うんですが、個人的には “真ん中の部” だけでよかったんちゃうの?…という気がしないでもないんですけどね。

 で、 「ザ・サンドパイパー」 に続いては、 「ザ・サイドワインダー」 でありますか。ほとんど洒落のような選曲なんですが、日本人がプロデュースしたんちゃうか?…と思ってしまうほど、日本人にウケそうな曲ばかりが並んでおりますな。 演奏時間は3分17秒と短めになっていて、もしかしてこれも、短期集中型の中身の濃い出来なのではなかろうか?…と、 “お金持ちの家の3杯目のカルピス” に期待してしまうんですが、結論から先に言ってしまうと、軽いノリの、ちょっぴり薄めの出来でありました。 さすがのお金持ちの家のお母さんも、ええかげんにせえ!…と思ったのか、ちょっぴり水の分量を多くしてしまった感じなんですが、いや、どこかで手を抜いているというわけではないんですけどね。ジャック・ウィルソン、ロイ・エアーズと続くソロはそれなりに充実していて、それなりに盛り上がっているんですが、ただ、後テーマに戻ったと思ったらすぐフェードアウトで終わってしまうエンディングに、ちょっぴり物足りないものを感じてしまうのでありました。カルピスの後は、モナミの白鳥みたいなシュークリームが出るのかと思って期待してたのに、何も出なかったやん!…みたいな。お金持ちの家のお母さんも意外とケチなんですなぁ。。。 ま、シュークリームがあるならカルピスと一緒に出される筈だから、その時点で事情を察しなければならなかったわけなんですけどね。 ということで、ラストです。 クレア・フィッシャーの 「ペンサティバ」 。 これはアレです。 3管ジャズ・メッセンジャーズなんかも取り上げているボサノバっぽい感じの曲なんですが、いいですよねぇ、ボサノバ。 ボサノバとナガナワだったら、僕は断然、ボサノバのほうが好きなんですが、ま、比べる対象があまりにも違い過ぎるような気もするんですけど。 で、このボサノバ調の曲をジャック・ウィルソンとロイ・エアーズはとっても普通にボサノバっぽくやっておりまして、こういう奇を衒わない素直なアプローチというのは、たいへん好ましいことだと思います。あまり奇を衒いすぎると、顔が脂でテラテラになったりしますからなー。 いや、ぜんぜん関係ないですか。 ヴァイブとピアノが絶妙に絡みつつ、明るく賑やかにテーマが演奏された後、ジャック・ウィルソンのソロが出てくるという算段でありますが、ここでの彼の軽快な弾きっぷりはピアノ検定3段に匹敵する出来のよさでありまして、いや、3段ではちょっと評価が低すぎますかー。僕は珠算も習字も4級どまりだったので、3段でも十分、すげぇ!…と思ってしまうんですが、シングル・トーンでシンプルにアドリブを開始して、次第にコードを交えたゴージャス路線に転じて演奏を盛り上げていくところなど、実にドラマティックで素晴らしい展開となっておりまして、途中、背後でヴァイブの音色がちょっぴり聞こえたりするところも、定番ながらなかなか粋な演出だと思います。ここはやはり、ピアノ検定6段への昇段を認めておくべきでありましょう。 で、続くロイ・エアーズのソロもピアノの勢いそのままに、最初からノリノリのノリピー状態でありまして、こちらはえーと、ヴァイブ検定6段といったところでしょうか? 甲乙つけがたい出来なので、あえて格差は設けないようにしておきましたが、ほらほら、奥さーん、僕、ヴァイブ検の6段持ってるんだよぉ!…って、ちょっぴり自慢出来そうな資格でありますなぁ。テクニックはそれほどでも無いんだけどぉ、何だか誠意が伝わってくるからぁ、とってもイイと思うよ、ロイくん♪…といったプレイなんですが、とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。 で、今日のところは以上です。

【総合評価】

 期待に違わぬ田川クン。…といった出来のよさでありまして、唯一、というか、唯二、 「ザ・サイドワインダー」 のフェードアウトと、 「ザ・サンドパイパー」 が3部構成でちょっぴりクドかったのだけは残念なんですが、ウィルソンくん、エアーズくん共に、ベストのパフォーマンスと言っていいのではなかろうかと。 選曲もいいし、ま、ジャケットのセンスはちょっと問題アリなんやけど、ジャズは見た目やないで、田川クン!…ということを改めて教えられた、そんな1枚なのでありました。


INDEX
BACK NEXT